第一章 7 『VSレイテ・マドワール』

 リンペル国の塔の中に潜入し奴隷として連れ去られた村人と蓮を救出しに来たが敵に見つかり、戦闘になる。卓斗と三葉と繭歌はこれが、初めての実戦となった。

 何とか、初勝利を掴んだ卓斗だったが、卓也達が駆けつけるのが遅れていれば三葉と繭歌と自分さえも巻き添えをくらう所だった。それも、自分の魔法で。


「早い所、村人達を見つけるぞ」


 卓也を先頭に、階段をどんどんと下りて行く。すると、薄暗く大きな広間に出てくる。


「何だここ……不気味だな」


 卓斗が、辺りを見渡すと檻の様な物が並んでいた。中には、男の人達が閉じ込められている。


「村人か!!」


 卓也が、檻に近付き男の人達に声をかける。


「おい!! 大丈夫か!!」


「あ、あんたは……頼む……助けてくれ……!!」


 中に居る男の人達は、痩せ細り服装も汚かった。奴隷として扱われている証拠だ。


「沙羽、檻を溶かしてくれ」


 卓也に頼まれた沙羽は魔法を使い、檻を溶かして捕らわれている男の人達を解放する。約五十人はいる男の人達の中から蓮を探す卓斗。


「蓮!! どこだ!!」


 すると、声が聞こえてくる。



「――越智?」


 卓斗が振り返ると、そこには神谷蓮の姿が。


「蓮!! 助けに来た!!」


「助けにって、越智達もこの世界に?」


 そこに、三葉と繭歌も駆けつけ蓮の無事に、ホッと安堵する。


「良かった、無事で」


「東雲さんに、楠本さん」


 とりあえずの目標である蓮の救出は、成功した。後は、この国から出るだけだ。


「よし、直ぐに上に上がるぞ」


 卓也の呼び掛けに、村人達と卓斗達は、階段を登り出口へと向かう。


「とりあえず、アジトに帰ったら色んな事話そう」


「うん」


 卓斗と蓮の、ニ日ぶりだがやっとの再会。卓斗達にとって、このニ日は物凄く長く感じていた。後は、悠利と李衣だけだ。

 出口へと向かう一行。もうすぐ出口へと到着する寸前目の前に、立ち塞がる人物が現れる。



「――逃がさんぞ、鼠共」


 そこに立っていたのはレイテ・マドワールだった。


「レイテ・マドワール」


 蓮がそう言葉を零した。


「蓮、知ってるのか?」


「多分、この国のトップだよさっきそんな事を話してた」


 村から男達を集め、働かせて金を手に入れる。極悪非道なその男は道具である村人達を解放され鬼の形相で怒っていた。


「貴様ら、何者だ? 誰の許可を得て、ここにいる?」


「村人達は、解放させてもらう。お前のやっている事は、犯罪だ」


 卓也も、レイテ・マドワールという男の行いを許せないでいる。それは、ここにいる全員がそう思っていた。


「卓斗、村人達を連れて国から逃げろ。俺はこいつを倒し、後を追う。それとだ、お前の詠唱はジルガだ、忘れんなよ」


 卓也が、剣を構えてそう話した。


「分かった。三葉と繭歌と蓮も俺と一緒に来てくれ」


「行かせん」


 卓斗達が、村人を連れて走り出すと、レイテ・マドワールが立ち塞がる。が、その前にジャパシスタ騎士団が卓斗達の行く道を作る。


「貴方の相手は、私達よ」


 若菜と沙羽と慶悟も剣を構えレイテ・マドワールに立ち向かう。四対一と考えれば、卑怯に思えるが相手が極悪非道ならばそんな事を思う人も少ないだろう。

 自分の稼ぐ為の道具を簡単に連れて行かれたレイテ・マドワールは苛立ちを抑えながら静かに若菜達を睨んでいた。


「まぁいい、どうせこの国からは出られん」


