第13話 覚悟を問われる場面①

新たな転職エージェントを登録して少し経った時、立て続けに2社ほど面接を受ける機会があった。


一つ目は最初に登録したエージェントで見つけたPCなどで使う会計ソフトを開発・販売している会社。

もう一つは新しく登録したエージェントから紹介された税理士事務所。どちらも正社員としての採用を見越したものだった。


まずは一つ目の会場。

実は二次面接で実質最終面接のようなものだった。

一次面接を突破したのはこれが初めてだった。一次面接では面接官の方と大いに盛り上がったのだ。


だが、一次面接に受かったくらいで浮かれいいてはいけない。身を引き締めて最終面接に臨んだ。


「失礼します」

「ああ!1週間ぶりですね!どうぞ!」


部屋に入って出迎えてくださったのは、一次面接でもお世話になり、大いに盛り上がった男性社員の方だった。


「お子さんがいらっしゃるということで、今回はこちらの〇〇も同席させていただきます。〇〇は現在3人の子どもを育てながらバリバリ働いていますので、もし採用になって弊社に入社された際はとっても頼りになると思います!」


「よろしくお願いします」


テンションの高い男性社員とは真逆で、紹介された女性社員はとても落ち着いた方だった。

3人のお子さんを育てているというだけで3回の花刺しになってしまう。こちらはまだ一人でも精一杯なのに、三人育ててさらに仕事もバリバリこなすなんてもはや未知の世界である。


面接は途中までスムーズに進んだ。

そしてお馴染みの「お子さんが熱を出たら?」の質問に差し掛かり、答えようとした時だった。

女性社員が、真っ直ぐこちらを見てこう言った。


「私は今、三人育てて仕事をしています。そしてあなたはまだ生まれたばかりのお子さんを育てていると言うことですが、あなたに本当に子どもを育てながら働く覚悟はありますか?子供がいるからと言って出張できないと言ったり、熱が出たからとすぐに帰ったり。そんな仕事を放棄するようなことが続くようでは働けません。もちろん、みなさん口では覚悟があると答えるのは簡単でしょうが。今の私の言葉を踏まえて、あなたの考えをお聞かせください」


もうね、正直ちびるかと思った。ビビリだから。

でも、先輩ワーママの言葉はやはり重みが違う。

この方も色々な壁を乗り越えて今の地位に辿りついたのだろう。

だったらこっちだって本気度を示すまでである。


「たしかに子どもを育てながら働くと言う経験が、今の段階ではまだ私にはありません。〇〇様の話を聞いて、相当な覚悟が必要であることを実感しました。私は、あるゆる事態を想定して仕事と育児を両立する覚悟ができています。例えば子供が熱を出したら病児保育への預け入れや夫との連携で連日仕事を休むと言う事態は避けるようにしますし、出張に関しましても夫だけでは子どもを見るのが難しい場合は両親に協力を要請して仕事に邁進できるよう、環境を整えます。家族にも両親にも、今回の就職についてはそれ相応の中があると言うことは事前に伝えてあります」


足が震えそうになりながらもなんとかそう返した。覚悟をわかってもらうために、一度たりとも女性社員から目は逸らさなかった。


女性社員はしばらくしてから

「そうですか。そう言ってもらえて安心しました」と言ったくれた。


その後、会社についての質問を私からもいくつかさせてもらい、面接は終了。結果は1週間以内にとののとでその場を後にした。


まだ緊張感が残る中、会社が入っていたビルを出て携帯をチェックする。すると新しく登録したエージェントから2件の求人情報がきていた。


一つは先に紹介した税理士事務所。

そしてもう一つは大手企業の子会社で、簿記3級程度の知識と貿易に関する知識がある人向けの営業事務の求人だった。


もちろん、どちらも受けるとすぐに回答する。

そしてこの回答により、私の就活は好転するのである。

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