92.お泊りデート~梨花~
夜、レストランの食後に会計をしようとした麻友さん。しかしウェイターに言われて財布を戻した。そしてあたし達は二人でレストランを出た。
「梨花ちゃん、いくらだった?」
「えへへ。秘密」
「だめよ。高校生に払わせるなんて」
「ぶー。じゃぁ、タネを教えてあげる」
「タネ? 私は種ならいらいわよ」
その種ではなくて……。種明かしのタネのことだよ、レズビアンの麻友さん。ここではまだ下ネタ禁止だぞ。
「陸先輩に持たされたお金なの」
「天地代表に?」
「うん。あたしが麻友さんにたくさんお世話になってるからご馳走してきなさいって」
「それでお店も今日は梨花ちゃんの指定だったのね」
「そうだよ。それに陸先輩も先月麻友さんにお世話になったらしいから、そのお礼も兼ねてって言ってた」
それを聞いて口元に手を当てて笑う麻友さん。陸先輩が麻友さんにお世話になった内容、あたしは気づいているよ。けど、その内容を言ったら野暮だから言わない。ありがとうね、麻友さん。
「それなら今日はお言葉に甘えようかしら。天地代表は高校生と言っても、社会で通用してる立派な事業者だしね」
「うん。そうして」
今日は麻友さんとお泊りデートである。冬休み最後の土曜日。麻友さんが約束通り、全国大会後に予定を空けてくれた。明日はお仕事が休みとのことだが、普段から忙しいだろうに嬉しい限りだ。
そしてお泊りに先立って、今会社帰りの麻友さんとお食事をしてきた。お店は陸先輩に選んでもらった。会話の通りの理由で陸先輩がお金も持たせてくれたのだ。
あたしは途中、お手洗いに立つ振りをして会計を済ませた。だから今日は麻友さんにご馳走することができたわけだ。
「選手権、ベスト8って凄いわね」
「うーん……、けどやっぱりベスト4までは行きたかったな」
確かに全国ベスト8なのだから誰からも凄いとは言ってもらえるけど、当事者としては満足より悔しい気持ちの方が大きい。冬の選手権は準決勝が一つのステータスだ。選手も皆一様にそんな心境を覗かせた。
ただあたしは麻友さんにベスト4と言ったが、実は本心では決勝戦を目指していた。一番長く選手でいられる決勝戦を。選手でいてほしい人はもちろん陸先輩だ。陸選手をできる限り長く見ていたかったのだ。そのために他校のスカウトも進めていた。
「立派よ。お友達とお嬢様が全国大会でベスト8だなんて、私自慢できちゃうから」
「えへへ、ありがとう」
選手権敗退の傷はまだ癒えていない。勝っていれば今日、準決勝だったし、明後日祝日が決勝だ。今シーズンのサッカー部をまだオフにはしたくなかったのだ。
けど、麻友さんがデートをしてくれるので嬉しい。塞ぎ込まなくて済む。お家でたくさんいいことをしてもらおう。
近くの駐車場に停めてあった麻友さんの車に乗り込むと、麻友さんの運転で麻友さんの自宅マンションに行った。
麻友さんの自宅は一人暮らしの女性には優雅で、憧れる2LDK。オートロックでそれなりに高い階にある。窓が広く、リビングや個室も広い。内装は綺麗で、収納も充実している。一体家賃はいくらなのだろう?
あたしと麻友さんはまず一緒にお風呂に入った。何度見てもうっとりする麻友さんの裸体。スタイルが良くて綺麗だ。あたしは麻友さんのキスを受けながら清められた。
「うふふ。可愛い」
「だって……。麻友さんの手癖が悪いんだもん」
「いけなかった?」
「……。凄く良かった……」
そう言いながら次はあたしが麻友さんの身体を清める。これも楽しみの一つなのだ。美人で綺麗な女性の身体に触れられる。スポンジは使わない。手でボディーソープを泡立て、直接触れて清めるのだ。
麻友さん同様に紗奈のスタイルもいい。そして裸体が綺麗だ。いつか紗奈にもこんな風に触れられたらな。
「麻友さん綺麗……」
「あら。梨花ちゃんだって若々しくて凄く綺麗じゃない」
「麻友さんの足元にも及ばないよ。胸は小さいし」
「胸の大きさなんて関係ないわよ。むしろそれにも需要はあるんだから」
「ぶー。麻友さんが言うと嫌味に聞こえる」
「あはは。ごめんなさい。けど私のは本音よ。私はロリコンだから」
笑って言う麻友さん。陸先輩はやっぱり大きい方が好みなのだろうか? 紗奈の初体験を聞いた時、紗奈がたくさん揉まれたと言っていたから。とは言え、小さい方にも需要があるか……。本当かな?
けど、ちょっと期待できる出来事があったことを思い出す。海に行った時の陸先輩はあたしと茜先輩の水着姿に釘付けだった。他の男子と見る対象が全く違ったのだ。あと、文化祭の時の体育館での会話。慰め程度の言葉だと思っていたけど。
「自信持って、梨花ちゃん。容姿は言うまでもないし、胸は大きくなくても体が綺麗なのは事実よ」
二人でバスタブに浸かると励ましてくれる麻友さん。後ろから抱きしめてくれるのが心地いい。
「うん、ありがとう。麻友さん」
「それに甘えん坊の梨花ちゃんだって凄く可愛いんだから」
「う……」
それを言われると恥ずかしい。あたしをそう躾たのは麻友さんだ。前回制服姿でベッドの上で。たくさんいじられて、たくさんじらされて、そして甘えてと言われた。それにあたしはコロッと落ちた。ただ、甘えるのはちょっと好きかも。
今までは中学時代に紗奈の後ろに隠れて守られる程度が限界だった。あとは今、陸先輩に生活の面倒を見てもらっていることくらいか。紗奈や陸先輩も含めて、態度や言動で甘えることは誰に対してもしたことがない。実家でも姉弟は下ばかりだし。
――と自分では思っているけど……。みんなが時々言うあたしの困り顔ってなんだ?
