第2話


『リビングデッド』


 十年程度の浅い歴史を持つその存在は、生物と表現すべきか無機物と呼ぶべきか。

 とりあえず、何にせよ生命活動は維持していないことを明記しておこう。


 彼らの心臓は動いていない。

 そのはずなのにふらふらと歩き回ったりする奴らだ。

 もちろん彼らに知能は確認されていないのが現状。

 生前の質問や幾つか簡単なテストを行った記録があるが、何の反応もなかった。


 そんな彼らが何故動き回るのか、それは謎に包まれたまま、現在も研究が続いている。



 さて、動く死体だなんて言ったら、ゾンビ映画よろしく人を襲ったり食らったりするイメージが強いのではなかろうか。

 至極一般的な捉え方だ。

 確かに『リビングデッド』の発見者たちが一番最初に危惧したのもそのこと。

 この死体に襲われて自分たちも同じ動く死体になるのではないか、ってね。


 しかし、彼らは違かった。

 彼らは人を襲ったりなんかしなかった。

 食らったりもしない。

 むしろ彼らに触れても、……したくもない話だが体液を摂取しても、同じ『リビングデッド』になることはないのだ。


 穏便で無害なゾンビ、とでも言えば伝わるだろうか。


 彼らは意味もなくふらふらと徘徊するだけで、そのほかに自分から行動することはない。

 こちらが悪意を持って彼らを傷つけても、彼らはボーと突っ立ってるだけ。何の抵抗もしない。


 食べ物を摂取することもない。言葉を交わすこともできやしない。

 でもそこに存在するようになった、彼ら。


 死んでいるけれど、死んだままに動き続ける彼らを、『リビングデッド』と呼び始めたのはどこの誰だったか。


 本来は『生ける屍』というよりも、『死んだように生きる人』の意味を持つ、やや皮肉めいた名称。


 それが定着したのが、今現在の世界である。



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