第二章 『副都』

第二章 1 『副都』

 異世界へとバラバラに飛ばされた卓斗、三葉、繭歌、蓮、悠利、李衣は約ニ週間を経て、再開を果たした。卓斗達は、生きて日本に帰るべく、その方法が見つかるまでこの世界で、生きる事を決めた。そして、副都にある騎士学校へ入団する事になった。


「そう、騎士学校へ行くのね。あそこに行けば、剣技が主になるけど、もちろん魔法も全ての基礎を学べるわ。丁度今が、入団時期だものね」


 そう話したのは、ジャパシスタ騎士団の団長、清水若菜だ。彼女もまた、副都の卒団生だ。


「強くなってこいよ、お前ら」


 卓也は、卓斗の肩に手を置き笑顔で話した。この男、桐谷卓也も卓斗と三葉に、この世界について色々と教えてくれた、恩人の様な存在。

 あの時、盗賊に襲われた卓斗と三葉を卓也が助けていなければ、卓斗と三葉の物語は始まる事はなく、そこで終わっていたであろう。



 ――副都での、卓斗達の新たな物語が始まる。



「副都までは、僕が案内するよ」


 繭歌は、一度副都に入団している。この世界に飛ばされた際に、副都に居た繭歌は、そこで出会った教官と話し、入団する事になった。


「じゃあ、繭歌だけが私達と一緒じゃなく先輩って事になるの?」


 三葉は、少し寂しそうな表情でそう言葉にした。


「うーん、僕は中途で入ったからね。卒団は皆と同じみたいだよ」


「良かったぁ!!」


 三葉は、安堵して笑顔を見せた。それぞれが、支度を済ませていざ、副都へと出発する。


「また会おうぜ、お前ら!!」


 卓也は、笑顔で手を振り卓斗達を見送る。その隣には、沙羽、若菜、慶悟も立っていて見送っていた。


「あの子達、きっと強くなるね」


 沙羽がそう言葉にした。卓也もそれに頷き、ジッと卓斗達の背中を見つめる。


「また会える時が楽しみだな」


 静かにそう呟いた。



 ――広大な大地を歩き、副都を目指す卓斗達。



「そう言えば、副都ってさどんな学校だった?」


 不意に卓斗が繭歌に質問をした。


「うーん、日本で言うところの大学みたいな広さで、寮もあってちゃんとしてたよ」


「当たり前よ、騎士を育てる場所なのよ? タクト、あんたもこの私に見合った護衛になって貰わなきゃ困るんだからね」


 エレナは、悪戯な笑顔でそう話した。


「だから、護衛じゃねぇっての」


 ジト目でエレナを見つめる卓斗の横で悠利が満面の笑みで茶化してくる。


「お前、えらく王妃に気に入られてんな。仲良くしてやれよ」


「あのな、護衛って事はよ、あいつの下っ端って事になるんだぞ。何で俺が下っ端なんだよ」


「この世界の人から見たら越智は下っ端キャラに見えるんじゃない?」


 蓮が卓斗の心を抉る様に無表情で毒を吐いた。


「蓮!! それは言い過ぎだ!!」


 卓斗と悠利と蓮は、最後尾で並んで歩いている。あの日の様に、学校へ向かう登校中の様な気分で何処か懐かしく、卓斗は心が暖まっていた。

 その前には、女子が並んで歩いていて三葉達は、エレナに興味深々だった。


「エレナさんは、王妃様なんだよね? どういう事してたの?」


「んー、大体はお姉様達がしてくれてたし、私は基本何もしてなかったけど」


「王妃って言っても、第三王妃だもんな」


 後ろから卓斗が、嫌味の様にエレナに話す。


「第三で何が悪いのよ!! 王妃は王妃でしょ!? 護衛の分際で私を馬鹿にするなんて何様のつもり!?」


「そうだぞ、卓斗。王妃様を馬鹿にしちゃ駄目だ。ごめんなさいね、王妃様。こいつ、好きな人にはからかう癖があんだよ」


「おい、悠利!! デタラメ言うなよ!!」


 悠利は、ケラケラと笑っている。だが、絶世の美女にデタラメは通じていなかった。


「す……すす……好き……!?」


 顔を真っ赤にして、エレナは卓斗を見ていた。


「へぇ、越智くん、好きなんだ」


 李衣が追い打ちをかける様に話す。


「ちげぇから!!」


 卓斗はそう言って、三葉をチラッと見る。三葉も、少し頬を赤らめて卓斗を見ていた。

 何故、卓斗は三葉を気にしているのか。ここ最近、卓斗は三葉に対して何かを抱いている様だ。


