105.春休みの一コマ~陸~

 春休み、4月になった。去年の俺はサナリーとの新生活が始まったばかりで、毎日ドギマギしていたものだ。懐かしい。


 梨花は花粉症で、東京の花粉に慣れないらしく、3月はマスクをよく着けていた。最近やっと落ち着いたそうで、今は可愛い素顔を晒している。


 その梨花は先月から匿名でブログを始めた。俺と紗奈の組み合わせの交際は公表しているが、梨花も外の人たちに惚気たいというのが本音らしい。可愛い奴め。

 それで三人での同棲を、居住地などを隠したうえで書き連ねているのだ。もちろん添付画像もぼかした物を使っているし、本人特定がされないように細心の注意を払っている。


 日曜日のこの日、紗奈は朝から資格試験の予備校に行っている。1月から通い始めた。宅地建物取引士の受験のためだ。毎週日曜日は朝から予備校に行き、昼の3時頃に帰って来る。


「資格試験のための予備校なんてあるんだ……」


 通い始める前はそんなことを言っていた。独学で勉強をしても合格はなかなか難しいだろうと、川名さんからのアドバイスだ。そこで俺は、受講料は事務所が出すからと、紗奈に通うよう勧めたわけだ。


「教室、年配ばっか。一番若くて20代前半。中には40代や50代もいる。30代が一番多いかな」


 今ではこんな話をしてくる。それでも紗奈は勉強を夜遅くまで頑張っているようで、学校の勉強と仕事と並行なので感心している。

 息抜きになればと思い、新学期が始まったら、月一回は土曜日にデートにでも連れ出そうと思う。梨花とは日曜日の中で部活がない日にデートができるわけだし。

 梨花と紗奈もお互いとのデートはしたいだろうから、それには配慮する。それから三人でも遊びに行きたい。ただ、梨花は海王の生徒に見つからないように遠出だが。


 紗奈が予備校の日で梨花が家にいる時は、梨花が昼食を作ってくれる。梨花もそれなりに料理はできる。最近は部活の影響がない時に、よく紗奈を手伝っているのでレパートリーも増えた。お互いに一緒にいるのが前より楽しいらしく、かなりラブラブだ。


 昼過ぎ、俺はリビングのソファーで寛いでいた。今日、事務所は定休だ。すると部活を終えて帰って来た梨花がリビングに入って来た。まだ制服姿だ。


「おかえり」

「ただいま」


 梨花は真っ直ぐ俺の隣に来てソファーに座った。すかさず俺の腕を抱え込む。


「お昼何食べた?」

「牛丼テイクアウト」

「ごめんね、作ってあげられなくて」

「いいよ、気にするな。付き合いも大事だから」


 今日の梨花は木田を含めたサッカー部の数人と練習後、昼食を食べてから帰ってきたのだ。予め聞いていたし、俺としては特に問題ない。


「最近忙しい?」

「見ての通り、日曜日に休みが取れるほどの余裕はある」


 とは言っても、まだ春休み。もうすぐ学校が始まる。そしてこれからは会社設立の準備が始まる。紗奈はすでに資格試験の受験勉強を始めているわけで、俺の通常業務の負担は増す。しかも大学受験と並行。俺がのんびりしていられるのもこの春休みまでか。


「じゃぁさ、始業式の日、学校終わったらランチに行こうよ? 紗奈も一緒に」

「いいね。仕事と部活の折り合いがあって、なかなか三人で遊べないし乗った。それなりの店、予約しとくよ」

「やった。紗奈にも言っとく」


 あと数日で始まる新学期。その始業式の日、学校は午前で終る。その日は入学式前日なので部活も停止。学校が入学式の準備に追われるから。梨花は誰とも放課後に予定を入れていないのだろう。


 俺は三年生になるのか。紗奈と梨花は二年生だ。早いものだな。三人での生活も一年を過ぎたのかと思うと感慨深い。色々なことがあった。やっぱり一番の思い入れは三人での同時交際が始まったことか。


「先輩」


 梨花がそう言って俺の膝に跨ってきた。そして俺の首に腕を回す。俺も反射的に梨花の細い腰に腕を回した。間近で見る梨花の笑顔、可愛いな。


「どうした?」

「スキンシップ」


 そう言ってキスをしてくる。もちろん俺はそれに応える。


「梨花ってキス魔だな」

「そうかも。キス大好き」


 梨花が再びキスをしてくる。お互いに舌を引っ込めた状態で唇を食べ合う。こういうキスも俺は好きだ。


「先輩と紗奈はいつでも嫌がらずにしてくれるから大好き」

「他の人は違うのか?」


 俺の意地悪な質問に頬を膨らませる梨花。それを見て俺はクスクスと笑う。


「他の人としてるわけないじゃん。言葉の揚げ足取らないで」

「ごめん、ごめん。まぁ、俺も梨花と紗奈とのキスが好きだからいいけど」

「へへ。先輩、キス上手だもんね」

「そうなのか? 梨花の方こそ」


 そして三度キス。今度は梨花の舌が入ってきた。こうなるとムラムラするんだよな。すると徐々に手が下りるのだ。


「エッチ」

「だって……」


 梨花のスカートの上から身体を触ったことを咎められた。ただ言葉とは裏腹に膨れた様子がない梨花。


「元気になってるし」

「そりゃ、なるよ」


 そう言って梨花が俺の大事な所を摩る。梨花の方こそエッチではないか。


「今ここでする?」

「いいの?」


 コクン。梨花が頷いてくれた。誘ってくれた。それならば遠慮なく。制服姿の梨花、萌える。


 高校生同士の同棲。しかも三人同時交際。完全に性が乱れている。梨花と付き合う前は梨花がブレーキになってくれていたが、今やその梨花もアクセルだ。良くないとはわかりつつも、止められない。


