第26話 二人の壁
これからどんな生活が待っているのか想像もつかない。
だが、自分は相手に酷く拒絶されている事は分かった。あそこまで拒絶するなら、少なくとも叔父にされたような仕打ちを再び味わう事はないかもしれない。
それならば、いくらでも堪えられるはずだ。
自ら彼との共存を願い出た以上覚悟を決め、アレアはもう一度涙を拭い去り歯を食い縛った。
「……っ」
自分で選んだ道。もうこの道を進むしかないのだ。だから、もう、泣かない。
*****
彼女から望んだ共存の道。
12年もの間切り離してきた、人間との共存……。
「……」
リガルナは戸惑いの表情のまま、何気なく自分の手を見下ろした。
今更関わりをどうもっていいのかも分からない。自分の中にある、押し込めてきた希望と絶望とがせめぎ合い、酷く落ち着かなかった。
もう自分自身が分からないほどグラグラと揺れているのが分かる。
「……くそっ」
心を許したくは無い。心を許してしまった後の絶望が大き過ぎた。でも、それでも自分の中にまだあるのだろう“人間らしさ”が、自分の考えとは裏腹に強く彼女の存在を結び付けたがっている。
もやもやとした感情を抱えたままリガルナが洞窟まで戻ると、落ち着きを取り戻したようなアレアの姿が見えた。
「……」
リガルナは遠巻きにそんな彼女を見つめていた。
一体いつまであの場所にいるつもりなのか。そんな事を考えながら彼女の様子を見ていると、時折お腹に手を当て、ぎゅっと何かに耐えるように唇を噛みしめ地面に着いていた手を握り締める。
腹が減っているのだろうか……。
痩せ細った体を見れば、これまでの食生活がまともでなかったのだろうという事は分からないでもない。
リガルナは冷めた眼差しで彼女が空腹に耐え忍んでいる姿を見つめ、くるりと踵を返しその場を立ち去った。
ボスン、と言う重たい音が響き、コロコロと地面を転がって何かがアレアの手に当たる。アレアはそれに驚いて僅かに顔を上げると少し離れた場所に人の気配を感じ取り、リガルナが戻ってきていた事に気が付く。
「喰え」
冷たいながらもそう言い放つリガルナの言葉に、手に当たった物を恐る恐る手に取った。
ズッシリとした重量感のある、ひょうたん状の形の何か。触ると実は固く絞まっており、ひんやりとして冷たい。表面には少しのうぶ毛が生えているのかフワフワとした感触もあった。
「あの……これは……」
「……」
無言を守るリガルナに怯えながらも、アレアは投げ寄こされたその手元の実をぎゅっと口を引き結ぶも、空腹に勝てずにそれに噛り付いた。
「……っ」
口に含んだ瞬間、あまりの酸っぱさに顔を顰める。だが、口にして分かった。これは昔食べた事のあるクレフと言う実だ。
クレフは熟れていれば皮ごと食べられる、食感は洋梨と同じく果汁がたっぷりのシャリシャリした甘い果実だ。身の中心は空洞になっており、そこは小さな種とよく果汁に満ちている。
しかしこのクレフはまだ熟していない為に固く、歯ざわりが悪い上に酸っぱい。
しかし、文句など言える立場ではない。何より、空腹を凌ぐためにも何も言わずただ黙々とクレフに口をつけた。
「あの……、ありがとうございました」
「……」
しかしリガルナはその言葉にも一切返事を返そうとはしなかった。
名前などどうでもいい。リガルナはアレアとは違い別段そこに気を取られる事などなかった。
「……」
これから先もこんな風にずっと共存して行くことになるのだと言う事に、アレアはショックとも安堵とも付かない思いに包まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます