第14話 覚悟を問われる場面②
先に開けたのは税理士事務所の方だった。
私が簿記や経理に興味があり、今後も勉強したいしそういった職へのキャリアチェンジをしたいと伝えたからこそ、探してくれた求人だった。
募集をかけていた税理士事務所の所長さんと、エージェントの方が知り合いだったようで繋げてくれたようだ。
ここの面接は一回のみで決まると言うことだった。
当日はエージェントの方も同席してくださると言うことで、朝、最寄りの駅で待ち合わせをして税理士事務所に向かった。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
エージェントの方が隣にいてくれてるだけでも、心強く感じる。
「まず初めに、なぜ簿記を勉強しようと思ったのですか?」
「はい。元々いた会社では営業事務と経理は同じ部門の扱いになっており、時折経理の仕事を手伝う方があったことから、簿記や経理に興味を持ちました」
「手伝うと言うのは、具体的には?」
「納品書や請求書の作成、帳簿の記入、また輸入した商品の仕入れ価格の計算などです。インボイスや輸入許可書を見ながらドルを円に直して商品仕入れ価格の計算をしていました」
その後も和やかに面接は進んだが、最後は覚悟を問われることになった。それは前回のシステム会社とは少し違った内容である。
「やる気に満ち溢れているのは十分伝わりました。この育休中に簿記三級を取得されたのもすごい思います。しかし、三級は現実として本当に初歩の初歩です。ここからが難しくなってきます。二級、一級と続いてさらに税法の勉強に続きます。これから先、働きながら子育てしながらも勉強を続けていく気力はありますか?税理士への道は簡単なものではないです、絶対に。例えば朝早起きして、もしくは夜少し遅くまで起きて一日2時間、3時間勉強を続けて一年後に簿記二級、さらに一年後に簿記一級、さらにさらにいろんな税の勉強をする。また、税法は常に変わっていくものです。その度に新たに学び直す必要もありますから、勉強に終わりはありません。子どもを育てながら家事をしながら毎日少しずつ勉強する必要がありますが、そこらへんはどうですか?できそうですか?」
今だから言えるが、毎日勉強は相当厳しい。
税の勉強に限らず、 子育てと家事しながらの勉強って相当な茨の道で相当な覚悟が必要だ。
実際今の私、全く勉強してない。今の会社で必要とされる英語については若干勉強を続けているが、一日2時間、3時間なんてとんでもない。
とあるテニス漫画の乙女ゲーで、「天才」と称されるキャラが「努力する天才でありたい」と言うセリフを言うのだが、まさにそれである。
努力する天才ーー努力する才能が欲しいと心の底から思う。
では私はなんと答えたか。
「できます。やります」
もうね、不採用になって正直ホッとしてしている。
そうなのだ、当然私は不採用だった。
仮に受かってたとしても、今の私ではきっと会社の足枷になっていたと思う。
それくらい、税理士への道は厳しいと言うことがわかった。軽々しく税理士の免許でも取りたいなーなんて思っていた当時の自分を思い出すと今でも恥ずかしくなる。
こうして、私はこの2社の面接を通じて
・子どもを育てながら働く覚悟
・子どもを育てながら毎日勉強しつづける覚悟
この二つを問われ、それがいかに難しいかを教えられた。今でもそれは日々痛感している。
特に下の「勉強し続ける覚悟」これは本当に難しい。もう寝る暇もなくなるレベル。
もしかしたら子供がある程度大きくなればまた話は違ってくるかもしれないが、私は今の息子6歳の段階でも難しい。体力がついていかない。
こうして税理士事務所の面接が終わった。
数日後、次の会社に面接に行くのだが、受ける直前、まさに会社が入ってるビルの前までたどり着いた時、不穏な着信が鳴った。
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