第14話 みんな大好きマグロ…鳥?

『望遠スコープ・ON!』


 視界が急に狭まると同時、遠くの物がはっきりと見え出す。これ望遠スコープつ~より、だたの遠見の魔法だな。

 オレが冒険者になって1年近くが過ぎようとしている。

 1年もあったら、さぞかしレベルアップしていると思うだろ?

 ところがどっこい、この1年で獲得したレベルアップは、


 能力値上昇:飛距離アップ


 機能追加:望遠スコープ


 これだけだ。


 オレが冒険者になって以降、指名依頼が後を絶たない。

 それらはすべて、あの空とぶマグロこと、マグロ鳥(命名・オレ)のお肉の所為だ。


 オレが冒険者になった日、冒険者ギルドに居た面々がこぞってマグロ鳥討伐の依頼を頼んでくるんで、連盟依頼ってことにしてもらって、なんとか一匹仕留めて来たのを皆で分けた訳だが。

 持ち帰ったお肉が大層おいしかったらしく、それ以降も毎日強請られてくる。

 弓矢では届かない距離を飛んでいて、尚且つ、地上には降りてこないので、現状オレしか狩猟出来る人がいない。


 最初の頃は「孤児達の面倒見ないと」と言って断っていたのだが。

 そうすると冒険者さん達、孤児達に無料で武術を教え始めてさ。

 そのうち、オレが一緒に行かなくてもオオカミぐらいは仕留められるようになっていた。


 なので今度は「お風呂の用意が……」と言ったら、町の人達、総出で水路を引いてきてくれてさ。

 どんだけあの鳥食いたいのよ?

 それ以降、オレのお仕事は日がな一日、草原に寝そべってお空を見やる毎日。

 なんたる贅沢と思うだろう? だがしかし、ぼうずで帰っていくと責められるのなんのって。目を血走らせて探さねばなるめえ。


 しかもだ、かなり高いとこを飛んでる所為で、いきなり撃ち落すと、地面に着いたときにぐちゃぐちゃになってしまうので、まずは羽を撃って高度を落とさせてから仕留めなくてはならない。

 そんなの無理だべ?

 一応ぐちゃぐちゃでもお肉は食べられない事もないのだが。あんなのは見るのも嫌な状態。

 現代日本のおこちゃまには少々厳しいものがあるッス。


 一緒に付いて来る孤児の女の子達は平気な顔して解体しているんデスが。


 あの頃のオレはひたすら、部屋中に望遠スコーププリーズ!って書いた紙を張り巡らせていたことか。

 オレがレベルアップの為にダンジョン行きたいって言っても、


「レベルアップ? なんだそりゃ? おめ~の仕事はあっちだ」


 って、草原にむかって顎をしゃくるギルドマスター。

 練習の為にさんさんハンドガンを撃ちすぎて、いざ鳥を見つけた時に精神力? が無くて取り逃がしたのをチクられて以降は、


「無駄弾禁止な。おい、ちゃんと見張っとけよ」


 孤児の子供達に見張られる日々。

 オレの銃、まったくレベルアップいたしません。


「居ないな、今日はそろそろ帰るか」

「いいの兄ちゃん、またぼうずで帰ったら怒られるんじゃない?」

「何言ってんだ。オレにはこれ以外に仕事がある。そう、仕事があるじゃないか!」


 しかしだ! 最近オレの仕事が一つ増えたのだ!

 これで毎日お空を眺めるだけの日々も終わりだ!


「おうセイジ、帰って来たのか。それじゃミミルのこと頼むわ」

「ミミルちゃん~、いい子にしてたでしゅか~。セイジにいちゃんでしゅよ~」


 オレは宿屋の姉さんから赤子を受け取る。

 そう、宿屋の姉さんであるエステラさんと、門番さんのバルドックさんに待望の第一子が生まれたのだ!

 そりゃもう、かわいいのなんのって。オレだって、この子の為なら魔王だって倒してみせる!


「セイジはほんとミミル大好きだな」

「なにぃ! いくらセイジだろうと俺のかわいいミミルを嫁に貰おうなど許しはせんぞ!」


 いや、さすがに0歳児を嫁に下さいなんて言わないっすよ? たぶん。


「いいなぁミミルちゃん、俺もいつかはセイジ兄ちゃんの子を……」


 隣の女の子がブツブツ呟いている。


「ああ、そういやセイジ、帰って来たら冒険者ギルドのギルマスが顔出せって言ってたぞ」


 え~、今日ぼうずだったからあまり行きたくないんだよな。


「なんか孤児達の件で重要なお話があるとか言ってたぞ」


 孤児達の件? なんだろな?


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ようやく来たかセイジ」


 オレがいつもモンスターの買取をしてもらっていた冒険者ギルドに着くと、大勢の冒険者さん達が集まっていた。


「実はだな、近々役人が人狩りにこの町にやって来る事になった」


 ふむ、人狩り?

 オレが首をかしげていると別の冒険者さんが説明をしてくれる。

 なんでも人狩りというのは、不法滞在者や身分証明書を持っていない人を捕らえ、国外に強制退去させることなんだと。


 そういえば前に孤児達もそんな事、言ってたな。

 成人した孤児達を捕らえて連れて行かれるのか?


「前回の人狩りから2年ほど経っている。今成人している男子の孤児達は冒険者として登録されているが……」


 男子の孤児達は冒険者達に鍛えられ、もはやいっぱしの戦士である。

 本来、孤児などを鍛えても、体力不足だったり、栄養失調だったりでまともに使えはしないとのことだが。

 まあ、うちの子達は毎日オレのポーション水で食事しているし、食べ物だけは狩りや採取でたらふく食っている。

 ちょっとそこらへんのお子様よりも逞しく育っているのだった。


 なので、冒険者さん達も推薦するのにやぶさかではないと。セイジの育てた子なら問題はなかろうしなと言ってくれている。

 しかしながら、


「オレ達も戦えない奴を推薦する訳にはいかねえ」


 そう、解体組みである女の子達は未だ身分証を持ちえていない。

 となると、女の子達は町の誰かに推薦して貰うしかない訳で。4人ずつくらいならなんとかならないことも?

 オレは推薦してくれそうな人を思い浮かべる。


「俺達冒険者が冒険者を推薦するのなら4人ですむが、町の一般人が一般人を推薦するには……職種によって6から10人ほどが必要だ」


 えっ、さすがにそんなには居ない。

 これはまずいんじゃ……

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