選択
クリス様との会話後、俺はトイレから出る。用を足していたが、その足取りは重い。
「さて、どうするか……」
現時点の状況が頭の中を駆け回る。
三つの世界が一つになった。
それにより、この世界のクリア条件が変わった。
過去の異世界の恋人が現れた。
それを元に戻す方法はない。
考えれば考えるほど想像し得ない事態だ。全てどころか、一個一個ですらどう対策すればいいのかも見当が付かない。まあ、女神様がどうとも出来ないのだから、俺が何か出来るとも思えないが。
ただ、唯一俺が出来ることと言えば……。
「どうやってあいつらに説明しよう……」
千尋やアリシア、そしてユーナは紛れもなく俺の恋人だ。過去だ現在だなんてものは関係ない。三人とも俺のかけがえのない存在だ。
しかし、先程のクリス様との会話にあったように、端から見ればこれは三股の構図。そして、彼女達も同じように思っているに違いない。
また顔を出せばたぶんボッコボコのボッコボコにされるだろう。それも容赦なく、塵一つ残らないかも。正直今すぐにでも逃げ出したいが、ある意味この状況は俺が招いたとも言えなくない。過去二つの世界を救った身としては、やはり責任逃れというみっともない行動はしたくない。
「覚悟決めるしないか」
幾度となく死線を潜り抜けてきた俺だ。今回も切り抜けられる!
……はず。
****
俺は三人の待つベンチに向かう――事はせず、一度木の陰から様子を伺ってみる事にした。
こ、怖くはない、怖くはないぞ。これはあれだ、敵情視察だ。いきなり向かうのはバカのする事。まずはタイミングを……。
おそらく、互いを睨め付けながら威嚇し、暗く重い雰囲気が充満しているだろう。そんな想像を浮かべながら恐る恐るというように、俺は木から顔を出し三人を確認する。
「えぇ~、ホントに?」
「うん。ボクの町ではみんなそうだよ」
「あら、それはなんだか魅力ありますわね」
……あれ?
だが、想像とは裏腹に笑い合いながら三人は楽しく会話をしていた。トイレに行く前のギスギスした空気が嘘のようだ。
なんだ。仲良くなってるじゃん。
明るい光景に俺は安心し、木の影から身体を乗り出す。これなら三人とも俺の話も聞いてくれるだろう。
「あ、佑真おかえり」
「長かったね。そんなに溜まってたの?」
「ユーナさん、はしたないですわよ」
笑顔で迎えられ、俺はベンチに腰掛ける。
「楽しそうだな。三人で何を話してたんだ?」
「それぞれの自己紹介、それから自分達が住む国のお話をしていました」
「凄いんだよ。アリシアは一国のお姫様なんだって」
「女の子の憧れよね~」
「いえいえ、わたくしはまだまだ未熟者。それよりも、ユーナさんの活発ぶりがは羨ましいです。わたくし、国では堅物なんて言われていますから」
「そうそう。見てるこっちもなんか元気出てくるもん」
「そんなことないよ。ボクは頭で考えるのが苦手なだけ。身体動かすのが取り柄なだけだし」
「私、運動苦手だから普通に羨ましい」
「あら、千尋さんだって料理が得意なのでしょう? 女性としては必須能力ではないですか。わたくし、料理はどうも苦手で」
「ボクも丸焼きなら得意だけど、料理となるとダメなんだ~」
「でも、そんなたいした物は作れないよ?」
「ご謙遜を。今度御教授していただけませんか?」
互いが互いを誉め合う。そこには何気無い会話で盛り上がる、年相応の女の子三人がいた。
よかった。これなら落ち着いて話ができそうだ。
「なあ、少し話いいかな」
「話?」
「ああ。今俺達が迎えている現状の事だ」
「何か新しい情報がありますの?」
「ある。といっても、さっき言った内容とさほど変わらないが」
「それでも、何か進展があるなら聞きたい」
「そうだね。ボクもまだはっきり理解していないし」
受け入れ体勢を取ってくれたので、俺は先程のクリス様とのやり取りをそのまま伝えた。
「ふ~ん。三つの世界が……」
「一つに融合した」
「合体だね!」
思いの外、三人はさほど驚くことなくあっさり受け入れた。
「あんま驚かないんだな」
「いや、そりゃあ驚いているけど、私はもう慣れたというか」
「それに、こうして異世界の住人が鉢合わせするという理由もそれで納得できます」
中々理解力が高い。最初からそうだったら楽だったのに、とも一瞬思ったが、今さら言っても仕方がないだろう。
「それで、ユウマっちはこれからどうするの?」
「あ、ああ。取り合えずこの世界のクリア条件がはっきりするまではどうしようもないな」
「どんな条件なんだろ?」
「さあな。でも、予想としてはたぶん討伐系じゃないかな」
「何で?」
「まずアリシアとユーナの世界では討伐だったんだ。世界を悪に染めようとする主を倒すっていう。二人の世界が混ざったって事はその可能性が高い」
何も考えずにいるわけにもいかないので、俺は俺なりに今後の予想を立ててみる。三つのうち二つは悪魔やら魔物といった生物との戦いがある世界だ。俺の予想もあながち外れとも言えないだろう。
「いや、私そんな戦いとか無理よ?」
「心配すんな。俺が守ってやる」
「あ、ありがとう……」
嬉しさからか、千尋が頬を赤らめながら俯く。ああ、可愛い。
「……わたくしは守ってくださらないの?」
「……ボクは?」
「も、もちろん二人も守るに決まってるだろ」
ジトー、っと薄目でこちらを見てくる二人に慌てて答える。
「ただ、その場合二人には協力もしてほしい。二人の強さは俺がよく知ってるし、連携もやり易いだろう。一人じゃとても無理だろうが、心強い仲間がいれば乗り越えられる」
「もちろんですわ」
「あったり前~!」
二人が胸を張って迷いなくオーケーしてくれた。誰よりも信頼しているし、これ以上いない味方だ。協力を願わない訳にはいかない。
「でも、これはあくまで俺の予想だ。まだそうなるとは限らない」
「そうですが、あらゆる対策を考えるのは無駄ではないですわ。戦でもその一つで戦況が大きく変わるわけですし」
「だね。狩りでも周りを気にしなくちゃ、自分が狩られるかもしれないもん」
ああ、俺はなんて良い仲間……いや、恋人を見つけたのだろうか。
三人の恋人、三股の構図とか考えていたのがバカみたいだ。そんな考えゴミ箱にでも捨ててしまえ。ここにはそんな事気にしない、最高の恋人がいるんだ。感動で涙が出そう。
「まあ、この話はこれで終わり。それじゃあ、本題に入りましょ」
「本題?」
感謝に浸っている俺の耳に、千尋が意味不明な言葉を発した。
「本題って何だよ。今話してたのがどう見ても本題だろ」
「何言ってるの佑真? そんな世界がどうとかクリア条件がどうとかなんて私達には関係ない。もっと重大な問題があるわ」
「関係ない? いやいや、大ありだろ。今後の人生に関わるんだぞ? それよりも重大な問題って何だよ?」
「じゃあ佑真、選んで」
俺の言葉を無視して、千尋が俺に問い掛けてきた。
「選んで、って何を?」
「何を? 決まってるじゃない……」
そして、次の千尋の台詞に俺は固まってしまった。
「佑真にはこの三人から本当の恋人を選んでもらうわ」
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