27.弁解と薄着~陸~
げっそりして家に帰ってきた放課後。さすがに早退してやろうかと思ったが、途中休み時間に取った連絡でそれも叶わなかった。
連絡を取った相手は社長秘書の川名さん。オーケー製作所の株を売却する意思を伝えたのだが、それはもう大いに喜んでくれた。しかし明日の午後、その取引が入ってしまった。だから明日は早退決定。連日の早退は避けたいので、今日は泣く泣くフル出席だ。
この日は一日本当に気の休まる時間がなかった。授業の合間は公太からの尋問。一度は川名さんに連絡を入れるため抜けたが。そして昼休みは木田からの尋問。これは一番きつかった。
サッカー部の部室に入るなり、鍵を閉められ退路を塞がれた。そして詰め寄ってくる木田。顔の距離数センチだ。木田の手には自身のスマートフォン。そこに表示されていたのは俺と紗奈が手を繋いでいる画像。
「3日前には付き合っていないと言っていたのにこれはどういうこと?」
なんて言ってくる。洗いざらい話したさ。水野に話した内容を。納得はしてくれたが、最後に悲しそうな表情をするものだから、罪悪感が半端なかった。結局、尋問の後木田と弁当を突いて部室を出た。その時、昼休みはもう半分を過ぎていた。
外は雨が上がっていて、陽が差し込んでいた。そこで出会ったのは体操着姿の小金井里穂。クラスの女子何人かと歩いていた。午後最初の授業が体育なんだろう。小金井もクラスメイトと打ち解けたようで安心した。
と思っていたら、この小金井にも呼び出された。話のネタは紗奈とのデート。なぜだ? なぜ小金井までこういう噂話を聞きたがる? 人見知りの小金井。すごく綺麗にはなったが、まだ他人の恋愛にまで興味がないと思っていた。
「あ、あ、あ、あの……。天地先輩は、その……、日下部さんと……」
「違う」
小金井の言葉を待たず俺は即否定。まったく。小金井に連れ出された校舎裏で水野と木田に話した内容をもう一度。本日3度目……、いや、梨花を合わせたら4度目だよ。みんなして何なんだ。梨花と木田はまぁ、理解できるが。
小金井は納得顔で体育の授業に向かった。サナリーの影響力は、一年の女子にもあるんだな。相手が女子でも人気者の噂話は知りたいものか。
しかし体操着に身を包んだ小金井。グラマラスだ。ゴールデンウィークの買い物の際、制服から買ったばかりの私服に着替えた時よりも体のラインがわかる。目のやり場に困った。一体、何カップなんだ?
俺は小金井と別れると、急いで自分の教室に戻った。危うく授業に遅れるところだった。
その走って教室に戻った時に会ったのが弁当箱の手提げ袋を持った吉岡と紗奈。階段を下りてきたので屋上手前の階段室で一緒に食べていたのだろうか? 途中まで雨が降っていたし。いつの間にこれほど仲良くなったのだ、この二人は。そして吉岡に向けられる意味深げな笑み。まったくもって訳がわからん。
そして神経を使う一日を経て、俺は帰宅したのである。
「「ただいまー」」
サナリーのご帰宅だ。俺は制服姿のまま書斎で仕事を始めたところ。時間からして俺の一本後の電車で帰って来たのだろう。
程なくして書斎に入ってきたのは制服姿の紗奈。まっすぐ自分の席に着いた。紗奈も仕事開始だ。
「先輩、ひどい」
「何が?」
「先に帰っちゃって。校門で待ってたのに……」
「……」
いや、学校中あの騒ぎの中、先に帰るのは当たり前だろ。それにここのところ、仕事中の呼び方と言葉遣いが普段と一緒だし。やはり長くは続かなかったか。そうだ、とりあえず仕事だ。紗奈の愚痴は無視しよう。
「明日の午後、取引が入った」
「ん? 木田社長との件?」
「そう」
「学校は?」
「早退する。今のうちでないと、もうすぐテスト週間入るし」
「なるほどね。私は?」
「勉強のために同席も考えたんだけど、今回は最初の定期テストだから、学校を優先しろ」
「ちっ」
舌打ちするなよ、まったく。俺一応上司なのに……。とは言え、やっぱり紗奈とはこの掛け合いの方がしっくりくる。
「学校には何て言って早退するの?」
「仕事って言う。教員には仕事のこと言ってあるから。生徒にだけ内緒」
「そうなんだ。海王ってバイトは許可制だよね? 許可取ってあるの?」
「いや。俺の場合はバイトじゃなく事業だから。校則のどこにも抵触するような規定がないからって教員はみんな目を瞑ってる。紗奈が手伝ってることも言ってあるから安心しろ」
そう、俺は自分の仕事のことを学校に言ってある。いつどこから教員に知られるかもわからないし、その時に揉めないように自分から言った。
その考えで紗奈のことも伝えてある。自己申告したとは言え、さすがに紗奈の時は少し揉めたが。アシスタントと言ったからだ。つまり……。
「そうなの? 私はさすがにバイトじゃない?」
「中学の時から一緒にやってる共同事業だって嘘言って押し切った」
「おぉ、さすが先輩」
紗奈が感心する。元々事業の話は去年の担任にしてあったのだが、今年の担任にそのことが引き継がれていなかった。それも少し揉めた原因だ。あのクソ教師め。
