第15話 短縮される猶予期間
税理士事務所の求人と同時に紹介された企業への面接に向かい、ビルの前に着いた時、携帯が鳴った。住んでる市の市外局番から始まる番号からだった。
「はい」
「あ、〇〇さんの携帯でしょうか」
「そうです」
「突然のお電話すいません。私、▲▲区役所のものです。今少しお時間大丈夫でしょうか」
ちらりと時計を見る、まだ少し時間があった。
「先日、保育園の入園についてご相談いただいていた件についてなのですが」
「入園理由が就業から求職活動中に変更した件ですか?」
「そうですそうです。その際、六月までに何とか就職をお伝えしていたかと思います」
「そうですね、そう伺いました」
「・・・・・・大変申し訳ございません!」
急に謝られてビクッとする。
なんだなんだ。
「本当に申し訳ございません。六月までにと言う回答は誤りでして」
「誤り?」
「はい。当時〇〇さんの案内を務めました窓口担当のミスで六月とお伝えしたのですが、本当は四月中に決めていただかないと、退園になります」
「ええええええええ!?」
数年前、西麻布で黒スーツで電話持って奇声発していた女を見かけたらそれは私です。
「え、あっ、え?今三月ですよね?」
「申し訳ありません!▲▲区は多数の待機児童を抱えてることから求職活動中という理由になってしまいますとどうしても優先順位が低くなってしまい、就業中の親御さんを優先させることになっておりまして。現在、共働きでも待機児童でお待ちいただいているご家庭がたくさんあり・・・・・・」
「いや今更そんな」
「こちらとしても一度案内した内容をこのような形で訂正することになりましたのは誠に申し訳なく・・・・・・」
10分後には面接だと言うのに、頭が真っ白になりそうだった。今このタイミングで就職活動の猶予が2ヶ月短縮になってしまったのだ。
役所の人はひたすら電話の向こうで謝っている。
でも謝られたところでどうしようもないし、フルタイムで共働きしている家庭が優先なのは当然のことだ。
「わかりました。なんとか頑張ります」
「本当に申し訳ございません」
これがもし、家で受けた電話だったら「いやほんと今回だけでも頼みますよ」とダメなのを承知で粘ったかもしれないが、今は外で、なんなら面接が控えてる。わかりましたと答える以外の選択肢はない。
電話を切り、大きくため息をつく。
焦る気持ちがどんどん膨らんできたが、まずは今日の面接に集中するしかない。
簡単に気持ちを切り替えることはできなかったが、気合を入れ直して、ビルの中に入っていった。
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