カウントダウン
「相変わらずのシスコンぶりね。もう少し自重したら?」
並んで歩きながら千尋が話し掛けてくる。気付けば周りには同じ制服を着た生徒達が集まり出し登校していた。
「無理だ」
「そんなきっぱり言わないでよ。まあ、チヨちゃんが可愛いのは分かるけど……。さすがにあれだけオープンにされると恥ずかしいわ」
「いいや、無理。というかダメだ。あれほど可愛い天使がいて何もしないとか犯罪だ」
「逆逆! 何かした方が犯罪だから! やめてよ? 本当に一線は越えないでよ!?」
わりと本気で焦る千尋。分かってるよ。それくらいの理解は持ってる。
……おはようのキスは問題ないよな?
「もう……。あんたのチヨちゃんLOVEは今に始まった事じゃないからいいけど、その愛情を……もう少しこっちに向けてくれてもいいじゃない。私達……一応こ、恋人なんだから……」
ぶつぶつと、千尋がどこか不貞腐れたように頬を膨らませている。
千尋の言う通り、俺達は付き合っている。付き合い初めて半年くらいか。ただの幼馴染みから恋人という関係に最初は戸惑ったりしていたが、生活に変化があったわけではなかった。一緒に登校したり、何処かへ出掛けるのも以前から行っていたので、すぐに慣れてしまった。
「おや~? もしかして千尋、嫉妬してるのか?」
「な!? は、はぁ!? べ、別に嫉妬してないし! 私ももう少しこう、イチャイチャしたいとか思ってないし!」
顔を赤らめながら千尋が捲し立てる。ちょっとしたからかいのつもりだったのだが、思った以上に効いてしまった。本音が口から出ている。
イチャイチャしたいとか思ってるのか……。
俺は今まで通りの接し方でいいのでは? と思っているが、女の子の千尋からしたらやはり恋人らしい事はしたいのだろう。前に一緒に買い物に出掛けた際、手を繋ぐという行為に千尋は最大限の勇気を振り絞ったらしい。手を繋いでからは千尋はとても嬉しそうに、そして楽しそうだった。
そういや、ここ最近千尋と二人で出掛けたりしてないな。
お互い都合が中々合わず、デートらしいデートが出来ていない。もしかしたら不満が溜まっているのかもしれない。
「そうだ千尋。次の休み空いてるか?」
「日曜なら空いてるけど、何で?」
素っ気なく答えるが、目には期待の輝きが満ちている。分かりやすいな、お前。
「久し振りにどっか行こうぜ。映画でも何でもいいからさ」
「ふ、ふ~ん。ま、まあ、あんたがどうしても行きたいって言うなら付き合ってもいいけど?」
台詞と表情が合ってないぞ。顔ゆるゆるじゃねぇか。嬉しいのを我慢しているのだろうが、それが返って変顔になってるぞ? ツンデレのツンがなってない。
「なんだ。行きたくないのか。じゃあ、俺はチヨと――」
「待って待って! 行きたい! 佑真とお出掛けしたい! お願い連れてって~」
半べそをかきながら千尋が俺にすがる。泣くくらいなら最初から素直に受けろよな。まあ、そこが千尋の魅力の一つなんだけど。
「んじゃ、決まり。日曜遊びに行こうぜ!」
「うん!」
満面の笑顔で千尋が頷く。しかし、でも……と続けた。
「珍しいね。佑真がそんなにやる気になるなんて。何かあったの?」
「いや、何かあるのはその後かな」
「……? どういう意味?」
「あっ、いやいや、何でもない!」
俺は慌てて手を振る。千尋は不思議そうにしていたが、すぐに気にしなくなった。
恋人同士のデート後。もしかしたらHなイベント、と大抵の人が思うかもしれない。いや……まあ俺も少しは期待したいが。だが、実際はそんなウハウハな展開が訪れることはない。
デートのある日曜、その日に待ち受けているのは……。
世界の崩壊だ。
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