第16話 オレ、魔法使い
「ねえねえ、いいでしょお父様、ほら、身なりもそこそこですしっ!」
「ふんっ、身なりの小奇麗な浮浪者は、大概あくどいことをしておるに決まっとる!」
なんかオレの処分で揉められている模様。
役人さんに連れられて、なにやら大きな街の城門に辿り着いたとき、一人の少女がオレをくれって言ってきた。
ほんと金持ちの考えてる事は分からねぇ。人は物じゃないんだぞ。
「う~ん、シュマも年が近い友人が居たほうがいいかも知れないな。それに君は……信用がおけそうだしね」
オレと孤児の女の子が入れ替わるのを黙認してくれた青年がそう言ってくる。
ところで、年の近いと言ってらっしゃいますが、彼女の年はいったい幾つなのでしょうか?
随分お若く見えるのですが?
「15歳だよ?」
中学生かよ!
オレもうすぐ18歳ッスよ? 中学生と同じ年齢に見えるッスか~。ああ、そういや2年前には小学生と間違われたか~。
そんなに子供っぽく見えるのかなあ……ちょっとワルっぽく髪とか逆立てたほうがいいのかな?
「君は確か冒険者だったね。ふむ、どんな武器を使うんだい」
「オレ、魔法使い」
「ハハハ、手品でも使うのかな?」
信じてもらえない模様。
「まあ、その様子なら荷物持ちか警戒要員か。どちらにせよ4人もの冒険者に推薦を貰えたという事はそこそこ役に立つのだろう」
バリバリに役に立ちまっせ。半分ぐらいの敵はオレがたおしたッス。
「父上、どうでしょう。まだ子供のようですし、まずは小間使いをさせてみて、使えるようでしたらシュマ付きにするというのは」
「こんなガキが役に立つものか」
「意外と使えるかもしれませんよ? 君、何か特技を見せてくれないかな」
特技ねえ……
オレはミズデッポウにして檻から水を出す。
「オレ、魔法使い」
そして先ほどのセリフをもう一度。
「ほう! 魔法が使えるのか! これは珍しい、うむ、そうだな小間使いぐらいなら……」
「ほんとですかお父様!」
「いや、ちょっ、これ魔法じゃな・」
オレの魔法を見て、お父様と娘さんは気をよくしていらっしゃる。
このまま、ここで雇ってもらったほうが町にも戻りやすいな。
しかし、青年はなぜか大層慌てておられる。
「ちょっと鍵借りるわね!」
そう言うと娘さんは、気が変わらないうちにとオレが入ってる檻の鍵を開ける。
その時だった!
檻の中に居た数人の少年が突然オレを突き飛ばすと、扉に体当たりをする。
そして開いた扉から……
「シュマ!」
扉から飛び出した少年達は、娘さんを抱きかかえてその喉にナイフを突きつけてきた。
「この時を待っていたゼ! さんざんオレ達の家族を連れて行ったむくい、今こそ受けさせてやる!」
「そうだ! お前も家族を失う苦しみって奴を味合わってみやがれ!」
「ヒッ!」
娘さんの喉から一筋の血が流れる。
「おっと動くんじゃねえぜ、少しでも動いてみろ、こいつを串刺しだ!」
少年達は娘さんを抱えたままジリジリと後ずさる。
「おい、俺達と一緒に逃げる奴はいないか! 今なら連れてってやるぜ!」
「戦利品もたんまりだぜ。このお嬢様も含めてな!」
少年達のその言葉に数人が頷く。
娘さんがガタガタと震えてさらに傷が広がっていく。
「や、やめろ、わ、分かった、お前たちの望むものをやろう。だからシュマは許してくれ」
お父様が震えながらそう懇願する。
「はっ、俺達が懇願した時に許してくれたかよ!」
「ざけんじゃねえぜ! 自分の時は許してくれとか都合が良すぎだろがっ!」
そのグループは数人に分かれて馬車を乗っ取る。そして町の外に向かって動き出す。
娘さんを抱えた少年は最後尾の馬車の幌から、ナイフを突きつけているのが良く分かるように見せ付ける。
「少しでも動いてみろ。このお嬢様の命はねえぜ!」
そう言って遠ざかっていく少年達。
お父様はボロボロと涙を流していらっしゃる。
お兄様もグッと噛み締めた唇から血が流れている。
随分離れただろうか、もはや追いかけても無理そうな距離になったとき、少年のナイフが娘さんから離れる。
それを待っていたぜ!
『赤外線スコープ・ON!』『望遠スコープ・ON!』
オレは少年の娘さんを抱えているもう片方の腕に狙いを定める。
うまく当たったのか、娘さんが馬車から落ちて転がる。
そしてオレは急いで走り出した。
最後尾の馬車が止まりそうになるがそうはさせない。
オレはひたすら馬車に向かって銃を乱射する。
攻撃を受けていると気づいた少年達は、そのまま一目散に逃げ出すのだった。
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