第4話

その部屋は、とにかく真っ赤だった。

部屋を赤に染めているのは他者の血飛沫。

「フフン~♪」

そこに、霧島慎太朗はいた。

それともう一人。

「あら~?随分とご機嫌ぢゃない?慎ちゃん♪」

その女は、一言でいうと妖艶。

金髪の巻き髪を腰まで下ろし、服は露出度の高いビキニタイプのローブ、編みタイツにピンヒールといった、かなり卑猥といっていい格好だ。

「まあね♪」

一方慎太朗は、血に馴染む長い黒髪を後ろで束ね、赤い紐で結んでいる。

露出度の低い黒ローブには誰のものか分からない血が付着していた。

「え~?なになに、気になるぢゃん?」

「ふふ」

慎太朗の黒く光る目が笑った。



「久しぶりに、可愛い妹に会ったんだ♪」




その頃__京子達は

「ちょっと」

出雲の街を散策していた。

「なんでしょう?京子さん」

「なんでしょう、じゃないわよ!」

京子の機嫌はかなり悪い。

それはそうだろう。昨日、宿敵慎太朗と対峙し取り逃がしたあげく、行方が分からないので街を散策。

それなのに、新谷は両手に出雲名産の食べ物を山ほど抱えている。

まるで出雲観光だ。

「どうして観光なんかするのよ!どうせもう奴は出雲にはいないんだから、他へ行った方が多少はましなもんよ!」

確かに京子の言う通り、慎太朗が出雲に滞在している可能性は極めて低い。

昨日のダミーでそれは分かった。

「いいじゃないか、京子」

「そうですよ!滅多にこられないんですから、神様にご挨拶しないと!」

そう言った新谷はご機嫌だが、逆に京子は神様という言葉を聞いて、ますます機嫌を悪くした。

「……神なんていない」

「え?」

信じて救われたら、誰も苦労なんてしない。

「なんでもないよ。神参りなんて、馬鹿らしい。私は行かないからお前ら二人で行ってこい」

京子は二人を手でしっしっと追い払うようにして、回れ右で旅館への道へ歩き出した。

「そんなぁ!京子さ~ん!」

「まあまあ、一人になりたいのかもしれませんし…」

神谷の言葉に少し思うことがあったのか、新谷は眉をひそめた。

「でも……」

「お土産、京子にも買って帰ればいいじゃないですか」

「そう、だね」

珍しく沈んでいた新谷だったが、お土産というワードに反応し、いつもの調子に戻ってきた。

やっぱり、新谷は笑っているほうがいい。

「よぉし!行こう、神谷くん!」

「…はい」

そう思った神谷は、優しく微笑んで歩き始めた。新谷と、並んで。



「はぁ………」

疲れた。

旅館へ戻った京子は敷かれたままの布団に飛び込んだ。

ばふっと籠った音がして、京子の体は柔らかい布団に沈んだ。

「ああ、もう……」

苛々する。

新谷の明るい性格はもともとだ。

だから、観光したいなんて言い出すのは想定していた。

でも神谷は、同じアサシンなのだから、新谷には乗らないと思っていたのに。

「そんなに…仲良しごっこがしたいのか」

仲間が大事?絆が大事?

信頼関係?なんだそれ。

そんなもの全て、くだらない幻想に過ぎない。

「……」

だが、

「昔の私なら…」

そんなくだらないことを、間抜けなほど、信じていただろう。


「…最悪だ…」


゛兄さん!慎太朗兄さん!゛

゛どうしたの?京子゛


また、思い出したくないことを


思い出してしまう__


過去の、自分。



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