 レイテ・マドワールは、不敵に笑みを浮かべた。


「俺ら四人を相手に、えらく余裕だな」


「貴様らの死に場所は、ここだ」



 ――塔を抜け出した卓斗達は国から出るべく、入り口へと一目散に走る。だが、その時。


「よし、もうすぐ出れる――あいたっ!?」


 先頭を走っていた卓斗が突然、何かにぶつかった様に吹き飛ばされ尻もちをついてしまう。


「卓斗くん!? どうしたの!?」


 三葉達も驚き、足を止める。


「痛ってぇ……なんだ? 何かにぶつかった様な……」


 卓斗達の目の前には、至って何もない。敵がいる訳でも無く、ただ唐突に吹き飛んだのだ。

 卓斗のおでこは、ほんわりと赤く染まっていた。涙目で、そのおでこを撫でる卓斗は不思議そうに、目の前を見つめていた。


「何も無いよな……一体どうなってるんだ?」


 立ち上がり、恐る恐る前に歩み出すと、先程吹き飛んだ辺りで、またゴツンと何かにぶつかる。


「痛っ!! なんだよこれ!!」


 手を伸ばすと、まるで透明の壁がある様な感覚だった。端から見れば、卓斗がパントマイムをしている様にも見える。


「壁……だよな」


「卓斗くん、何してるの?」


 その光景を見ていた三葉が突然パントマイムを始めた卓斗に不思議そうな顔をして近寄る。他の村人達も、戸惑いながら卓斗を見ていた。


「いや、ここにさ、壁があるんだよ。目には見えないけど、今触ってる」


「壁?」


 そう言われ、三葉も手を伸ばしてみると指先が、何かに触れる。


「本当だ、見えない壁があるね」


「三葉も越智くんもこんな時に、何してるのさ」


 繭歌には、二人が突然パントマイムで遊んでる様にしか見えなかった。この緊迫した状況で。


「ここに、壁みたいのがあんだよ」


 その透明の壁は、国の出入り口を封鎖し出るには高い城壁を乗り越えなければならない。だが、その壁には掴むところなど無く、空でも飛べない限り、出る事は不可能だった。


「うーん、これは敵の策略と考えるのが正しいかもね」


 繭歌は、透明の壁を触りながら冷静に考えていた。


「こんな時に聞くのもなんだけど、楠本さん、その格好は?」


 突然、蓮が繭歌の服装を見て不思議そうに話した。


「うん、本当にこんな時になんだ、だね。これは、副都の騎士学校の制服みたいのだよ」


「騎士学校……馴染むの早いね。越智と東雲さんは、高校の制服だけど三人は最初から一緒じゃなかったんだ」


「あぁ、俺と三葉が一緒で後で繭歌と出会ったんだ」


 会話をする四人に、村人が不安そうに話しかけた。


「話してるところ悪いんだけど……逃げれなくなったんですよね……」


「おぉ、そうだった!! どうするよ、この透明の壁」


 卓斗は、目を閉じて方法を幾つか考えた。



 ――魔法で壊す。



 だが、まだパワーバランスが制御出来ず折角助けた村人達をまとめて巻き添いにしてしまう。なんなら、自分も死んでしまう可能性もある。

 繭歌に頼るにも凍らす程度でむしろ割る事は不可能。三葉は、バリアを張るくらいしか出来ず頼る事は出来ない。蓮に至っては、魔法が使えるかも分からない。

 村人達は、当然戦える程のテラは持っておらず期待は出来ない。故に、この方法は、無しだ。



 ――割れるまで殴る。



 そう考えたものの、この透明の壁が割れるよりも先に、自分の拳が保たないと直ぐに答えを見い出し、血まみれになった自分の拳を想像すると、吐き気がした。故に、この方法も、無しだ。



