ⅵ 旅立ち
今思い返すと、本当に色々な事があった。何回も死にかけたり、みんなの上に立って騎士活をしたり、不思議な現世界の旅人に会ったり、……自分が無知だったことも知った。なので、今回の旅では、魔界の扉を閉じることを忘れない程度に、外の世界についての知見を広げたいと思う。なぜ両親が旅に出たのか、今なら分かる気がする。鳥かごの中では分からないことが、見えない景色が、世界には溢れている。それらを求めることは、とても普通のことで、行動に移すことはとても難しいことだろう。もしこの旅を生きて終えられたら、その難しい壁を乗り越えられたということで、色々な意味で成長出来ているはずだ。いや、乗り越えるつもりで行かなければ、おそらく途中で果ててしまう。――様々な想いが出てくるが、簡単に言えば、“心の感じるまま、信念を基に行動”し扉を封印しようということだ。
昨日までのうちにすべて準備は終わらせていたので、慌てることなく、大きめのバックを持ったカトレアと団長と合流し、城を出る。今回の旅は、カトレア国民に対しては、出来るだけ極秘で行動するように言われていたため、早朝の街はまだ夢のなかにある。小鳥がさえずり、風がささやき、空は旅立ちを祝福しているのか、雲一つない快晴で、温暖な気候が特徴のこの世界は、今日もとても過ごしやすい気温を保ってくれている。
街門に着くと、そこには、他のみんながすでに街門に集合していた。私を含めた皆は、騎士団から支給されている制服と鎧を着ずに、各々の持つ、普段着兼用の旅装束、長旅を想定した服装でいた。
これで、今ここに、私を含め七人の派遣部隊が集まった。団長とカトレアが前に出て来て、軽い形式的な言葉を交わす、その後、二人が持ってきていたバックから、入っていた物を取り出した。
「これは俺からみんなに贈り物だ。滅多なことでは壊れないように魔法が織り込まれていて、出来る限り、体の邪魔にならないように作ってある。ぜひ、役立ててくれ。特にベリーは、突っ込む癖があるからな」
団長からは、特殊な暗い赤系の手甲をもらった。確かに、誰も盾を持ってきていないし、扱う人もいない。皆は団長に感謝を述べながら、それをはめる。確かに、通常時は手首と肘の邪魔にならないように収納できるように動かせ、戦闘時には、収納されていた部分を限界まで出すと、手の甲から肘までが守れるように展開される機構が備わっていた。これがあれば、基本的な防御面については全く心配することはないだろう。
「私からは、このマントを贈ります。これは、簡単に言えば、外気が寒ければ中が温かく、外気が暑ければ、涼しくなるように、反転する魔法をかけています。自動的に傷を修復する魔法と、強度も強固にする魔法をかけたので、滅多に壊れません。しかし、戦闘には向いていないので、慢心してはいけませんよ。布には防水機能と伸縮自在な特殊な機能があるものを使用しているので、雨などに強く、大きさも自由に変えられます。希少な素材を使用しているので、相当な値段がかかっていますが、あなた方を支援出来るのであれば全く気になりません。なので全員、生きて帰ってきてください」
そして、カトレアからは、力強い“女王様”の言葉と共に、地味色をした万能フード付き魔法マントをもらった。説明を聞いた限り、これで寒さや暑さに苦しむことはないだろう。戦闘でも、鎧がないみんなからしてみれば、戦闘向きでないにしても、心強い鎧になると思う。
これらを受け取り、最後の挨拶を終えた団長とカトレアは、次に、一人の友人たちとして、私たちと接する。団長はサルトさんダリアさんと、気楽に話し、他の皆は、カトレアに対して、畏まりながら話しているが、すぐに団長の方へと移る。残された私は、一人となったカトレアと話す。
「こんな高価なマント、どうしたの? そんなにお金持ってたっけ?」
「ふふん~! 実はね。自分で一から作ったの! 大変だったのよ? 素材探しで大体時間をとられてね! でも、素材さえ手に入ってしまえば、私にかかればすぐだったわ! どう? すごいでしょ?」
「うん、すごい! 本当に……レアはすごいよ。……大切にする。このマントと共に、扉を封印してくるよ。だから……だから、この街を、この国を守ってね……」
カトレアから受け取った魔法マントを身に着け、大切にすることを誓う。ここまでしてくれたのだ。この期待に応えたいと誰でも思うだろう。
「ええ、守るわ! ……あのね、ベリー。もう一つだけ、親友として、これを贈らせて」
そういいながら、バックの中から二振りの大型短剣を取り出す。別段派手というわけでない鞘に納められたその大型短剣から、言葉では表しにくい、何か特別なものを感じ取る。
「これは?」
「これは『グラウヘル』。私の一族に伝わる、双剣型の宝剣よ。この剣はね、残されていた言い伝えでは、『二つの緑光は独立の一つへ収束する宝剣』と言われていて、二つあって、初めて一つになる宝剣らしいわ。それで、この宝剣は、独立した意思を持っていて、人の心、人の想いに呼応して、その想いに答えるように、無限の緑光を発揮するといわれているの。必ずあなたたちの助けになると思う。ベリーは確か、騎士養成学校での、武器の成績で一番良かったのは、短剣だったでしょう? だから、あなたが使った方がこの剣もうれしいと思う。だから、あなたが持っていて。それでね……他の人たちにも何か贈ろうとしたんだけど、なかなか役に立ちそうなものが、今日までに見つからなくて、唯一これだけすぐに見つかったの。だから、みんなには申し訳ないと伝えてほしいの。ごめんなさい」
謝るカトレアを諭しながら、その宝剣を鞘から抜いてみる。その宝剣『グラウヘル』は、両刃短剣型で、やはり、短剣の中でも一番大きい部類に入るもので、鍔は一般的な前後のみのものだ。よく見ると、所々の淵が、国色である明るい緑色をしていて、見とれるほどにとてもきれいだ。刀身の中央には、縦に沿って穴が開いており、中には自分では読めない古文らしきもがあった。そして、鍔の中央には、カトレア国の紋章が彫ってあった。
「分かった、みんなには伝えておくよ。この宝剣、大切に使う。本当に色々とありがとう、レア……」
私はそう伝えると、カトレアは、静かに笑顔を咲かせ、私の手を引っ張り、みんなの方へ連れていく。そして、団長と、実質的な女王に見送られ、私たちは歩き出した。最初は商業の街、カメロへ行き、馬を調達する。そこから馬で行けるところまで行くという流れだ。基本的には道があるところを行くが、当然、魔界の扉も対策はしているだろう。完全に近づくには、おそらく大半は歩きの旅になるだろうと思う。
――こうして、ついに始まった。この中世界において、重要かつ、危険な旅。私はまだ知らない。この旅で、私たちの存在が大きく変わってしまうことに。こうして、私たちの、長くもなく短くもない、果てしない旅が始まった。そういえば、旅に出るときにおまじないとして唱える言葉があったな。それは確かこんな文句だったはずだ。
『この中世界に秩序と祝福を。この星に賛美の声を』
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