第一章 11 『この世界で』

 ――セルケト。


 異様な存在感を醸し出し多大なる殺気を放つこの人物と卓斗、エレナ、そしてエレナの所属するエルティア騎士団と対立していた、オルダン騎士団のセラ・ノエールは睨み合っていた。

 セルケトが、腕を振ると熱風が吹きつけ、卓斗達に襲いかかる。


「貴方、防御魔法でこれを防いで。私は、攻撃の準備に入るから」


「扱き使うのかよ、別にいいけど」


 卓斗は、防御魔法でバリアを張るが、熱風に一瞬で割られてしまう。卓斗は吹き飛んでしまうがセラとエレナは、自分の防御魔法で身を守っていた。


「この程度の攻撃で割られるなんて貴方それでも、ち◯こ付いてるの?」


「ちょっと!? そんな真顔で女の子が、ち◯ことか言うな!!」


 セラは、無表情で下ネタを話し卓斗は、思わずツッコんでしまう。エレナは、その隣で顔を赤らめていた。


「直ぐに体勢を立て直してこっちからも攻撃するから」


「お、おう」


 卓斗は、体勢を立て直しセルケトの方を見やる。すると、セラが槍を手にセルケトの方へと走り出す。

 槍を振り抜き、セルケトに切り掛かるが槍がセルケトに触れる瞬間、バリアに触れて弾かれてしまう。


「詠唱破棄……」


「僕のは、詠唱破棄じゃないんだよ」


 すると、セラの足元が赤く光り出し溶岩が噴き出す。セラは、すぐさま後ろに下がりそれを避ける。

 炎の壁の外側からは、溶岩が噴き出し空高く上がるのを卓也達からも見えていた。


「まさかこの中で戦ってるのか」


「卓斗くん……」


 三葉も、心配そうに炎の壁を見つめていた。何も出来ない自分を責めながら。


「まさか、貴方のは、永続魔法……」


 セラは、眉を寄せて、そう言葉にした。



 ――永続魔法。



 それは、一度使った魔法を永続的に維持する魔法の事。セルケトの場合、防御魔法を永続的に維持している様だ。


「そうだよ、僕に勝つにはこのバリアを割るしかないね」


「貴方一体何者? 名前は答えなくていい何処の騎士団に所属しているの?」


「何であんたが、この場を仕切ってるのかが分からないけど、それは私も気になっていたわ」


 エレナは、そう言い、セラの横に立ちセルケトを睨む。


「僕が何処に所属していようが君達にはどうでもいいでしょ、ムカつく。そんなに気になるなら僕を倒して、身元を調べればいいさ」


「言われなくても、そうするつもりよ」


 エレナは、剣先をセルケトに向け挑発するように睨む。


「まぁ、最高にムカついてる僕を止めれるのは、誰も居ないけど」


 そう言うと、手から溶岩を出し剣の形を作って固め、その剣先をセラ達の方に向ける。


「おいおい、あの剣は何かやべぇぞ」


 卓斗も、エレナの横に立ちセルケトの持つ溶岩の剣を見つめる。ビビり散らしているが、それをエレナとセラに悟られない様にしながら。


「ビビり過ぎよ、貴方の事これから女々男って呼ぶから」


「悟られた!? しかも、女々男!? 何か嫌!!」


 その時だった。



 ――そこまでよ。



 突然、何処からとなく少女の声が響いた。


「ん? 何か言ったか?」


 卓斗の質問に、エレナとセラは首を横に振った。何処からとなく聞こえてくる声に卓斗達は困惑していた。セルケトを除いて。


「僕の邪魔をしないでくれよ、ヴァルキリア」



 ――ヴァルキリア。



 そう呼ばれた少女。セルケトの隣の空間が歪み、そこから、ヴァルキリアが出てきた。

 見た目は、十二歳の幼女で綺麗な水色の髪色で、お団子ヘア。半分が白色で、もう半分が黒色の騎士服を着ていて、ミニスカートを履いている。

 突然現れた、その幼女に卓斗達も、不思議な目で見ていた。


「ちょっと、セルケトお姉ちゃんこんな所で、道草してる場合じゃないよ」


「僕の邪魔しないで」


「もう皆集まってるから、早く行くよ。言う事聞かないと、お仕置きしちゃうから」


 ヴァルキリアがセルケトにそう話すとセルケトは、深くため息を吐いて溶岩の剣を消した。


「僕の苛立ちは、収まらないけどこいつらを殺してからにしてよ」


「駄目、セルケトお姉ちゃんは直ぐに周りが見えなくなるから。そのうち簡単に殺されるよ? あそこに居る雑魚はまた今度にして、今は急いで帰るよ」


 ヴァルキリアは、卓斗達の方を見向きもせずにセルケトにだけ話しかける。


「だけど……」


「セルケトお姉ちゃん、私を怒らせるの?」


 ヴァルキリアがそう言葉にするとセルケトは、黙り込んでしまう。卓斗達も、その様子をジッと見ていた。

 ただ見ていたのではなく、見るしか出来なかった。ヴァルキリアの威圧感に圧迫されて。


「分かったよ、帰ろう」


「うん、いい子」


 すると、セルケトとヴァルキリアのいる場所の空間が再び歪み始める。


「ちょっと待てよ!! 逃げるのか!?」


 そう叫んだのは、卓斗だった。逃げていく事に対して、少し安堵しているがこの際だと思い、セルケト達を挑発する。


「逃げる?」


 ヴァルキリアが、ゆっくりと振り向き卓斗を見つめた。


「お兄さん、言葉には気を付けた方がいいよ。後、自分の実力も弁えた方がいいね。お兄さんと後の二人を足しても十分に実力が足りてないんだから、私達が何もせずに行くのを、ラッキーと捉えた方が賢いけど?」