 ――全員で衝撃を与え壊す。



 今この状況での、最善の策かも知れない。何かしらの棒で、全員で一気に透明の壁に衝撃を与える。そうすれば、割れるかも知れない。この方法は、有りだ。


「全員で、衝撃を与えよう」


 目を開けて、村人達と三葉達にそう話す卓斗。


「でもどうやって? 棒なんか、この辺に無いしまさか、殴るの……?」


 三葉の言葉に、卓斗は辺りを見渡す。殺風景な光景で、棒など何も無かった。故に、最善の策は、無しになってしまった。


「くそ、卓也さん達が来るのを待つしか無いか」


 だが、その時、透明の壁に足止めをくらっていた卓斗達の前に出会いたくなかった人物が現れた。



「――逃げ道が無くなってしまったな」


「レイテ・マドワール!?」


 現れた人物とは、レイテ・マドワールだった。だが、若菜達が戦っているはずだ。


「若菜さん達はどうした!!」


 卓斗は、嫌な予感しかしていなかった。若菜達と戦っている筈の相手が今ここに居る。それは、若菜達が負けたという事になる。


「これは、ピンチだね」


 流石の繭歌も、焦っていた。若菜達が倒れたとなると、レイテ・マドワールに勝つしか生き残る方法が無いからだ。


「あー、あいつらかそれなら、戦っている所だ」



「――は?」


 レイテ・マドワールの言葉を理解出来ない卓斗達。若菜達と戦っている途中ならば今ここに居る、この男はどういう意味になるのか。


「じゃあ、お前は……まさか、双子か!?」


 卓斗が、考え出した答えはレイテ・マドワールが双子だという事。すると、レイテ・マドワールは卓斗の答えがツボに入ったのか高らかに大笑いをした。


「ハハハハ!!! 双子か!! それは面白い発想だな」


「何が可笑しいんだよ」


「面白い、が双子では無い。俺は一人だ」


 双子でなければ、この状況の理解が更に出来なくなる。卓斗達の頭の中には、疑問符でいっぱいになっていた。


「卓也さん達と戦ってるなら、何でここにいる?」


 卓斗の質問に、レイテ・マドワールはゆっくりと口を開いた。


「簡単な事だ、分裂魔法。俺は最大四人までに分裂できる。まぁ、その分実力は半減されていくが、貴様ら如き、半減した所で支障はきたさない」



 ――分裂魔法。



 それが、レイテ・マドワールが二つの箇所に存在する理由だった。


「――これはこれは、自ら能力を明かしてくれるとは、まぁ典型的な雑魚キャラだね」


 そう言葉にし、レイテ・マドワールを挑発したのは、繭歌だった。その言葉に、レイテ・マドワールは眉を寄せて、繭歌を睨む。


「なに?」


「よくあるパターンだよ。能力を自ら明かして、逆手に取られ敗北する、惨めなものだね」


「ちょっと繭歌、挑発したら駄目だよ……」


 不安を煽る繭歌に三葉は、慌てふためく。だが、レイテ・マドワールは依然として、悠々とした態度だ。


「なら、そのよくあるパターンかどうか試すか?」


 レイテ・マドワールが、右手を卓斗達に向けて翳す。



 ――テラ・ボルガ。



 そう言葉にした瞬間青い稲妻が、レイテ・マドワールの手から放出され、卓斗達に襲いかかる。


「くそっ!! テラ・フォース!!」


 卓斗が、とっさに防御魔法を唱えた。赤白いバリアが現れ、レイテ・マドワールの魔法から村人達を守る。


「ほう、魔法は使えるのかなら、少しは楽しめそうだな」


 次に、レイテ・マドワールが手を振りかぶると、空から物凄い勢いで、雷が落ちてくる。青白く稲光り、その音は凄まじく他の誰かの声が全くもって聞こえてこない程。

 恐怖の余り、心臓の鼓動が早くなる。だが、その鼓動の音さえ聞こえなかった。隣を見やると、繭歌と三葉が空から降ってくる雷に向かい手を翳している。

 卓斗は、それを見て察し自分も雷に手を翳す。三人は、同時に詠唱を唱えた。



 ――テラ・フォース!!



 赤白いバリアが、三重に重なり雷を受け止める。その衝撃で、地面にヒビが入り大きな地震の様に、大地が揺れる。

 卓斗と三葉と繭歌の、翳している手がだんだんと重くなる様に感じ限界は近づいていた。だが、容赦なく雷はどんどん降ってきて、三重のバリアは割れる寸前まで来ていた。


「このままじゃ……まずい……!!」


 そう言葉にする卓斗だがその声も、三葉と繭歌には届かない。ニ人の表情も、必死で一気に汗がふきでてくる。

 次の瞬間、三重のバリアは粉々に砕け散り、卓斗達の居た場所で大爆発が起きる。爆炎は、空高く伸び辺り一帯の地面を抉り、周りの建造物さえも吹き飛ばしていく。



 ――卓斗の視界は、ここで真っ暗になった。


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