異世界転生は計画的に
桐華江漢
日常
「佑真~、捕まえてごら~ん」
「あはは、待て待て~」
俺は今、夕陽をバックにした浜辺で女の子と追いかけっこをしていた。女の子はロングヘアーで赤いビキニ水着を着ており、スタイル抜群。引き締まった身体に豊かなお尻、そして揺れるお胸様。走る女の子は一歩踏み出す度にその豊かな胸が弾んでいる。
「こらこら、そんなに慌てると危ないぞ~」
俺は先行く女の子に注意を喚起するも、その言葉に力はない。台詞も喋る口もゆるゆるだ。
「ほらほら、早く~」
女の子がこちらに振り返る。しかし、まるでアニメのシーンのように夕陽の光で顔が隠れて全貌が見えない。だが直感で分かる。この子は超絶美少女だと。
「つ~かま~えた!」
俺はその女の子の腕を掴むが、バランスを崩し砂浜に二人して倒れ込む。そして、高らかに笑いあった。
「ねぇ、佑真」
「何だい?」
しばらくして反対側を向く女の子が声に掛けられ、俺はそれに答える。
「私の事……好き?」
「もちろん。全世界の……いや、全宇宙の誰よりも好きさ」
「……私も……佑真が大好きだよ」
恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな声で女の子が口にする。それから、女の子はゆっくりとこちらに身体を向けてきた。
きた、来た、キタ! さあ、俺の愛しの子猫ちゃんよ、お顔を見せてくれ。
耳、鼻、睫毛と、徐々に顔の全貌が見えだす。
いざ、ご対~面――。
****
「むささびだ~いぶ!」
「ごふっ!」
俺の腹部に衝撃が走った。
「おにーたん。朝ですよ!」
頭上から声を掛けられ、苦しみに抗いゆっくりと目を開ける。そこには俺に股がり、屈託のない笑顔の妹のチヨがいた。小学一年生で、サクランボの髪留めで結わえられたツインテールの女の子。動物をあしらったシャツにフリルの付いたピンクのスカートを身にしている。兄の俺が言うのもなんだが、その可愛さは天使をも超越するほどの可愛さだ。チヨのためならたとえ火の中水の中、地獄だろうが喜んで飛び込む。
チヨの存在に気付いた俺は、眠っていた自分が起こされたのだとようやく理解できた。
「チヨ……お願いだから普通に起こしてくれ。無防備の腹部ダイブは寝覚めにも身体にも悪い」
「そうなの? 昨日、千尋おねーたんにはこれが普通って聞いたよ」
千尋! 俺の妹に何を教えてやがる! こんな純粋無垢なチヨを乱暴者にする気か!
「チヨ、それは間違いだよ。女の子はそんな起こし方しない」
「でも、時々千尋おねーたんはおにーたんを蹴ったり叩いたりして起こしてるよね?」
「あれは女の子の皮を被った阿修羅だから真似しちゃダメ」
「あしゅら?」
おっと、小さいチヨにはまだ難しいか。もう少し大きくなったら説明してあげよう。
「いいかいチヨ。優しい女の子は蹴ったり叩いたりダイブしたりして起こすことはしない。チヨは優しい女の子じゃないのかい?」
「え~、チヨは優しい女の子だよ。動物さんにもいいこいいこしたりするもん」
「だったら、もうこんな起こし方はしないように。優しくて可愛い女の子は別のやり方で起こすもんなんだよ」
「ふ~ん。別のやり方って、例えば?」
例えば? ふふん、そんなものは決まっている。
可愛い女の子に起こしてもらう方法……そう、それはキス! 男なら誰しも憧れるであろうおはようのキッス! 頬にチュッ、とされるだけで一気に覚醒。ましてや相手は愛しのチヨ。たとえ死の眠りだろうと目覚める。
「例えばだな……」
ふっふっふ。これを伝えれば、毎朝俺はチヨのキスで目覚めることになる。おっと、勘違いして貰っては困るが、これはあくまで兄妹のスキンシップ。別にやましい気持ちはこれっっっぽっちもないぞ?
「優しい女の子が起こす方法。それは魔女に与えられたリンゴをかじって深い眠りに就いた白雪姫と同じ……そう、キッスだ!」
キメ顔でチヨを指差す。しかし、その先になぜか肝心のチヨの姿がない。
「お母さ~ん、おにーたん起きたよ~」
パタパタと音を立てながら、チヨが階段を駆け降り母親に報告しに行っていた。
「……さぁて、起きるかな~」
一度伸びをして身体を解し、俺はベッドから抜け出す。
さあ、俺の日常の始まりだ。
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