「何か、腹が立つ言い分ね」


 セラは、ヴァルキリアの言い分に苛立ちを募らせていた。


「ほら、相手もムカついてる。これはやっぱり、戦えって事だよ」


 セルケトは、楽しそうな笑みを浮かべてセラを見つめる。


「セルケトお姉ちゃん」


 ヴァルキリアの、低い声にセルケトは、思わず顔が引きつり何も言わず、歪んだ空間へと入って行く。


「そうゆう事だから」


 ヴァルキリアも、歪んだ空間に入ろうとすると、卓斗は再び叫んだ。


「お前ら、一体何者だ!! 散々暴れて、逃げるのかよ」


「しつこいよ?」


 ヴァルキリアが、後ろを見やり卓斗を睨む。



「――うっ!?」


 すると、卓斗は突然、尻餅を突き手と足が、ガクガクと震え、吐き気に襲われる。


「ちょっとタクト!? 大丈夫!?」


 エレナが、心配そうに卓斗の背中を摩る。そして、ヴァルキリアは、歪んだ空間へと入って行く。


「ゲホッ……ゴホッ……何だ今の……」


 卓斗の顔は、真っ青になっていた。セルケトとは、また違った殺気と恐怖。


 セルケトが居なくなり、炎の壁が消えて行く。


「卓斗くん!!」


 三葉が、卓斗に駆け寄る。


「三葉……」


「どうしたの!? 何があったの!?」


 そこに、卓也達も駆けつけ卓也はセラを見て眉を寄せた。


「さっきの溶岩の奴、姿を変えたのか? その姿が本性か!!」


「凄い誤解をされてるのだけれど。女々男、説明してあげて」


「だから……女々男って言うな……」


 力なくツッコむ卓斗に、卓也も心配そうに見つめる。


「その人は……オルダン騎士団の人だ。さっきの溶岩の奴は、逃げてった……」


「この戦の発端が、誤解なのが分かったなら、私はもう行くわ。貴方達も、他の者に伝えておいて」


 セラは、そう話すと、歩いていく。


「今のは、誰?」


 三葉が、不思議そうにセラの背中を見つめていた。悠利と李衣との再会の後、セラ・ノエール、セルケト、ヴァルキリアと数多の邂逅を迎えた卓斗達。

 そして、エレナの依頼だった戦争の援軍は、セルケトとヴァルキリアが何処かへと立ち去って、終結した。



「――この度は、ご助力ありがとうございました」


 ウィル・ヘスパーは、そう言って頭を深く下げた。


「いやいや、大した事してないですし、むしろ戦略的敗北というか……」


 そう話したのは、悠利に肩を組まれる卓斗だった。ヴァルキリアに睨まれた後、立つのもままならない状態になり、支えが無いと立っていられない状態だった。


「戦略的敗北……ですか」


 実際、セルケトとヴァルキリアが撤退した事により、勝利かと思われるが戦略的には、胸を張って勝ったとは到底言えなかった。


「オルダン騎士団と、和解も済んだし俺達も戻るぞ」


 卓也がそう言って、ウィルにお辞儀をした。


「悠利と天宮さんも一緒に来るだろ? て事で、エレナ、またな」


 卓斗がエレナにそう話すとエレナは、モジモジし始める。


「ご、護衛が私の側から離れてどういうつもり?」


「は? まさか、お前も一緒に来たいのか?」


 卓斗がそう返すと、エレナは顔を赤くして、怒鳴った。


「は、はぁ!? そんな訳無いじゃない!! あんたが私の護衛だから離れるのはおかしいって言ってるの!!」


「お前、無茶苦茶な事言ってんぞ……後、護衛じゃねぇから。悠利達と再会も出来たし、戻って色々とこれからの事話さないといけないしな、お前の護衛は務められねぇんだ。そうゆう事だから、じゃあな」



