第10話
「少ししみるが我慢しろよ」
「う、うん」
オレはミズデッポウから、ひたすらポーションをだして傷口を洗い流す。
効果・極小だけあり、あまり回復は期待できないが、それでも少しずつ傷が塞がっていく。
「俺大声出して、たまぁけりあげてやったぜ」
そう言って、ひきつった顔で笑う孤児の子供。
その顔は血だらけで、体のあちこに無数の痣が見える。
確かに、襲われたときは大声をあげて助けを求めろとは言ったが、この世界じゃそれは危険かもしれない。
問答無用で殴る蹴るの暴行とか、下手すれば口を塞ぐために殺されかねない。
「だから言ったろ、あんま女らしいかっこすんなって。周りの奴らは俺たちにゃ何やっても構わないって感じのがいっぱい居るからな」
「いやだってさ……その、少しくらいはさ……」
そう言って、こっちをチラチラ見てくる孤児の女の子。
そう、この子は俺なんて言ってるが実は女の子だったのだ。
孤児達は襲われないように、皆、男子の姿をしている。女の子だとばれるとガラの悪い奴らに襲われたり、奴隷として攫われる事があるとか。
ロリコンってのは、どこの世界にも存在するらしい。
しかし、コレは参ったぞ、オレが狩から帰ったと同時、解体用の待機組みの孤児達が駆け込んで来たと思ったら、どうやら孤児の一人がガラの悪い大人に乱暴されかけたらしい。
大声を聞いて駆けつけた冒険者の人に助けられたようだが、今後もこんな事が起こりえるとなるとどう対策を練ったらいいものやら。
こないだ姉さんが、孤児達は汚れた姿をしていたほうが襲われにくいと言ってたが、汚れたままにしておくのも結局病気になったら命が危ない。
「孤児の、大人達、居ないのか?」
オレは、ふと成長した孤児たちはどうしているのか聞いてみた。
帰ってきた答えは、運がよければ冒険者、普通なら娼婦か戦奴だとか。
偶に大きな街から役人が回って来て、使えそうな者をしょっぴっていくとか。
国は子供の面倒は見ないが、成長して役に立ちそうなら奴隷としてこき使うんだ、と大層ご立腹だ。
オレがここに来る少し前にも、役人が回って来て、成人した身分証明の無い人達が連れられていったんだと。
ということはあれか、オレも役人が来たらしょっ引かれていくのか? なんたって身分証明書なんて持ってないしな。
いや、今はそれどころじゃないな。とりあえずどうしたものか。
宿屋の姉さんとこ連れてったら怒るよなぁ。
宿屋の手伝いとかで押し込めないか? いやムリか。
お世辞にも流行ってるとはいいかねないし、そんな余裕はないだろう。
せめて安全に寝られるとこだけでも確保できれば……
「兄ちゃん、すげ~や、もう傷、治っちまった!」
ふと見ると、随分長い間ポーションを掛け続けた所為か、傷口が塞がっていた。
ふむ、オレも結構ポーション出し続けることができるようになったな。
あれか? 使えば使うほど、精神力? とやらが増えてんのかな?
オレはミズデッポウのポーションをお湯に代えて孤児の体の汚れを洗い流す。
「あっ、兄ちゃん、俺達こんなの作ったんだ。ほら、コレなら水が無駄にならねえだろ?」
そう言って孤児の一人が、木で作った大きなたらいの様なものを担いでくる。
ふむ、浴槽のようなものか。まてよ……
「そうだ、これだ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あねさん、お願い、ある」
「……はぁ、こうなると思ったよ。ダメだぞ」
オレは孤児の女の子だけを連れて宿屋の姉さんを訪ねる。
男はどうしたかって? 男なら襲われないだろ、頑張れ。
「あねさん、オレ、お湯出せる」
オレは姉さんを宿の外に連れ出して孤児たちが作った浴槽にお湯を流し込む。
姉さんはそれを興味深く見つめてくる。
「これ、入る。お肌、つるつる、バルドック兄貴、いちころ」
ちょっ、姉さん、痛い、痛いッスよ。
バルドックは関係ないだろっとアイアンクローをかましてくる。
オレ知ってるんすよ、兄貴が来るといつもこっそり見つめているのを。
「設備、作る、孤児たち、お手伝い」
さあ、ここからが問題だ。
今の姉さんの宿に余分な物を作る余裕はない。
オレは、この宿に風呂を作り、それを目玉にしようと持ちかける。
しかしながら、その風呂を作るには先立つ物が必要な訳で。
そこでオレは、ハンドガンを駆使してモンスターを狩ってきて、金に換えると約束を取り付けるつもりだ。
ただそれにしても、急には無理な訳で……何も宿屋の部屋とはいわない、物置でもいいので、先行投資と思って住まわせてもらえないだろうかと。
「ふう、セイジにゃ負けたよ。好きにしな、ただし、飯もなにも出ないぞ」
「ウスッ! 感謝するッス!」
なんとか女の子だけっていう制限で、物置に泊めてもらえるようになった。
よし、明日からモンスターハンターに転職だ。うむ、大丈夫かなオレ……
と、悩んでいたのもその日の夜までだった。
「エステラ、なんか宿を改築するそうじゃねえか、お前が孤児達の為に動くとは思わなかったぜ」
「ほんとにな、セイジにほだされちゃったかねえ」
「ちがいねえ……それでだな、俺にもひとつ噛まさせてくれねえか」
そう言ってバルドック兄貴が、でかい袋をジャラッっていわせながらカウンターに置く。
「なんの真似だい……?」
「俺の全財産だ、今まで溜め込んでたから結構あるぜ。これを、宿の改築費に当ててくれねえか」
バルドック兄貴……あんたはほんとに漢やわぁ。孤児達の為に全財産放出するって、やりすぎだとは思うが。
「俺はずっと思っていた、みすぼらしい姿をした孤児達をなんとかしたい。町をもっと良くしたい。と。だが、俺は思っているだけだった」
「そりゃ仕方ないよ、全部を全部、掬う手なんてありゃしない」
「だけどセイジはやっている。全部を救おうとあがいている。それを見て俺は気づいたんだ、俺に無かった物は孤児達を救う力じゃない、救おうとする覚悟だったんだと」
バルドック兄貴はじっとエステラ姉さんを見つめている。
姉さんはそれにドギマギして、頬をうっすらと染めていらっしゃる。
「それとな、もう一つ、俺は覚悟が足りなかったものがある」
そう言って木箱のような物を取り出す。
そうして一つ大きく深呼吸した兄貴は、
「エステラ、俺と、結婚して欲しい」
そう言うのだった。
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