PCメールを確認すると川名さんから契約書の案が届いていた。それを熟読し、紗奈にも確認をさせた。これも一つの勉強だ。今度は不動産売買契約書も見せてあげよう。
特段契約書の案に意見はなかったので、進めてほしい旨の返信をした。するとさすがは秘書の川名さん。ものの5分で丁寧な返信文が返ってきた。仕事が早い。
この後、オーケー製作所の酒井専務に連絡を入れ、株売却の意思を伝えた。すると今から来るなんて言うものだから、サナリーを連れて俺は家を飛び出した。つまり逃げたのだ。先方には申し訳ないが、以後何度話しても平行線だろう。
三人とも私服に着替えて家を出たので、結局この日の夕飯は外食にした。焼肉だったのだが、俺と紗奈の食が太いため、なかなかの金額だ。とほほ……。この2週間、梨花とのデートに、紗奈とのデートに、外食か。
まぁ、そうは言っても下宿代はもらっているし、家政婦人件費がなくなったし、仕事のアシスタントが増えた。去年よりは時間と金に余裕がある。それに何より今の生活が楽しい。今の俺にはやっぱり三人での生活が一番大切だ。
外食から帰ってくると俺、梨花、紗奈の順番で風呂に入った。俺が風呂上りにリビングのソファーで一息ついていると紗奈が風呂から上がった物音を感じた。思いの外、紗奈の風呂が早かった。女の子の日……、いやいや、そんな無粋な考えはよそう。
「ダーリン」
リビングに入るなりそんな呼び方をしてくる。まったく、俺も紗奈もしっかり否定したのに。小言を言ってやろうと俺は紗奈を見た。
「うがっっっ!」
「どう? 興奮する?」
「ふ、ふ、ふ、服を着ろ」
「え? 着てるじゃん」
なんとか搾り出した言葉。それなのに紗奈にはあっさり躱される。それで俺は結局言葉を失う。
なんと紗奈はタンクトップにホットパンツという超薄着なのだ。いつぞやの風呂に押し入った時と同じ格好。バストトップは突起物が確認できる。その紗奈はと言うと、魅惑の笑顔を俺に向ける。梨花は自室で宿題中。助けが来ない。
「照れちゃって、可愛い」
そう言ってソファーに腰掛け、俺に擦り寄ってくる紗奈。止めろ、紗奈。保て、俺の理性。紗奈は俺の腕をがっちりホールドして離さない。そしてさっきまで俺の視線の先にあった膨らみが俺の腕を包む。改めて紗奈がノーブラだとわかる。
タンクトップの襟元からは胸の谷間。そして紗奈の顔が近い。いつもならしれっと躱すのに、一瞬凝視したせいで遅れた。完全に腕を取られている。引くように倒れる俺の体。追うように押し寄せる紗奈。
「ちゅっ」
やられた。また紗奈に。頬に感じた柔らかい感触。あまりの動揺に抵抗する暇もなかった。心臓が落ち着かない。
「へへん、また照れちゃって」
あぁ、俺の理性……。
楽しいだろうな。紗奈みたいに人を揶揄かう奴からしたら、今の俺みたいなリアクションは100点満点だろうな。ちくしょう。もう知らん。理性さん、さようなら。
ガチャッ!
「こらー! 紗奈ー! なんてことしてんの! 離れなさい!」
「きゃっ! そんなに強く引っ張んないで」
来た。救いの女神。間に合った。早くこの理性破壊マシンを俺から取り外してくれ。
ペシッ
ん? 俺の頭に微かな痛み。
「先輩もなんで抵抗しないの?」
あぁ、俺が怒られた。だって紗奈を見た瞬間に固まってしまったのだから、仕方ないじゃないか。そう思って体を起こし、紗奈を引っ張る梨花に顔を上げると……。
プシュー
そのまま俺はソファーにずっこけた。
「り、梨花?」
「何よ?」
「梨花までなんて格好……」
「このくらいとっくに免疫付いてんでしょ? あれとこれで」
あれとこれ。恐らく梨花が握っている俺の二つの弱みのことだ。いや、そんなこと今はいい。
なんと梨花はキャミソールに下はパンツ。恐らくノーブラ。紗奈ほど膨らみがないので確信ではないが。
「あたし実家ではパンツ一枚だったよ?」
ここは実家か? 実家なのか? アットホーム感が出ているのなら大家冥利に尽きるが、それでも、それでも、その格好は刺激が強すぎではないか? それとも実家でのパンツ一枚をまず突っ込んだ方がいいのか? 梨花の格好に紗奈は何も言わないし。
「さ! 紗奈、離れて」
「やぁん」
俺の腕に絡む紗奈を梨花が引き剥がそうとする。体が振られる。腕に感じる紗奈の弾力。
「宿題やったの?」
「うん」
「いつよ?」
「授業中」
紗奈、やっぱり要領良いな。しかしそれでテストの点は取れるのか? いやいや、感心と心配をしている場合ではない。早く離れろ。まずは俺の理性の心配だ。
「じゃぁ、あたしの部屋でお話しよ? あたしももう終わったから」
「はーい」
そう言うと紗奈が俺を解放した。その時に梨花が紗奈を起こそうと一度屈んだ。
ブシュー
梨花の、梨花の……トップが見えた。生で両方。
二人が梨花の部屋に消えたのを確認すると俺は寝室に駆け込んだ。まったく、毎日、毎日、どれだけ製造されているんだよ。
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