憎愛

@20010410

第1話

血。

「……」

首のない使用人。

周りが血の海。

腕をなくし、痛みに悶える者も。

「……」

襖や障子に飛び散った血は、もはや誰の者かも分からない。

「……」

死体を踏み越え、その先の死体は、姉のお気に入りのワンピースを着ていた。

もはや顔さえ、分別ができないほどひどい有様。

そしてそれをやってみせた人物。

「…あ」

積み上がった死体の上に立つのは

「…兄、さん…?」

義理の兄である慎太朗。

右手に持っている刀からは血が滴る。

「な、んで…こんなこと」

「京子」

死体から降りた兄はゆっくりと私に近づく。

混乱している私は逃げることもできない。

殺される……!

そう思い目をぎゅっと閉じた。

しかし兄は私を通りすぎ、そのまま去っていった。

去り際に言葉を残して。



それから、その日のことを夢に見ない日などない。

一家大量殺人として警察には処理され、犯人は行方不明。事件は世間に公表されることなく、何者かに揉み消された。

家族を殺され、想いを寄せる兄に裏切られ、何もかも全てを失い、残ったものは


憎悪__


「…京子さん!」

ふと目を覚ました。どうやら車内で居眠りをしていたらしい。

あぁ、また、あの夢を見ていたのか…。

嫌な夢。

「京子さんってばぁ!」

すぐ側で情けない声を上げているのは、新谷良介。私の付き人だ。

「なんだ、新谷」

男ならもっとシャキシャキしてほしいものだ。

「これから神谷さんに会うんですから!もっと緊張感をお持ちください!神谷さんはこの日本のスターですよ!?」

スター…ね。

「なるほど。日本のスターの裏家業が、私と同じアサシンとはな」

「そ、それは…その」

私は今、アサシン…つまりは殺し屋をしている。

あの忌々しい事件後、引き取り手がなかった私はアサシンに引き取られ、殺し屋家業をやっているというわけだ。

「あ、着きましたよ!」

車は大きなホテルの前で停まった。

新谷はすぐさま扉をあけ、私をエスコートする。

「どうぞ…。神谷さんは8階のホールでお待ちですので、先に行っててもらえますか?」

「ああ」

「言っときますけど、すぐに手出そうとしないでくださいよ?事件のことを聞き出そうとか」

「分かってる」

私は今日、依頼を共に組むための仲間に会うのだ。

神谷という、表側の世界では、日本の誇る大スター。裏では、切り裂きジャックとの異名をもつ凄腕の殺し屋。

まあ、少しは腕試ししてみたいところだ。



「初めまして」


「貴方が京子さんですね?」

「ええ、よろしくお願いしますね」

早速8階のホールで対面し握手をかわすが、ああ、なんて嘘臭い笑顔。

「さすがは日本のスター、顔だけは素晴らしいようですね。腕前はどうか、知りませんけど」

「いえいえそんな。京子さんもお美しいですよ。腕前、アマチュアでないと良いですが」

今すぐこいつを試したい。

私とペアでやっていくに相応しい腕前なのか。

「すとーーっぷ!」

「……新谷」

チッ……邪魔が入ったな。

「もー、こんなとこでおっぱじめたら駄目ですよ?京子さん」

「分かってる」

いつもいいタイミングで邪魔が入る。

こいつ、新谷も一応殺し屋だからな。油断はできん、誰に対しても。

「ああ!貴方が京子さんの付き人の?」

「あ!はい、新谷です。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

さっそく仲良しごっこか。くだらん。

「おい、本題に入れ」

「はいはい。ではこちらに、お二人とも」


新谷に連れられ入った一室は、スイートルーム並に豪華だった。

「それでは、こちらを」

新谷が私と神谷に手渡したのは、拳銃。

しかも

「これは…新型か?」

見たことのないタイプのリヴォルバー。

「はい、京子さんのおっしゃるとうり。玉ではなく、自らの魔力を込め使用します」

魔道型のリヴォルバーか。

「魔道型は、俺使いなれてないんだけど?」

「私もだ」

魔道型を使用するのは、これで2度目か。

使いなれていない銃を任務に使うなど、何を考えているんだか…うちのボスは。

「ボスからの御命令はこうです。普及の少ない魔道型を使いこなし、対象を排除すること。対象は魔力を持つものなので」

ボスの命令は絶対だ。

「…対象の名は?」

魔道型の銃は、魔力を持つ極僅かな人間しか扱えない。

「対象の名は……」


「霧島慎太朗」



あの日


「京子」

去り際に、兄が言った言葉。


「いつか俺を、殺しにおいで?」



今行くよ。

「…慎太朗兄さん」

復讐の幕開けだ。









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