 しばらくすると紗奈が帰ってきた。玄関からの「ただいま」の声でわかった。俺はソファーで梨花と対面で繋がった状態。梨花のスカートで隠れてはいる。しかし着た状態の服は乱れている。一目で何をしているのかわかってしまう。


「紗奈帰って来ちゃった」

「離れるか?」

。まだ足りない」

「うぅ……」


 なんて萌え発言を。こんなに可愛い梨花に求められるなんて。おかずにしていた去年の俺に言ってやりたい。


 ――その夢は叶うからな。


 ガチャ。


「ただい――。って、あぁ! ずるい!」


 リビングに紗奈の登場である。そして紗奈も参戦。こんなに可愛い紗奈にも求められるなんて、感無量だよ。

 て言うか、紗奈とは梨花が部活でいない昼間によく絡んでいるのだけどな。春休みだから。まぁ、その分梨花とは夜だけど。俺が寝室から追い出されることもよくあるけど。そう、たまにではない。これが結構多いのだ。紗奈もかなり梨花に染められたようだ。


 運動を終えて俺は書斎に入った。定休日だが、少しだけ仕事をしよう。サナリーも一緒に書斎に入る。紗奈は資格試験の勉強。梨花は……、なんだろう? たぶん暇なんだろう。こうなると梨花はいつも俺達の邪魔をしない程度に書斎にいる。二年に上がる春休みは宿題もないし。


「あぁー! 何だよこれ!」


 時々紗奈が発狂する。過去問題集をやっているようだ。慣れない専門分野の勉強。教材の中にある問題集は過去問題のみ。これを何度も解くことが合格に一番効率的だとか。間違えた問題はテキストで確認しての繰り返しだ。


「兄弟姉妹だって相続人になりうるのに、被相続人が遺言を残したら兄弟姉妹は遺留分がないって何でよ!」


 民法の分野のようだ。梨花はぽかんである。なかなか難しいことを勉強しているんだな。俺も大学は法学部を目指すとは言え、まだ付いていけない。


 とは言え、相続か……。仕事を手伝ってくれている紗奈と付き合うようになってから、徐々に考え始めた紗奈との将来。そして今は梨花もいる。梨花は将来一般企業を目指すのだろうか? 秘書の仕事に興味を持ったことは聞いているが。


 俺はもうすぐ18歳。親の同意がいるとは言え、結婚ができる年齢になる。紗奈と梨花に関してはすでに結婚できる年齢だ。

 未成年者が結婚をすると、多くの法律で成人としてみなしてもらえる。事業をしている俺には魅力的なことだし、紗奈に対しても梨花に対してもそれだけ真剣な想いを持って付き合っている。

 ただ、日本は重婚が認められていない。ずっと三人で暮らしていきたいのだけど。俺は紗奈と梨花二人がいる家庭に憧れている。そうすると資産のある俺は今のうちから色々と考えないといけない。


「あぁー! 何だよこれ!」


 しばらくして再び紗奈の発狂。資格試験の勉強ってストレスが溜まるようだ。高校や大学の受験勉強とは勝手が違うのだろうか? それとも紗奈の性格か? とにかく俺にも将来降り掛かること。覚悟はしておこう。


「なんで日本は都市計画区域の内外に別れてんのよ。しかも都市計画区域内なのになんで市街化を抑制する市街化調整区域があるのよ。都市を計画するんじゃないの?」


 愚痴のように言う紗奈。どうやら都市計画法の分野に入ったようだ。地元にいた時から不動産取引に興味があったからそこは少しわかるぞ。

 地元には市街化調整区域があった。農林水産の土地が主の区域で、爺ちゃんの家の田んぼがそうだ。固定資産税も安いらしい。都市には田園都市も入っているのだよ、紗奈。

 上京して知ったが、東京の人にはあまり縁のない区域だ。上京してから仕事を手伝っている紗奈にとっても難しいのだろう。けど俺は口を出さない。結局深く質問をされても答えられないから。


「紗奈、難しそうなことやってるね」


 梨花がぽかんとしたまま言う。まぁ、紗奈のストレスは見て明らかだからな。


「うぅ……、梨花……」


 意識した甘え声を作って梨花を見る紗奈。梨花に甘えたってどうにもならないだろうに。俺に対してもそうだが。会社のためにしてくれているとは言え、力になれなくてスマン。


「夜、いっぱいいいことして」


 そっちかよ。さっきしたばかりだろ。どれだけ元気なんだ。


「うん。してあげる」


 梨花は乗り気な顔で同調するし。君もどれだけ元気なんだよ。俺の体力と性欲も人のことは言えないが。今では金曜縛りがなくなってそれを痛感している。


「先輩、今日は紗奈のベッドで寝てね」

「また俺がハブかよ……」

「先輩、お願い」「「ね?」」


 小首を傾げて自然な笑顔。二人して破壊力抜群のおねだり。そんな顔を向けられては。


「わかったよ。楽しんで」


 笑顔で承諾だ。これに弱いんだよ。結局追い出されるのはまた俺か。まぁ、紗奈と梨花への贈り物として買ったダブルベッドだ。それだけ重宝されればベッドの付喪神もさぞ喜んでいるだろうよ。


「「先輩、ありがとう」」


 そして二人は満面の笑みで礼を口にする。その笑顔を二人して俺に向けてくれるのであれば俺は満足さ。一緒に幸せになろうな、紗奈、梨花。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る