「麻友さん、お風呂上がったらいいこといっぱいしてくれる?」
「あら、気が早いのね。リビングでお話しなくていい?」
「お話はベッドの休憩中だってできるもん」
「ま、元気ね。いいわよ。元気な子は大好きだから」
あたしと麻友さんは十分に温まってからお風呂を出ると、寝室に入った。あぁ、麻友さんの肌、素敵。
「麻友さん」
あたしは行為が終わると麻友さんの名前を呼んで擦り寄った。
「どうしたの?」
「今日も最後までしてくれないの?」
「そうよ。それは大事な人のために取っておかなきゃダメよ」
「だって、あたしの大事な二人は付き合ってるんだもん」
そう、これが問題なのだ。どれだけあたしが紗奈や陸先輩との甘い時間を望んでも二人は恋仲だ。しかもあたしはそれを引き裂くつもりがない。ずっと仲良くしてほしいとさえ思っている。
「それでももしその時が来たらどうする?」
「来ないよ。それは二人の関係にひびを入れちゃうことになるから」
「そうよね、困ったわね。けどそれでも、私は梨花ちゃんの恋を応援したいな」
「手詰まりだよ」
二人を別れされる意思があたしにはない。けど、二人とはずっと一緒にいたいと思っている。あたしから二人と離れるつもりもない。だから他の誰かを好きになれる可能性が極めて低い。唯一、麻友さんだけだが、それは何度もダメだと釘を刺されている。
「何かきっかけが起こればいいのだけどね」
「きっかけ? 例えば?」
「誰にも予期できないきっかけだから、私にもわからないわ」
「そっか……」
予期できないきっかけか。むしろあたしは危ない橋を渡っている。陸先輩に抱き付いたり、陸先輩のほっぺにキスをしたり、陸先輩の目が届かないお風呂の中で紗奈にキスをしたり。
きっかけが起こる前に仲が崩壊するのではないかと不安になる。理性を働かせろといつも自分に言い聞かせるが、これがなかなか難しい。
やはり共同生活を考え直すべきなのだろうか? けど、それは絶対に嫌だな。せっかく大好きな二人と一緒に暮らしているのだから。その二人も三人での生活を大事だと言ってくれる。あたしから手放しては勿体ない。
それに陸先輩とそらの生い立ちを聞いた。そしてそらは紗奈のみならずあたしにも陸先輩を支えてほしいと言った。あれほど重い話なのに。あたしはそらの言葉が心から嬉しかった。だからそらの気持ちにも応えたい。
「代表は梨花ちゃんに欲情したりはしないの?」
「紗奈と付き合う前はあった。けど、今は……」
これは下着を使ったり、体を見たことを言っている。紗奈と付き合ってからも、薄着の時はあたしの体が目に入るだろうが、あたしはあまり気にしなかった。その時は陸先輩のことが好きだとまだ認識していなかったから。それに陸先輩はもう紗奈しか見ていない。
「代表は真面目なのね」
「うん。紗奈のためにすごく一生懸命だから素敵。麻友さんは今どうなの?」
「何人か言い寄ってくる人はいるわよ」
凄いな。やはりもてるのか。とは口に出しては言えないか。嫌味になってしまう。あたしにも学校で異性が寄ってくるのだから。
「みんな女の人?」
「ううん。半々よ」
そうか。麻友さんにも男の人は寄ってくるのか。レズビアンだという固定概念に捉われて男の人を除外していたが、確かにこれほど美人なのだから考えてみれば当然だ。
職場には男の人もたくさんいるだろうし、社長秘書の仕事を聞く限り、ステータスの高い男の人との出会いには困らないそうだし。
「みんな断ってるの?」
「男の人とはお仕事の兼ね合いを考えてお食事に付き合うくらいかな」
「女の人は?」
「いい人とはとりあえずエッチしてみる」
「そっか……」
そうだよな。あたしが独占してはいけない人だからな、麻友さんは。優先的に予定を合わせてもらえるから勘違いしそうになるが、分をわきまえなくては。
「ふふ。焼きもち焼いてくれるの?」
あたしの落胆を悟ったのか麻友さんが問う。いつも見透かされちゃうな。
「そりゃ、まぁ……」
「嬉しいわ。なら一ついいことを教えてあげる」
「なに?」
「梨花ちゃんと関係を持ってから、他の誰ともエッチはしていないわ」
「そうなの?」
あたしの声が弾んだ。これほどもてる人だし、失礼ながら女性関係が淫らだと思っていた。意外だったのだ。
「えぇ、そうよ。梨花ちゃんが良すぎて今の所他の人とって気にならないの」
「ほわぁぁぁぁぁ」
感動だ。麻友さんがあたしとの行為を気に入ってくれている。
「けど、本気はダメよ」
「うぅ……」
いつもの釘刺し。やっぱりダメなんだよね。わかってはいるけど、ちょっとくらい期待させてよ。
「梨花ちゃんを喜ばせたい気持ちはあるから言ったけど、期待をさせるつもりはないの」
「ぶー」
何でもお見通しだな、麻友さんは。けどやっぱり素敵な大人の女性だ。憧れる。あたしの目標だよ、麻友さん。
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