第9話

「なあ兄ちゃん、俺にも魔法教えてくれよぉ~」


 今日も孤児達のお守りで森にやって来ております。

 オレは辺りを警戒しながら、そう言ってきた子供を見やる。

 そういやこの銃、オレ以外も使えんのかな?


 そう思ったオレは、その子に銃を手渡して使い方を説明する。

 まずはその子の手にオレの手を添えて引き金を引いてみる。

 ふむ、普通に弾が出るな。孤児の子は結構大きな反動と音に驚いている。


 何度か一緒に撃ってみて、今度は一人で撃たせてみる。

 しかし、カチンという音だけで弾が出ない。

 オレが触れてないとダメなのか?


 肩に触れてみる。今度は弾が出た。

 うむ、どこでもいいから触れてさえいれば他の人も使えるってことか。

 孤児の子は一人でムキになってカチンカチンいわせている。


「俺にも試させろよ!」

「あっ、俺も、俺も」


 次々と子供達が寄ってくる。

 お前ら、ちゃんと採取しないと今日の晩飯がなくなるぞ。

 子供たちは顔を赤くさせたり青くさせたりして唸っている。


「兄ちゃん、ちょっと魔力ながしてくれよ」


 オレは順番に子供達に触れ、魔力? を流して銃を撃たしてみる。


「くっそ、全然狙ったとこに当たんないよ」

「それに、こんなちっちゃな攻撃じゃ、当たってもしれてるよ」


 まあ、相手が木だと大してダメージが出てないように見えるからなあ。

 それ、普通に当たると人死ぬから気をつけろよ。

 しかしあれだ、人が銃を撃つとこ見てると色々気づかされるな。

 撃つ瞬間に反動でブレブレだ。あれじゃあ、狙ったとこに当たらないのも頷ける。


 今度のレベルアップは反動軽減とかにしてくれないかな。

 なんか紙に書いて飾っとくか?


 オレは子供達から返してもらった銃を構える。

 ちょうど、お空においしそうな鳥が飛んでることだし、アレ狙ってみるか。

 え~と、反動がおきないようにするには、脇をしめて、腕は伸ばしきらない方がいいんだったか。

 そして銃を目線まで持ちあげてっと。


「ギィイヤァーッ!」


 おっ、当たったぞ!

 やはり姿勢は大事だな。今更か。

 ん、なかなか落ちてこな・・


 ―――バキバキッ、ズトン!


「………………」


 でけえ。

 小さく見えたのは、随分高いとこを飛んでたらしく、落ちて来たそいつはオレの背丈すら越えそうなほどの大物であった。


「すーーっげっーーー!」

「ウギャー! でかーー!」


 一瞬あっけにとられて静まり帰っていた子供達が、我に返ったかと思うと大声ではしゃぎ始める。


「あんちゃんこれどうすんだ! 売んのか? 食うのか?」


 そうだなあ、よし、今日はこれで鳥鍋でも作るか~。

 お前ら、ちゃんと野菜とキノコ採ってこいよ。

 そう言うと子供たちは喜び勇んで採取を開始する。

 オレはコイツの血抜きでもしとくか。どうすんだ血抜き?


「兄ちゃん、血抜きは俺がやっとくぜ」


 すまないねえ、役に立たない兄ちゃんで。


「兄ちゃんはまるで神様だ! 俺達は兄ちゃんの為ならなんだってしてやるぜ」


 そうかい神様か。いやオレは、あんな神様だけにはなりたくないなあ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「とんでもないもの獲って来たなセイジ……なに、これから鳥鍋パーティだと。よしっ、手伝ってやるから俺も混ぜろ」


 うすっ、重くて堪らなかったとこなんス、お願いします。

 門番のバルドック兄貴は、そう言うと一人で担いで歩く。

 すげ~ぜ兄貴、俺たち5人がかりだったのに。


「いや、セイジにはほんと驚かされてばかりだな」


 なんでもこの怪鳥、地面に降りてこない鳥らしく、ずっと空を飛んでいるとか。空とぶマグロかよ。

 しかも弓が届かない高さを飛んでいるので、水揚げ? される事がめったになく、市場には出回らないそうな。

 そういや、よくハンドガンであの高さに届いたな。ああ、弾速・威力・回転数アップで自然と飛距離も伸びているのか。

 そしてそのお肉はまさに美味だとか。今から食べるのが楽しみだな。宿屋の姉さんも誘おうかな。

 バルドック兄貴にそう言うと、


「おお、いいんじゃねえか。エステラならでかい鍋も持ってるだろうし」


 そう言うんで先に宿屋に向かうことにした。

 宿屋に着いたオレ達を呆れたような目で見てくる姉さん。


「セイジ、バルドックまで……あのね、孤児達の面倒を見るのはいいことかもしれない。だけど、一人を救えば、皆を救わなくちゃならなくなるわよ」


 ふむ、オレはそもそも一人だけを救おうとか思ってないが?

 オレが不思議そうな顔していると、


「セイジはそんな難しいこたぁ考えてねえだろ。な」


 バルドック兄貴がポンポンとオレの頭に手をのせてくる。

 いやまあ、そうだけどさあ。


「お前はそれでいいんだよ」


 そう言って眩しげな目を向けてくる兄貴。なんなんだろうか。

 姉さんは店の奥から大きな鍋を持ち出してくる。なんだかんだ言って参加する気マンマンです。


「俺、皆を呼んでくるよ」


 孤児の子供達が仲間を呼びにいく。

 宿屋の裏手にて、オレのポーション水で鍋がグツグツ煮立ってくる。

 調味料は姉さんが提供してくれるらしい。


「うんめぇえ!」

「うほっ、こりゃいけるわ」

「ふぐふぐはぐはぐ」


 孤児達は満面の笑みで鶏肉を頬張っている。


「もう俺、今日死んでも悔いはない!」


 バカなこと言ってんなよ。

 そうこうして宴もたけなわになった頃、姉さんがオレを手招きしてくる。


「セイジ、子供達なんだけど、ずいぶん小奇麗になってるね」


 そりゃも~、ばい菌とか繁殖したらまずいじゃないですか。

 孤児達はオレのポーション水を毎日ぶっかけてやっている。

 こないだオレのミズデッポウがレベルアップしたのよ。


 今度は『流量アップ』に、弾は『お湯』が増えた。しかもこのお湯、自由に温度を変えられるときた。

 まあ、熱湯じゃないので沸騰させるとこまでは無理だけど。


「もうあんたが孤児達の面倒を見る事については何も言わない。だけどね、孤児達の安全を考えるなら、出来るだけみすぼらしいかっこをさせといた方がいい」


 えっ、どういうこと?

 オレは数日後、姉さんが言ったその言葉を、身をもって知る事になるのだった。

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