第4話 突きつけられる現実
職歴や強みの話の段階はまだよかった。
しかし、希望職種や年収、流れの時にエージェントから告げられたことに驚くとともに、現実を突きつけられた。
「希望職種は経験してきた職種と同じでいいですか?」
「それなんですけど、もちろん経験職種も受けようと思うのですが、今新たな職種も受けたいと思いまして」
「キャリアチェンジという事ですね」
「はい」
「具体的にはどういう職種に?」
「……経理職です」
「経理?」
そう、実は私、産休中からまだ子どもがほとんど寝てばかりだった生後3~4ヶ月の頃に勉強して簿記3級を取っていたのだ。ちなみに産休中・育休中に資格取得を薦めてくれたのは倒産した会社にいた上司である。その上司は3人の子どもを育ててきた方で、産休育休の度に何かしら勉強をして資格を取って来たらしい。
アドバイス通り、私も資格を取得したのだ。
「簿記3級取られてるのでそれでですか?」
「はい」
先に言っておく。
簿記3級では話にならない。3級はあくまでも入門。
それをエージェントにも言われた。
「簿記3級は確かに推奨されてる資格ですが、実際に経理職として応募するのであればやはり2級レベルを求める会社が多いです」
「そう、ですか」
まじかー。まぁ確かに他の転職サイト見て経理だ、未経験OKだと思ってワクワクしてページを開くと応募資格のほとんどが「簿記2級以上」にはなっていた。
3級は個人商店向けで、2級でやっと株式会社向けになるのだ。
「もちろん3級でもOKな案件はあります」
「そうですか」
「ただ」
「ただ?」
言いにくそうに、エージェントの方が一瞬目を逸らした。
「うちは基本的にご利用者の方の経験職種を中心に紹介していきます。もちろん、経理の方でも探しますが……」
ここでまず一度ガッカリ。同時に今から勉強して簿記2級取ろうと思った。
でも次の試験には間に合わないよなぁなんて考えつつ、元々の経験職種もちゃんと見ようと決意する。確かに経験職種の方が受かる確率は高いだろう。
私の方もいざ面接のときに多少自信をもって答えられる。
「あと、希望年収なんですけども」
「何か不備がありましたか?」
「いえ、そういうわけではなくですね」
再びエージェントの方が気まずそうにする。私はこの短時間に何度エージェントの方を困らせているのか。自分にがっかりだ。
「前職と同じくらいという事ですが」
「はい、それくらいで」
前職の年収について調べたことはなかった。だから相場も分からないしとりあえず同じくらいでという事にしたのだ。
「全体的に見て、卯月さんの年収は高いように思います。普通この職種で卯月さんの年齢だとここから50万ほど低くて」
「え!? そうなんですか!?」
その日一番の声が出来た。50万も低い? ほんとに?
私はこれくらい普通だと思ってたよ?
じゃあ倒産の理由である経営不振って高い給料も一因なんじゃ……。
「なので求人検索の際はもう少し低く見積もって頂けると……」
「分かりました」
ここで「嫌だ! 譲れない!」なんていうわけがない。
実際給料に関してはそこまで関心がない。そこそこもらえてそこそこの生活が出来て、子どもがちゃんと育てられたらそれでいいと思っていた。
強いていうなら夫の無駄遣いが気になるのでそこを締めていきたい。
「一応、支援なのですが保育園の期限は」
「一応6月ですが、できれば4月と言われています」
「そうですか。ではあまり時間もないのですね」
「はい。すいません色々懸念事項が多くて」
「いえいえ。頑張りましょう!」
そのあとも色々淡々と説明をされ、とりあえず帰ったらサイトにアップされているであろう求人に目を通して応募する事を約束してその日は終わった。
エージェント曰く、育休制度が浸透して来たとはいえ、まだまだ育児に関する理解は広まっていないという事。
子どもがいるだけで敬遠する会社も多いという事。
「一般的に書類審査の時点でまず10社受けて2社通ればいい方ですよ」
「そんなに低いんですか?」
「やはり人気の企業に応募が集中するのでそういう統計からみるとそうなります」
「ははあ」
「そこに子どもを連れてとなると……」
もう言いたいことは分かる。
だからまずはたくさん応募していこうと。下手な鉄砲数打ちゃ当たる戦法だ。
「ありがとうございましたー」
オフィスを出て、夫に連絡をする。
終わりごろにエージェントの最寄り駅で待ち合わせだったのだがまだ家から出ていないらしい。どうやらおむつ替えに苦戦しているようだ。
「平日は仕方ないとしても休日も育児手伝わないからそうなるんだよ!」
怒りに任せて電話で言ってやった。
何かと言い訳をしていたがうっとおしてので切ってやる。
完全に八つ当たりだったのでしばらく一人反省会をした。
子連れ就活は思ったより大変そうだ。
でも、やるしかない。
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