ⅱ 傷痕
「私が先回りするからヘレナとオズは後ろから追って! ミリアとギルと二コラは他の事件が起きた時に対応出来るようここで待機ね! 何かあったら必ず連絡をして!」
あの事件の後、私は無事に入団し、レアハーフェン騎士団第十警備隊二〇班に配属、しかも、なんと班長に抜擢されたのだった。一八歳で任されるのは少ないケースで、やはりあの時にカトレアを守った(かは微妙だけど)ことは大きな実績になっているらしい。同じ班のみんなは一つ二つ上の人しかいないため、最初は指示を出すことに気が揉めたが、みんな快く反応してくれるため、今では自信を持って指示することが出来ている。そして、入団をして今月で一年、合格通知をもらった日が今日だ。この一年間、多くの盗賊や悪徳商売をする、“裏の住人”たちと戦って、捕まえてきて、自分としてもかなり成長出来ていると思っている。そして今も、カトレア国の国紋である”盾を抱いた両腕”が中央に描かれ、国色である明るい緑色と、レアハーフェン騎士団を象徴する暗い緑色が施されたマントと、支給された騎士団の制服に身を包み、住人を傷つけた悪質なアクセサリー泥棒を追っている。
「さあ、観念しなさい! 住人を傷つけた罪は重いよ!!!」
私は、建物の屋上を走り、最短ルートで先回りをする。そして、怒りの言葉をぶつけて輩の前に出て、動きを止めた。ヘレナとオズワードも輩の後ろから追いつき、輩が逃げられない状況となる。
輩は顔を歪ませ、計画通りに行かないことに腹を立てているらしい。私たちがゆっくりと近づくと、怒鳴り声を発生させる。
「くそ!しゃあねこいつはくれてやる!」
そういい終わり、輩は持っていた小袋を、私の目の前に投げて飛ばしてきた。
(まずい!!)
とっさに小袋を右手でつかみ後ろへステップしたが、今度は煙幕が私の視界を奪った。間髪入れずに輩の拳が飛んできたが、それは、私はしゃがんで避けることが出来た。しかし、今度は下から輩の手が見えた。その手を払いのけようとしたが、間に合わす、私は首を強くつかまれて倒されていた。強い力でつかまれ、地面に押し付けられたために、息が思うようにすることが出来ない。
「色々と用意しといて正解だったぜ! 金は普段の倍かかったが、騎士の首を持ち帰ればそれなりに金になるからな! お前の首をもらってくぜ!」
輩が悪意の笑顔を私に見せつける。その時に、先ほど飛んできた腕は精巧に作られた偽物だと理解した。その時、輩の手から雷が迸る。一瞬の熱はしっかりと首に伝わり、それも相まって、本能的に危険を察知する。
(やばい!これを食らったら首が飛ぶ!!)
しかし、私はとっさに左手で輩の腕を掴もうとした瞬間、輩が吹き飛んだ。私は起きようとしたが、倒されたときの衝撃が予想以上に体の負担になったのか、今になって意識が朦朧としてくる。私は周りを見渡し、ヘレナとオズワードが寄ってきた所で目の前が暗転していった。
――
…………ゆっくり目を開けるとそこは見慣れた天井があった。
(一年ぶりに見た光景だな)
まさか同じ日に同じ天井を見ることになるとは。今日という日付は私にとって厄日なのだろうか。今度、カトレアに悪意払いをしてもらった方が良いかな。そんなことを考えていると、視界の外から、一番聞き慣れた声が聞こえた。その声を聴いて、私はとても深い安心感を得る。
「気が付いた? 班長さん~! 班員の人はさっき見舞いに来ていたわよ! 心配かけちゃだめだよ!」
ああ、うん、分かってはいたよ。あんなパワーのある衝撃波を出せる魔法士はあんたしかいないって。それにしても、班のみんな来てくれていたんだ。後で会いに行って無事なことを見せないと。心配をかけて申し訳ない気持ちになった。
「助けていただきありがとうございます、おうじょさま」
「ベリーが王女様って言うのは似合わないわね!」
「悪かったね! 似合わなくて~」
話しを聞いていると、どうやら仕事の休憩で街を散歩していたカトレアがたまたま居合わせて、助けてくれたらしい。だが、あんなタイミングよく居合わせることってあるのかと疑問に思い、本当は私が騎士活しているところを見に来たんじゃないかと少し疑問に思ったが、命を助けてもらったことだし、気にしないことにした。
「これであの時の借りはチャラね~! ……あのね、一つ残念なお知らせがあるの」
徐々に普段はしない真面目な表情になり、低いトーンで話しはじめたので緊張する。
「あなたの首に雷の痕が残ったの。これは私でも完全には直せなかった。つまり、あなたの首にはひどい傷痕が残ったの。ごめんなさい……まだまだ力不足だったわ……」
そう言って、手鏡を渡してきた。その中に映った自分の首を見ると、確かにかなり目立つ痕があった。しかし、なぜか不思議とショックではなかった。自分でも理由がわからないが、多分、騎士になる前に無意識にある程度の傷が付くことに対して、覚悟を決めていたからかもしれない。
私は、カトレアが気にしないように明るい声で、彼女に訴える。
「そっか……じゃあ直せなかった罰として、……一緒に傷痕を隠すスカーフを探してもらおうかな、王女様?」
カトレアは、まさにカトレアの花のように美しく、どこか高貴な雰囲気のある可愛げな笑顔でうなずいた。……その表情を見た私は、この子と釣り合う男子はこの世に存在するのだろうかと思いながら、その後、カトレアに促され、また眠りについた。
…………後に、カトレアから貰った、国色と同じ明るい緑のスカーフが、ある旅が終わった後、私のトレードマークになり、”神速のスカーフ”というなんとも微妙な二つ名がつくことなんて、今の私には知る由もなかった…………
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