「じょ、冗談はやめてよ!! 護衛のくせに!!」


 エレナは、頬を膨らませズカズカと歩いていく。


「いい加減にしろよ、悠利」


「悪りぃ悪りぃ、エレナちゃんって強気に見せてるけど、実はピュアな子なんだな」


何気ない会話をしながら、騎士学校のある副都を目指す。その道中の事だった。


「ねぇ、前に倒れてる人いるよ?」


 三葉が前方を指差して話した。卓斗達が歩く前に、一人の男性が倒れていた。目立った怪我などは無く戦闘によって倒れている訳ではない様だ。


「あのー、大丈夫ですか?」


 三葉が、倒れている男性に声を掛けると、その男性は虚ろな目で、静かに口を開いた。


「み……水……の……喉が……」


「李衣ちゃん、水出してあげて」


 三葉に言われ、李衣は手の平に水を浮かべて男性の口に運ぶ。水を飲み、しばらくすると男性は、バッと突然上体を起こした。


「ふむ、我を助けてくれた事、感謝しなくてはな」



 ――その男性。白髪のマッシュルームヘアで極々普通な顔立ち。背も卓斗とあまり変わり無く杖の様な物を持っている。

 その男性は、そう言って視線を上げると三葉と目が合う。その瞬間、固まった様に動かなくなる。


「あれ? この人動かないよ?」


「本当だね」


 繭歌と李衣も、その男性の頬を指で突くが、微動だにしない。すると、突然起き上がり卓斗達の方へと駆け寄っていく。



「――ふむ、助けてくれて、感謝する」


「いや、何で俺達に言うの? 助けたの三葉達だし感謝するなら、あっちにしろよ」


「ふむ、助けてくれて、感謝する!!」


 物凄い目力で卓斗にそう話す男性。卓斗も、この男性を不思議そうに見ていた。


「ちょいちょい、あんたさ助けて貰った女の子に対して、失礼だぞ」


 悠利が、男性にそう話すと目を泳がせて、ゆっくりと口を開いた。


「ふ、ふむ、我は……その女子、が苦手なのだ。女子、は悪魔だ。その美しい瞳で男子を虜にし弄び、いずれは捨てる。何とも恐ろしいものだ、女子」


「お前、一瞬で世界中の女の子敵に回したぞ」


 卓斗の的確なツッコミをスルーし男性は、まだブツブツと女子について話している。卓斗と悠利と蓮は、顔を見合わせ肩を竦めて、男性を後にして歩き出した。


「ほら、副都に行くぞ」


「え、あの人はいいの?」


「放っとけって、面倒くさそうだし」


 案の定、後ろからその男性が、走って追いかけてきた。


「待たれよ!! 我の話は終わってない!!」


「あーもう!! 何だよ!!」


 卓斗は、段々とこの男性に苛立ちが募ってきていた。初対面なのに、何故か苛々してしまう。


「自己紹介がまだではないか我は、オルフ……」


 男性が、自分の名前を言おうとした時、卓斗はスルーして歩き出す。


「待たれよ!! スルーするでない!! あ、今のはだじゃれではないぞ」


 卓斗は、足を止め振り返り男性に吠えた。


「お前なんかムカつく!! 面倒くさい!!」


「そんな事言うでない、こうして出会った仲だ、仲良く行こうではないか。我は、オルフ・スタンディード。これから、副都へ行き騎士を目指す者」


 その男性、オルフ・スタンディードは卓斗と同じく、副都へ向かう途中だったらしい。


「お前も副都に? 俺らと同じだな。じゃあまた後でな」


「ちょっと待たれよ!! 何故我を疎ましくする!! 折角だ、一緒に行こうではないか」


 こうして、卓斗達にうざがられながらもオルフ・スタンディードも副都へ同行する事となった。



「――は!? お前十六歳なの!? 見えねぇ!!」


 卓斗が驚いていたのは、オルフ・スタンディードが卓斗達と同じ、十六歳だった事。


「ふむ、そんなに驚く事ではなかろう」


「老け顔なんだね」


「…………」


 三葉がそう話すと、オルフは黙り込んでしまう。


「お前、いい加減慣れろよ!!」


「ふむ、女子、と話すのは凄く緊張するな。こうして一緒に歩いているだけでも精一杯なんだがな」


「それでよく副都に行こうと思ったな」


「ちなみに、私も十六歳よ」


 そう話したのはエレナだった。


「お前も同い年かよ」


