第7話 初めての面接はズタボロ

面接対策というのはエージェントとの打ち合わせだ。

想定される質問に対しての回答を考え、エージェントに送って添削してもらう。どれを何度か繰り返してベストな回答を模索して面接に挑むのだ。


初めて受けた会社は、経験職種で募集していた企業だった。

面接が平日のため、遠方に住む母に来てもらって面接の間子供を見てもらうことにした。ちょうど人見知りが始まっていたので大変だったと思う。

孫に泣かれても必死に面倒見てくれていた母には感謝の念しかない。


「行くか」


企業の入り口前につき、インターホンをおす。


「おはようございます。面接で伺いました卯月と申します」


すぐに面接の場に通される。整理の行き届いた部屋に入ると急に緊張感がこみあげてきた。担当は女性二人。


「よろしくおねがいします」

「では、まず自己紹介からお願いします」

「はい。では……」


この日のために何度も練習をしてきた。時間も図り要点を絞って話せるようにと。

だから、大丈夫。――そう思っていたのに。


「えと、えと」


最悪である。頭が真っ白になって言葉が続かないのだ。そこで思い出す。私、面接がめちゃくちゃ苦手というか、初対面の人と話すのが苦手だったこと。


自慢ではないが、学生時代の就活ではエントリーシート、つまり一次審査である書類選考で落ちたことは一度しかなかった。なのでその1社を除いて数十社と面接には漕ぎ着けているのだ。


ただし、面接でことごとく落とされてしまっていた。緊張してうまく話せないのである。

仮にその場ではなかなかうまく話せた!と自分では思っていても、家に帰って思い返せば、そういや一緒に面接受けていた人たちの方がハキハキしていて、表情も豊かだし、そもそもエピソードについても強かった。


その後もつまりながらも面接官の質問に答えていき、なんとか終えた。たった30分ほどの面接だったのに、永遠に感じられるくらいだった。

途中、私のあんまりの緊張のせいで面接官の人がイライラしているのもひしひしと感じた。

そしてこの企業が求める人材と、私の気持ちが一致していないことも途中で気づいてしまった。

だからといって「やっぱやめまーす帰りまーす」なんて言って退出する勇気もなく、面接を続けた。


あちらが欲しい人材は「とにかく言われたことだけをやれる人」で、私がしたいのは「言われたこともやるが、自分でも社内の仕事を探したい」だった。

その姿勢は、あちらからしたら余計なことをする人に見えただろう。


とにかく、私の転職活動における初面接は終わった。正直言って帰り道は泣きたくてたまらなかった。このまま、また面接落ちる日々が続いていくのかと考えてしまう。


泣きそうになるのを抑えるために、電車に乗る前に母に電話をした。


「もしもし」

「あ、面接終わった?どうだった?」

「全然ダメだった。息子はどう?」

「機嫌良く遊んで待ってるよ」

「そう。よかった。私も今から帰るから」

「気をつけてね」


電話の向こうで息子が何か声を発しているのが聞こえる。その声を聞いて心が少し落ち着いたのと同時に、今回の転職と新卒の就活は違うということを改めて考えさせられた。

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