1-6 この世界
俺は今、馬車に乗って眠ってしまっている。なぜこんなことになっているのか。まあ、単なるご厚意で乗せてくれただけなのだが、大変ありがたいことだ。しかし、その馬車を引いているのはって、こう呼んではいるが実際に引いているのはアヒル似ていてそれを馬並みにまで巨大化させたかのような動物なのだ。
そして、その手綱を持っているのは正にファンタジ―世界にいそうな、水色の髪の女の子だった。だが、勿論二人きりなどではない。他にも女性が2人と性格はともかく、明らかに日本でだったら即刻通報されそうな装備を着けた男が3人いた。
「お、目が覚めたか。大丈夫か?」
「あ、はい。食料を親切に分けてくださってありがとうございます」
「お腹が空いていたようだったから分けてやったが。いきなり食料食べた後寝ちまうもんだからどうしたのかと心配したもんだぞ。もし死んじまったら、食料代が貰えなくなっちまう」
「ごめんなさい...」
俺は少し気まずそうに言った。周りは全員知らない人。そして、助けてくれたある意味命の恩人でもあるのだ。それに異世界初めての人間。関係を粗末にするような行動を取ったら目も当てられない。
「あ、眼覚めたんですね」
すると、さっき言った女の子が声を掛けてきた。
「はい。助けてくださりありがとうございました」
「いえいえ。私に言わないでください。助けたのは冒険者の方たちですから」
俺は、なんか物凄ーく日本でも聞きなれたような単語を今耳にした。
「冒険者?」
すると、赤い髪の女性が目を丸くして驚いて聞いてきた。
「冒険者を知らないの?」
「はい」
「冒険者を知らないなんてど田舎の人...?」
そう言って困り果てたような顔をしながら俯いた。だが、ここで俺の介入する場は無い。何も知らないような人が突然言い出すのも気が引ける。この反応は冒険者は知っていて当たり前であるということなのだろう。
ところで、ここまでの出来事を振り返ってみる。
転生初日、どこなのか分からない地平線まで見えるようなほど広大無辺な平原にいる。情報ゼロ。変な角ウサギに襲われる。
2日目、キャンプから出てくじを引いてみると角ウサギ集団が召喚されて襲ってくる。逃げる。森の方向に行ってみる。道っぽいのを見つけて歓喜。適当な方向に道沿いに歩いているうちに限界が来てぱたりと倒れる(ただし、意識はある)。暫くすると、この馬車がやってき...だから馬車じゃな...もう、馬車でいいや。で、これがやって来て道端に倒れている俺を親切にも拾ってくれ、食料をくれたあと、眠気が襲ってきて眠る。そして、目が覚めて現在に至る。
よく思い出してみると、散々だったな。
「おい、こいつの管理は暫くこちらに預からせてもらう。良いな」
「はい」
男たちのリーダー格っぽい人がこちらを鋭い目でこちらを見てきた。青色の髪の人だ。そして、少し低い声でこちらに質問をしてきた。
「まず、正直に答えてくれるな?」
「え、あ、はい。もちろんです」
「まず、名前は?」
「ひらわ かなめです」
「ひらわって姓名なのか...」
俺はそれを聞いた瞬間ハッと気づいて訂正しようと慌てて言った。
「いえ、ひらわじゃなくてかなめの方が姓名です」
「何? 変わった名前の構成だな」
少し戸惑ったのか驚いた顔で言う。
「出身は、どこだ」
「うッ」
俺は、どう言おうか迷って口ごもってしまった。それを不審に思ったのか更に深く聞いてきた。
「何か不味い事でも有るのか?」
「...日本です」
「日本? そのような国はこの辺りには存在しないぞ」
「えっと、極東にある国なんですよ」
「極東...? そこの国では×××語が知られているのか?」
何と言ったのか聞き取れなかった。しかし、聞こえたのはおそらくこの世界の本当の言語なのだろう。このような専門的な独自の地名とかは確かにどのような形で有れ訳すのは難しい。
しかし、困った。こんな、スキルが無かったら一ミリも聞きとれないであろう言語は勿論日本で話されているわけが無い。ここは、後ろめたいが嘘を言いうしかないだろう。
「はい」
「ふーん、まだ知らない国が有ったとは。今度行ってみたいものだ」
ごめんなさい。有るのは異世界です...
「お前は今何歳だ?」
「16歳です」
「16!? 13位に見えたが...。まあ、良い。そんなものか。怪しくないとも言い切れないからな。悪いが町に着くまで、何か変な行動を取ろうとするなよ」
「はい...」
街に着くまでどの位かかるのか聞きたかったが、今の俺には言えそうになかった。そういえば、この人はどの位の強さなのだろうか? 色々有り過ぎてて鑑定の存在を忘れてしまっていた。変な行動はとるなと言われているが気づかないだろう。
「鑑定」
その途端、弾かれる音がした。しかし、耳では無く脳に直接入ってきたかのような音だった。黒いウィンドウは表示されない。もう一度不思議に思って鑑定と言う。
だが、やはり何も起きなかった。しかし、魔力が抜けている感覚が有るということは発動したものの不可能だったということなのだろう。何故表示されないのだろうか。次に近くにいる2人を鑑定してみることにした。
でも、同じようなことが起きて表示されない...。鑑定が使えない? 怖くなって自分を鑑定する。便利というのは大変良いものであり怖いものである。いつの間にか依存してしまい、それがなくなった途端に拒絶反応を起こすことになるのだから。
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名前 平和 要
種族:人族
年齢:16
職業:平和導師
lv.3
体力:43/43
魔力:29/37
筋力:43
防御:40
魔功:37
魔防:37
俊敏:37
器用:37
SP:鑑定lv.1[97/100],家生成lv.1[67/100],テイクオーバー、不老
スキル:異世界総言語、長剣術lv.3[7/900]
称号:平和導師の証、異世界人
経験値:1244/1331 PP:0 閉じる
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ちゃんと見ることが出来た。でも、なら、何で見れないんだ? これは、鑑定に答えが有るのか?
鑑定lv.1[97/100]の所を鑑定ってややこしいがしてみることにした。
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鑑定
鑑定とは、あらゆる森羅万象の性質、特徴などの情報を
調べることのできる能力である。
また、この能力にはlv.が存在し、鑑定対象とのレベル差や
次元の差により能力が十分に効果を発揮しないことが有る。
この能力は、相手の魔力に干渉し相手の情報を探る能力でも有る為
稀に気づかれることが多い。また鑑定lv.が低いさい荒くなるなめ、
より注意が必要。
閉じる
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何か、普通使われないような言葉が沢山出てきたが理解は出来たし気にしないことにする。要するに、レベル差が有るから鑑定できなかったということか...。それにしても、まさか気づかれる危険性も有ったとは気づいてなくて、今気づけて良かった...。変な疑いかけられたら堪ったもんじゃないからな。
馬車に乗っていると、前の車窓から見える景色は最初森だったのが、川や傾斜のあるような場所に差し掛かった。しかし、これが魔法なのだろうか?
たまに、巨大アヒルの方から何かを感じた。あのホーンラビットでさえ魔法を使ったところは見てはいないもののステータスに火魔法が有ったのだ。ならば、使えて当然なのだろう。そして、この馬車は木造である。しかし、ここにも僅かにある気がした。
前から太陽が降りてきて、やがて夕になって沈みゆき暗い夜を月が照らしていく―
この世界の文明は、どうなってんだろうな...俺は期待しながら想像を膨らませた。
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