「ほら、もうすぐ着くよ」


 繭歌がそう言うと、前方から大きな建物が見えてきた。


「これが……副都……」


 思わず息を呑む程の立派な建物で大きな校舎の様な物が一棟建っている。その横には、寮が建っていてその隣には、闘技場が建っている。


「凄い立派だね……」


 三葉も建物に圧倒され、思わず息が漏れる。


「ふむ、ここが我の新たな生活場所か」


「他にも何人か人が居るな俺らと同じ目的かな」


 悠利は、キョロキョロと辺りを見渡している。すると、建物から一人の女性が出てくる。



「――クスモト、待っていたぞ」


「繭歌、この人は?」


「この人は、ここの教官ステファさん」


 繭歌は、卓斗達にステファを紹介する。ステファは、紫色のロングヘアで後ろの髪を束ねたハーフアップ。

 白い騎士服に赤いラインの入った服を着ていて、タイトスカートからは長い脚が伸びている。胸元をざっくりと開け、豊満な胸が見えていた。


「私が、副都の教官、ステファ・オルニードだ、よろしくな。そろそろ入団式が始まる。そこの建物の中に入って待機しててくれ」


 中へと入ると、そこには何十名の副都へ入団する者達が集まっていた。それぞれが、青のラインの入った白い騎士服に身を通していた。


「へぇ、結構人数いるな。ここに居る皆が騎士になろうとしてるのか」


 卓斗は、高校の入学式を思い出していた。


「待たせたな、まずは、お前達のランクを調べる。名前は、あらかじめクスモトから聞いていた。ではまず、ミコシバ」


 ステファに呼ばれたのは、悠利だ。


「お前は、Aランクだ」


「Aランク……それはいいのか?」


「副都でのランクは、上から順にUランク、Sランク、Aランク、Bランク、Cランクと続いている」


「ちょっと待て、ランクって確かSランクが最高ランクじゃ無かったのか?」


 そう質問したのは卓斗だ。Sランクが最高ランクだとかつて若菜がそう話していた。


「良く知ってるな、確かにSランクが最高ランクとされている。しかし、その上にUランクが存在する。だが、副都の歴史上、Uランクを取得したのはたったの三人しか居ない。故に、Sランクが最高ランクとされた」


「たったの三人……」


「それではどんどん行くぞ、次、シノノメ。お前は、Bランクだな。次に、カミヤ。お前は、Bランクだ。次に、アマミヤ。お前は、Aランクだ。そして、オチ。お前は、Sランクだ」


「俺がSランク!?」


 卓斗は、目を見開いて驚いた。実質最高ランクを取得したのだ。


「僕と一緒だね」


 繭歌も、Sランクを取得していた。そして、ステファはオルフ・スタンディードを見て眉を寄せた。


「ん? 後の二人はクスモトから何も聞いてないが」


「あぁ、ステファさんに連絡してから行く事が決まった、エレナさんと、ここに来る途中で何故か一緒になったオルフくん」


 ステファは、次にエレナに視線を向けて目を見開いて驚いた。


「まさか、エレナ・カジュスティン様?」


「私の事知ってるのね。まぁ当たり前だけど。それなら話は早いわ、私も副都に入るから」


「分かりました。ここに入団するからには王妃様としては、扱いませんがよろしいですか」


 エレナは、腕を組み答えた。


「もちろんよ、特別扱いは必要ないわ」


「そうか、ではエレナ。お前のランクは、Sランクだ」


「まぁ当然ね」


 こうして、全員のランクが発表された。


「ちょっと待たれよ、我がまだだ!! まさか、作者にも弄られるとは思ってもいなかったぞ」


「オルフ、お前のランクはCランクだ」


 無残にも、ステファから言い放たれたのは副都の最低ランクだった。


「そろそろ入団式だ」


 奥の部屋へと入っていき体育館の様な所で、そこには副都へ入団する者達が並んでいた。ステファは、壇上に上がり新たな入団者達を見つめ、口を開いた。


「ようこそ副都へ、今日から騎士を目指し、半年間の間ここで色々と学び、強くなれ!!」



 卓斗達の副都での物語が始まった。

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