第15話
オレは急いで宿屋にとって帰る。
今、成人している女の子は……確かこの国は15歳が成人だと認められるんだったか。
オレの話を聞いた姉さんは腕を組んで唸って、
「家族……であれば推薦者は一人ですむんだが……、セイジ、とりあえず誰か一人嫁に娶れ」
なんてことを言ってくる。
それを聞いた孤児の女の子達は突然バトルを繰り広げる。
やめろお前ら、こんなとこで暴れるなって、あっ、姉さんにシバかれていく。だから言ったのに。
「ほらセイジ」
そう言ってボコボコになった女の子達をオレの前に並べてくる姉さん。
みなさん目がギラついています。今にも食べられそうなヤカン。
まてよ、家族であればいいんだよな? 何もオレが娶らなくても、冒険者になった孤児の男の子達がいるじゃないか。
あっちの方が数が多いし、とりあえず偽装結婚でもなんでもさせればいいんじゃね。
オレはそう姉さんに伝える。女の子達はいかにもガッカリな顔をしている。
「なるほどな、バルドック、ちょっと孤児の男どもを呼んできてくれないか」
「おう」
暫くして兄貴が孤児の男の子達を連れてくる。
皆、話を聞いたようで、顔を赤くしてモジモジしている。
お前ら、男女が逆じゃね?
「よしお前達、こいつら口説くまでここから出さないからな」
そう言って扉に鍵を掛ける姉さん。
「飯も抜きだ」
追い詰めすぎッス。あと女3人に男5人だからあぶれるっすよ?
それと、オレだけでも外に出してもらえませんか?
女の子のギラつく目がとても怖いんス。
「まあ、頑張れ」
あねさぁーーーん!
◇◆◇◆◇◆◇◆
オレの嫁はミミルちゃんだけだ! などど全員にドン引きされながらもその場をかわすオレ。
なんとか3組のカップルの誕生を祝われる。
あぶれた一人にはオレが後でいいとこに連れてってやると約束をする。
兄貴の耳元でとある建物の名前を出したら、そりゃもう大慌てで連れて行くと言ってくれる。
だがオレはそんな兄貴に小さく合唱するのだった。
扉の隙間から姉さんの輝く瞳が……
それから暫くして、またもやギルマスに呼び出される。
「セイジ、悪い知らせだ」
今度はなんすか?
「よその町からの情報で、なんでも未成年でも今回は連れて行かれているらしい」
なんですと!?
またもやオレは大急ぎで宿屋に戻る。
「セイジ、誰か嫁に……」
未成年はダメでしょ!
「いや結婚できるのは女性なら13歳から」
またもや女の戦いが勃発し始める。そして姉さんにシバかれていく。
「まあまて、さすがに全部はどうしようもない。役人が居る間、どこか避難させておくしかないだろう」
兄貴が言うには、役人の滞在期間は長くても一週間、短ければ3日とかもあるとか。
その間、孤児達を森の中に避難させておくしかないと。
役人達も森の中までは追ってこないだろうと。
「町に身分証の無い人間が居ないってのも不思議な話だからな。森に逃げたって伝えりゃちょうどいいだろ」
普通なら森に逃げた孤児は大抵全滅するから、役人も諦めるはずだと言う。
昼の間は誰か他の孤児に、夜の間はオレが見張ればなんとか森でも過ごせるだろう。
「セイジにはセキガイセンすこーぷ? ってのがあるんだろ? ほら暗いとこでも見える奴」
赤外線と暗視は違うのだが、まあ『赤外線スコープ・ON!』って唱えると暗いとこでも見えるようになる不思議。
あの女神かなり適当である。
とはいえ、ずっとONだと精神力? が持たない訳だが。
「冒険者でも雇っておけば問題もないだろう。結構溜め込んでんだろ?」
確かに、指名依頼は結構なお金になる。
そしてオレには、それを使っている暇は無い。結構溜まっております。
「ああ、任しとけ、なんならセイジ居なくてもいいぞ」
冒険者の人達は快く引き受けてくれる。
オレ達は身分証を持っていない子供達を引き連れて森に入っていく。
夜になるとオオカミ達がチラホラと姿を現すが、今のオレの敵ではない。
子供達も決して慌てることなくオレ達に守られている。
この様子なら問題はなさそうだな、と思っていたが、最後の最後で問題が発生するのだった。
「兄貴大変だ! フォルテの奴が、婚姻届出してなかったんだ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
オレは急いで町に戻る。
そこには今まさに檻に入れられようとしている孤児の女の子が。
随分抵抗したのか、体のあちこちに痣がある。
「待て! その子は、身分証、ある!」
オレは急いで役人に駆け寄る。そうしてオレの身分証を差し出す。
役人はオレの身分証を見て複雑そうな顔をする。
「兄ちゃん、それは兄ちゃんの……」
オレは目で口をつぐむように促す。
「兄ちゃん……」
役人の青年はオレと少女を交互に見比べる。
「女の子は連れて行かれれば……悲惨な目にあいかねない。男なら、まだ挽回もありえる……」
青年は小さな声で呟く。
そしてオレの目を見て、
「構わないのか?」
と、問いかけてくる。
それに対し、オレは力強く頷く。
青年は檻の鍵を開けると少女を外に出す。
「お前、なんで、届け、出さなかった?」
「だって、俺……やっぱり兄ちゃんとがよかったんだ!」
そう言って泣き出す。オレはそんな少女の頭をゆっくりと撫でる。
「ごめん! ごめんよぉ!」
「大丈夫、待ってろ、すぐ、戻ってくる」
そうしてオレは、少女の代わりに檻の中へ入っていくのだった。
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