第2話

「兄、さん…なんで…」

「京子」


「いつか俺を、殺しにおいで?」


「…!!」

あぁ…またあの夢か。

ここ最近は毎日見ている、兄の夢。どこまでも私にまとわりついて、復讐を忘れさせない。

「大丈夫?」

寝ていたベッドから少し離れたところに、神谷が立っていた。

「うなされてたけど」

そういえば、昨日はあのままこのホテルに泊まれと、新谷が言ったのだったな。

「ああ…問題ない」




軽い朝食を食べ、新谷が待つ駐車場へ移動する。

「あ、おはようございます!」

「……」

相変わらず元気な奴だ。まだ朝の4時前だぞ。

「おはよう、新谷さん」

「はあ…!感激です!」

「……?えっと」

新谷の反応に、神谷は首をかしげた。

新谷は車のドアを開けながら言う。

「あ!すみません……。京子さんはいつも反応してくれないので、挨拶を返してくれたことが嬉しくて…」

そんな理由で、という顔だな、神谷。

車に乗り込んだあと、隣の神谷が私に話しかけてきた。

「どうして、反応してあげないんです?」

正直、この質問に答えるのですら面倒だが、もっと面倒になる前に話しておこう。

「私は、馴れ合いのためにここにいるのではない」

「……」

「分かったら、必要以上話しかけないでくれ」

復讐のため。

馴れ合いなどしたら、腕が鈍る。

「京子さん…馴れ合いも協調性の一貫ですよ?」

全然違うだろ。

「安心しろ。一人で突っ走るつもりはないから」

はあぁ、と新谷が運転席でため息をつく。

隣の神谷は、なぜか私のことをじっと見ているが、気にしないでおこう。




数時間後___


車に揺られやってきたのは、島根県。

「おい、ほんとにここにいるのか」

なんてのどかな町。

文明は東京に比べ、まだまだ発達していない。だから争いも少なく穏やかな町。

「確かな情報です。この出雲に滞在していると、潜伏していたものから通達が入っています」

それに、神がいるこの土地に、あいつが足を踏み入れるとは。

「……忌々しい」

「え?」

「…なんでもない。宿はとってあるのだろ?行くぞ」

「ああぁ、ま、待ってくださいぃ!」

こんなところで、のんびりしてられるか…!


先々と行く京子を見て、神谷は新谷に疑問をぶつける。

「なあ、なんであんな…なんです?」

「……え?」

「あの子、まだ15歳ですよね?ただでさえ若いのに、あんな死に急ぐみたいな…」

新谷は神谷の質問に、すぐ答えることができなかった。

アサシンのなかでも、京子の殺しの理由はタブーになっていたのだ。

「えっと、詳しくは言えませんが…。京子さんは今回の対象を、誰よりも憎んでいるんです」

「…復讐、ですか」

「奴を殺せるのなら、自分の命はどうなっても構わない。それが彼女です」

「なんて…悲しい理由」

そう呟いた神谷の声は、誰にも聞こえることなく、風とともに消えた。




今回の宿泊先は旅館。

一足先に宿泊先についた京子は、部屋の中で武器の手入れをしていた。

「魔道型なんて、なんでこんな扱いにくいものを……」

私なら、通常の銃でも奴を殺せる自信がある。そのためにずっと訓練を受けてきたのだから。

「ボス…私は、いつまでたっても貴方が解らない」

あの頃の子供のままです。

「京子さん」

「…!あぁ、お前らか」

京子に追い付いた神谷達が、京子のいる部屋に合流した。

「わぁーー!すごい、絶景ですよ!京子さん」

新谷のはしゃぎっぷりに、京子は深いため息をついた。

絶景?そんなことくらい知っている。

ここについてはあらかじめ下調べしておいたからな。

「……だから、なんだ?」

絶景か、そうでないかなど今回の任務には全く関係のないことだ。

こんなにはしゃいで、私の付き人が務まるのやら…。

「京子さんは、もう少し周りに感心を持つべきです!神谷さんも、そう思いませんか?」

「任務に関係のないことでも、目を向ければ面白い発見がある…かも、しれませんね」

神谷まで新谷に賛成意見か?

感心、感心を持つべき、ねぇ……。

「……わからんな」

感情など

「え?」

とうの昔に消え失せた。

「…この話は終わりだ。任務に取りかかるぞ」

「はい!京子さん!」



今回の任務は、霧島慎太朗の抹殺。

理由は知らないが、私と神谷が関係しているのは明白。

アサシンなら依頼は全てこなすのが当然。

だが任務は違う。

任務が与えられるのは、その事柄に深く関係のあるもののみ。

「京子さん、改めて今日からよろしくね」

こいつは一体

「さん付けは、必要ない」

奴とどんな関係が…?

「それじゃあ遠慮なく、京子と呼ばせてもらうよ」

…他人に興味を持つのは、久しいな。

そんなことを思った



「京子」

瞬間___


背筋が凍るような


冷たく


懐かしい声が、聞こえた。






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