「――ま、待ちなさいよ!!」


 エレナは、顔を真っ赤にして腕を組んで、卓斗を引き止める。


「何だよ」


「護衛が、そこまで言うならし、仕方ないわね!! 私も、仕方なくついて行ってあげるわ!! あくまでも、仕方なくだから勘違いしないでよね!!」


 エレナの、見苦しいまでの言い分にため息しか出てこない卓斗。だが、そんな卓斗の様子を見ていた悠利は、微笑んでいた。


「んだよ、悠利」


「いや、あのお前が上手くやってるなと思ってさ。人見知りで、俺ら以外にあんまり友達作らないのが当たり前だったのに、この世界に飛ばされたのも少なからず正解だったのかもな」


 この世界に飛ばされ、卓斗の性格も少し変化が見えているのかも知れない。


「エレナさんも、早く行こ!!」


 三葉が、エレナの腕を引っ張っていく。


「エレナ様!!」


 それを引き止めたのは、ウィル・ヘスパーだった。


「私の事は心配しないで、ウィル。必ず、強くなって帰ってくるから」


「お待ちしております」


 こうして、卓斗は、悠利、李衣と再会を果たし全員がここに揃った。あの日、バスが崖から落ち気付けばこの世界に飛ばされお互いの行方が分からないまま、日々を過ごしていた。

 だが、ようやく、六人が揃った。ジャパシスタ騎士団のアジトに戻りこれからの事を話していた。



「――て事は、今の所帰る方法が分からないのか」


 当然、悠利も李衣も帰る方法など分かっていなかった。


「貴方達って、本当に異世界から来たのね」


 エレナが、異世界の存在に驚きながら、そう話した。この世界の人間からすれば日本という異世界の存在など知る由もなく、信じ難い話だ。


「まぁ、私達から見ればこっちが異世界なんだけどね。でも、三葉も繭歌も元気そうで良かった。繭歌はちょっと馴染み過ぎだけどね」


「そうかな、僕はそれなりに焦ったけどね、来た瞬間は」


「私は、卓斗くんと一緒だったから少し、安心したよ? 一人だったら、絶対孤独死してたよ……」


 三葉の言葉に、卓斗は少し照れてしまう。


「およよ? これはこれは見ない内に、関係を深めてますな?」


 李衣が、嬉しそうに、ニヤニヤしながら三葉の横腹を肘で突く。その傍ら、悠利も卓斗の肩に手を置きニヤニヤしている。


「それで、蓮も一人だったんだよな」


「うん、それで奴隷にされかけたけど越智達に助けて貰った」


「奴隷!? 大変だったなそりゃ」


「助けてくれたって、この人達?」


 李衣は、卓也と沙羽を見つめる。若菜と慶悟は、未だ王都から帰って来ていない様だ。


「ジャパシスタ騎士団の人達で、俺らと同じ日本人」


「どうも。それでお前達これからどうする? うちで過ごすか?」


 帰る方法が見つかるまでの間卓斗達は、この世界で過ごさなければならない。


「なら、僕と一緒に副都に来る?」


 そう話したのは、繭歌だ。繭歌は、この世界に飛ばされ、副都の騎士学校に入団していた。


「副都に?」


「あぁ、いいかもな。そこで、強くなって来いよ。どうせ帰れるまで、する事ねぇんだろ?」


 卓也に、促され、卓斗達は見合わせる。


「私は、李衣と繭歌が居るならどこでもいいよ?」


「じゃあ、そうするか」


 卓斗達の、これからは副都に行き、騎士学校に入団する事となった。



 また新たな、卓斗達の物語が始まろうとしていた。


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