第3話

「京子」

背筋が凍るような

「久しぶり」

冷たく懐かしい声。


「霧島…慎太朗!!」

私は躊躇うことなく、側にあった銃を奴に向け撃った。

あらかじめ避けられると予測していた私は、弾を撃ったあとすぐに行動を開始する。

唖然としている神谷と新谷の間をすり抜け、旅館のベランダの窓ガラスを突き破った。

パリーン___

と音が響き、ベランダにいる慎太朗に懐からナイフを突き出す。

「慎太朗!!」

「ふふ。随分と威勢が良くなったね、京子」

突き出したナイフはかわされ、腕を強く掴まれた。

「放せ…!」

昔と変わらない、余裕ぶった表情に苛々がつのる。

「京子。その表情、すごくいいよ…」

「黙れ!」

パァン__!

撃った銃弾はかわされたが、腕の自由がきくようになった。

「京子」

ベランダの縁に立った慎太朗は昔のような笑顔を浮かべた。

「ここまでおいで」

「……っ!」

次の瞬間、機械音が聴こえたかと思うと、目にもとまらぬ速さの何かが、慎太朗の右手を吹っ飛ばした。

「な……」

慎太朗自身も驚いているようだ。

後ろを見ると、魔道型の銃を構えた神谷が立っていた。

魔道型を、使ったのか……?

一発撃つだけでも、かなりの魔力を消費するのに。

「……魔道型の銃なんて、ずるいなぁ」

「……」

神谷は黙ったまま、銃を構えている。

慎太朗を見る目は、さっきまでとは全く違い、殺気に満々ている。

「それに、せっかく京子と……可愛い妹との再開だっていうのに…」

「誰が可愛い妹だ、よくも今さら…」

これを言ったのは私ではなく神谷だ。

「!?」

私はよく分からなくて、混乱した。

なぜ神谷が知っている?それ以前に一体何の関係が……

「京子」

「…!」

ふと意識が戻ると、視界に私を見つめる兄の顔があった。

「また会おう」

そういってベランダから落ちた。急いで下を除きこんだが、十メートルとある下にはもう誰も居なかった。


「…ダミーだったのか」

「なあ…」

ダミーということは、さっきのは魔法か…

「なんだ」

「……」

じゃあ、奴も魔力を扱うことができる。

「いや、なんでもない」

心と頭が整理できないまま、神谷に投げかけた質問を呑み込んだ。

今は…まだ、聞けない。

聞いてはいけない。


「京子さん、大丈夫ですか……?」

戦闘後、部屋の片付けを終えた新谷が、心配そうに顔を除きこんだ。

「ああ」

「でも、顔色が良くないです…」

「そう、か…」

自分が今、どんな顔をしているかなんて想像がつかない。

きっと、酷い顔をしているのだろうな。

「隣の部屋、お布団敷いておきましたから、今日はもう休んでください」

新谷は本当によく気が利く。

「ああ、助かる」


布団に入ると体の力が抜け、どっと疲れが押し寄せた。さっきまでの緊張感が抜けたせいでもあるが、それと疲れのせいで眠気が襲う。

そのまま意識を手放し、私は眠りについた。



京子が眠りについた頃__


「あれ、京子は?」

外へ行っていた神谷が、部屋に戻ってきた。

「もう寝ちゃいましたよ。随分お疲れだったので」

「…そうですか」

「それにしても、初日から対象と接触するんて、運が悪いですよね~」

京子さんも本調子じゃないし、と新谷はぼやいている。

「そうですね…」

軽く受け流した神谷は、隣の部屋で寝ている京子を影から見つめた。

近くに行きすぎると、殺られる可能性がある。寝ている間でも、アサシンは気を抜けない。だから、仲間との信頼、協調性が大切なのだが…

「京子に、信頼だの協調性だのは無理だろうな~…」

「え?神谷さん、今何か言いました?」

「……何でもないですよ」

京子に信頼や協調性がなくても、誰かが、例えば俺や新谷がカバーすればいい。

大丈夫。


「次こそ、ちゃんと守ってみせる」

惨劇は繰り返させない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る