第2話
オレは、先ほど仕留めてきたウサ公を2匹並べて、宿屋のお姉さんの前で土下座をしている。
あの銃なんだが、弾倉に弾が入ってないのにもかかわらず、引き金を引くときちんと発砲される。
どういう原理か知らないが、たぶん、魔法的な何か? がかかっているのだろうと予想を立てた。
そしてオレは急いで門へ向かい、身振り手振りでウサ公を獲ってくる事を説明して外に出してもらう。
なんとかその日中に2匹のウサ公を仕留めたオレは、宿屋に泊めてもらうべく交渉に入っているとこだった。
お姉さんは、またもやため息をつくと、板と釘を取り出してきた。
これで穴を塞げってことッスよね! 了解ッス、マム!
オレは急いで部屋に行き内から穴を塞ぐ。
オレの素早い動きに満足したのか、お姉さんは満足気に頷くとウサ公を担いで歩き出す。
凄いッスね~。片手ッスか。力持ちッスね~。え、オレにもついて来いって?
了解ッス、あ、一匹持ちましょうか?
お姉さんについて行くと、なにやら怪しげな酒場のような場所に入って行く。
そして奥の大きなカウンターにウサ公を寝かせる。
オレも真似して同じようにウサ公を置く。
と、奥から男の人が出て来て、そのウサ公をジロジロと眺めている。
お姉さんは手でウサ公のシルエットをなぞり、首をキッと欠き切る仕草をしたかと思うと、カウンターを指差す。
あれかな? ウサ公、獲って来たらここに持って来いって事かな?
男の人が引っ込んで暫くするとお金を持って戻って来た。
なるほど、ここで買い取ってもらえるって事か。
オレは手渡されたそのお金を恭しくお姉様に差し出す。
と、回りの人達が呆れたような視線を、お姉さんに向けてくる。
お姉さんは慌ててオレの手を押し返すと、引き摺るようにして外に連れ出していく。
あれ、もう修理代はいいのかな?
お姉さんは外に出て、またもや呆れたようなため息をつくと、オレの頭をコツンと小突いてる。
どうやら、これで許してくれたようだ。
オレはその日、なんとか宿屋に泊めてもらい、異世界での一日目を終了するのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そうこうしているうちに幾ばくかの月日が流れた。
――バンッ!
本日もウサ公を求めて彷徨い歩くオレ。
このウサ公、結構おいしいらしく、1匹で2日分の宿泊費となる。
今のオレの生命線である。
「ふう、当たらねえなあ」
しかしながら、その素早さには定評があるらしく、なかなか捕まえる事が出来ないようで。
今も2匹目のウサ公を取り逃がしてしまったとこだ。
「そろそろまずいか?」
あとこの銃、どうやらオレの精神力? らしい何かをエネルギーとしているようで、使いすぎるとぶっ倒れた。
いや~、町をすぐ出たとこで、ほんと良かったよ。
もうちょっとで、オレがウサ公のエサになるとこだった。
ほんと門番さんには足を向けて寝られないな。
オレがぶっ倒れたのを見て、すぐに駆けつけてくれたらしい。
「おう、今日はぼうずか?」
「あいつは、すばしっこいからな、そんな落ち込むな」
手ぶらで帰ったオレを門番さん達が励ましてくれる。
最近やっと、何を言ってるか分かるようになってきた。
あれだ、英語も現地で過ごせば上達も早いって奴か?
とはいえ、しゃべる方はまだまだなんだが。
オレは、その励ましに対して礼を返して町へ入る。
「兄ちゃん、今日はうさぎねえのかよ」
「うさぎ肉くれよぉ~」
そこへ、みすぼらしい身なりをした子供達が寄ってくる。
どうやら町の孤児達らしい。
町の人達は、一度でも、めぐんでやるとケツの毛まで抜かれるぞって忠告してくれるが、オレは見て見ぬ振りもできぬ日本人。
解体を頼む代わりに、幾つかの肉をおすそ分けしてあげていた。
解体して持っていくと、いくらか高く買ってもらえるのだ。
「すまぬ、ない」
「ちぇ~、まあ、無いんじゃ仕方ねえかア」
「兄ちゃん、もっと上達してくれりょ~」
言いたい放題である。
オレは、そいつらの頭にゴンゴンと拳骨を落として宿屋に向かう。
「なあなあ兄ちゃん、魔法使いなんだろ?」
「すげ~よなあ、こんな田舎に魔法使い様が来てくれるなんてな。ちょっと魔法を見せてくれよぉ」
子供達は肉が無いとなったら、今度はしきりに魔法が見たいと言ってくる。
魔法ねえ、まあ、弾が精神力? だから、魔法といえないこともない。
「魔法使い、めずらしい?」
オレは、そう子供達に問いかける。
「ああ、そりゃ珍しいに決まってらぁ。魔法を使える奴は大抵大きな街に行くからな」
「こんな田舎で暮らす理由もないしね~」
なるほど、魔法を使えるということは、人より優れているということ。
街に行けば、その優れた能力で引っ張りだこだと。
と、いうことは、オレも大きな街に行った方がいいのか? しかし……万が一、この銃盗まれたら終わりだしな。うん、やめておこう。
「ウサギ以外にも、オオカミとか狩ってくれればもっと嬉しいんだけどね」
宿屋に着くと、お姉さんがそう言ってくる。
「オオカミ、おいしい?」
「いや、食べるんじゃなくてね、ほら、あいつら畑を荒らす上に、毎年子供とか襲われてるからねぇ」
オオカミも、そこそこのお金で引き取ってくれるらしい。
害獣駆除の意味合いで。
それに、毛皮とか素材としても結構重宝されるとか。
しかしながら、オレも一度、森の近くまで行ったときにオオカミと出くわしたことがあるが、アレは無理だ。
撃った弾を回避しながら近寄ってくるんだぜ?
もはや狙いをつける余裕などない、ひたすら連射するのみだ。
運が悪けりゃガブリといかれる。むしろ、運が良くなけりゃ当たりゃーしない。もう2度と森には近づきません。
だが、それから数日後、そういうことも言ってられない事態が発生するのだった。
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