我が身は天使の盾なり
「いってきます」
「いってきま~す!」
俺とチヨは玄関から出ながら声を掛け、一緒に家を出た。それから、二人並んで歩き始める。
チヨの学校と俺の通う高校は方角が同じであり、毎日二人で途中まで一緒に登校していた。
「チヨ、学校は楽しいかい?」
「うん! お勉強も面白いし、友達もたくさんできたんだよ!」
そうかそうか。それは大変嬉しいことだ。最近では友達をうまく作れない子供が多いと聞くが、チヨは問題なく友達がたくさん出来た様だ。兄としても誇りに思える。
「友達とはどんなことして遊んでるんだい?」
「う~んとね。お絵描きしたり本読んだり、縄跳びしたりおいかけっこしたり……」
これはますます良い。教室に留まるだけでなく、外に出て運動もして頭と身体を成長。さすがチヨ、可愛いだけじゃない。
「あっ、でもね。この前同じクラスの男の子に意地悪されたの」
「意地悪?」
「うん。チヨが持ってた消しゴムを勝手に取って、返して欲しかったら追い付いてみな、って。すぐに返してもらったけど」
あ~、あれだな。その男の子はきっとチヨが好きなんだな。気持ちは十分に分かる。チヨは超絶可愛いからな。好きな女の子の気を引きたくてつい意地悪してしまう。小学生低学年ではよくある光景だ。
「そっか~。そういう男の子がいるのか~」
「うん。チヨ、ちょっと悲しくなっちゃった……あれ? おにーたん、何でこっちに来るの? おにーたんの学校はあっちだよ?」
不思議そうにチヨが俺に問い掛けてくる。たしかに本来なら今差し掛かったT字路を俺は左に、チヨは右に曲がる。だが、俺は右に曲がっていまだにチヨと並んで歩いていた。チヨが疑問に思うのも無理はない。
「ああ、ちょっと用事を思い出してね」
「用事?」
用事、それは……。
「超絶可愛い俺のチヨをいじめたクソガキを叩きのめして――!」
「何言ってんのバカ」
バンッ、と頭に衝撃が走り、前のめりに倒れかかるが、踏み留まって振り向いてみる。そこにいたのは……。
「いって~な。何すんだよ、
一人の制服を着た女の子がいた。名前は鬼塚千尋。ポニーテールに結った黒髪で、身長は150㎝くらい。左目の下の泣き黒子が特徴の俺の幼馴染みだ。制服は俺と同じ学校の物で、手には通学鞄がある。どうやらそれで俺の頭を殴ったようだ。
チヨのおはようの挨拶に答えた後、千尋が俺に目線を向ける。
「小学生に暴力とか恥ずかしくないの?」
「何がだ。大事な妹がいじめられたんだぞ。ここは兄としても出向くべきだ」
「言ってることは正論だけど、対象内容はとてつもなく小さいレベルじゃない。その程度で行ったら余計に拗れるわ」
「バカ野郎! チヨだぞ? 相手がチヨなんだぞ!? チヨの事に大きいも小さいもない!」
「このシスコン……」
やれやれ、というように千尋が溜め息をつく。シスコン? 違う。俺はチヨコンだ!
「やっぱり、俺が一発渇を入れて――」
「いらんっつーの!」
バン、と再び千尋が俺の頭を鞄で殴る。それから、襟を掴んで引き摺り始めた。
「そんな暇ないから。ほら、行くわよ。早く行かないと遅刻しちゃう」
「待て! 離せ、離してくれ! 俺は……俺はチヨを守るんだぁぁ!」
「おにいたん、いってらっしゃ~い!」
俺の抵抗も虚しく千尋に引き摺られ、チヨは笑顔で手を振ると身体を反転させて小学校へと向かって行った。
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