第一章 2 『二人の物語の始まり』



 バスに乗り、夜景スポットへと向かっていた道中、バスは突然ガードレールをぶち破り、崖下へと真っ逆さまに落ちて行った。バスに乗り合わせていた卓斗は気がつくと、広大な大地が視界に飛び込んできた。



 ――どこだ……ここ。



 確かに、先程までバスに乗っていた筈だ。そして、崖から落ちて死んだ筈だ。あの高さからの落下なら間違いなく、死ぬか意識不明の重体になるだろう。だが、目の前にはただ、広大な大地が広がっているだけだ。


「ぅ……うぇ?」


 言葉が出てこない。


 卓斗の目の前には緑一面の、広大な大地、草原が広がっていた。月明かりが神々しく光り、涼しげな風が吹いている。


 「ここって……」


 卓斗の胸が、ドクンと鳴ると隣から、声が聞こえてくる。


「痛っ!!」


 女性の声だった。ふと隣を見やると、そこには先程バスで隣に座っていた三葉だった。


「東雲……さん?」


「急に、手に力入れないでよ」


 卓斗が、視線を左手に移すと白くて綺麗な三葉の手と繋がれていた。その瞬間、卓斗の心臓の鼓動が早くなる。


「あ、ごめん!!」


 手を繋いでる事に気付き直さま、その手を離す卓斗の顔は林檎の様に赤くなっていた。


「べ、別にいいけど……」


 そう言う三葉も、卓斗と同じく顔を赤くしていた。


「そんな事より、ここどこ?」


 二人は、手を繋いでいたという重要な事よりも、更に重要な事が起きている。



 ――突然、場所が変わったのだ。



「崖の下……じゃないよな」


 卓斗が、辺りを見渡してみても崖はもちろん、乗っていたバスも一緒に居た、悠利達も乗り合わせていた、他の乗客の姿もなにも無く、卓斗と三葉の二人だけだった。


「すっごく怖かったけど、もしかして……死んでるの?」


「死んでる感じは、全然しないんだけどな……第一、死んだ後の世界でなんで東雲さんと二人だけなんだよ」


「私達だけが死んだとかかもよ?」


「んな訳ねぇだろあの高さだろ? 少なくとも、俺らだけって事は……」


 もしここが、死の世界なら想像と全然違う。天国なら、雲の上というイメージで地獄なら、もっと恐ろしそうなイメージなのにここは、ただの広大な大地だ。



 ――それに、



「それに、死んでもこうやって普通に喋ったり、誰かと居たりとかなんか、生きてる時と変わんなくね? なんていうか、さっき……その……手、を繋いでた時にちょっとドキドキしたというか……」


「ドキドキ?」


 自分で話して、恥ずかしくなる卓斗。だが、これが引っかかるのだ。死んでいるのに、何故か心臓がバクバクと鼓動している。死ねば心臓は、止まっている筈だ。


「もしかしたら、生きているのかも知れない」


 だが、そう結論付けるとここの場所が、どこになるんだと謎が深まるだけだった。


「んー、とりあえず何か手掛かりになりそうな物を探そうよ」


「手掛かり……か」


 卓斗が、うーんと考えるとこの風景に、見覚えがある事に気付く。


「俺、ここ見た事あるんだよな……」


「私も!!」


 三葉も、この場所に見覚えがあり身を乗り出して声を上げる。二人は、過去の思い出や記憶を一気に辿っていく。だが、答えは直ぐに見つかった。


「夢…」


 卓斗が、そう言葉を零した。


「夢?」


「そうだ、夢だ!! 俺ここで、昼寝してる夢見た!! 間違いねぇ、この風景今は夜だけど、絶対同じ場所だ」


 卓斗が、昨日の夜に見ていた夢。その場所と、完全に一致している。


「それ、私も見た……」


 三葉も、この風景を夢で見ていた。


「へ? 東雲さんも?」


「うん、すごく気持ちよくて幸せな夢だったな……」


 同じ様な夢を見ている人が居るとは思ってもみなかった卓斗は少し戸惑っていた。


「もしかしたら、ここは夢の世界なのかな」


「夢の世界……」


 夢の世界となれば、可能性は見えてくる。だが、夢にしては少し、リアル過ぎる。肌で感じる風や、三葉との会話、今までには、見た事の無いリアルさだ。


「とりあえず、誰か居ればいいんだけどね。探してみる?」


「探すって?」


「あっちの方に行ってみようよ」


 三葉は、月のある方向を指差す。


「ま、そうだな」


 そして、二人は歩き出す。歩くしか無かったのだ。ずっとその場に立ち尽くしていてもこの場所がどこなのかは分からないままだ。

 夢にしろ、なんにしろ現状が分からない今は動くしか無い。


「今はさ、死んでるかもとか、夢かもとか、思わないで生きてるって思っておこうよ」


 三葉は、笑顔でそう話した。卓斗は、その笑顔に少し励まされた様に思えた。


 ――もし、この場に自分一人だけだったらと考えるとゾッとしてしまう。いつしか、三葉に対して緊張とかは消えていて普通に接していれている。


「東雲さんは、こういう時でも冷静なんだな」


「そうでも無いよ。すごく怖いしすごく不安だよ? でも、一人じゃ無い……越智くんが居てくれて良かった。本当は、李衣とか繭歌が居てくれたら良かったんだけどね」


 自分と同じ様な事を考えていると少し、親近感が湧いてしまう。しかし、さすがは女子こういう場面でも、弱さは見せない。



 ――それから、どれ程歩いただろうか。



 広大な大地を抜けて、林道を歩く。獣がうじゃうじゃといそうな雰囲気を醸し出している林道を一人では、到底歩けないだろうなと感じていた卓斗。


「時間も時間だし誰も居ないだろこれ」


 確かに、この暗がりに林道には人が居るはずが無い。


「もしかして、もう疲れたの?」


 図星を突かれてしまう。正直、卓斗の足は限界に近づいていて休憩したい所だが三葉は、まだまだ余裕な素振りを見せている。男としてのプライドで女より先に、弱音を吐く訳にはいかない。


「そんな訳無いだろ大体、今何時なんだよ。バスに乗った時が、二十時くらいだろ? もう二、三時間は経ってる気がするけど」


 二人は、ここで気付く。



 ――携帯電話の存在を。



「携帯だ!!」


 卓斗は、ズボンのポケットから携帯を取り出す。画面の時計には、零時十五分と表示されていた。


「うわ、日回ってるじゃんしかも、圏外だしここ」


 電波は、圏外になっていて連絡を取る手段は、絶たれてしまう。


「見た感じ、電波塔とかも無かったもんね」


 街灯も何も無い、月明かりだけが卓斗達の歩く場所を照らしていた。


「携帯が使えないんじゃ歩くしか無いか……」


 また歩くのかと、絶望感に溢れる卓斗。だが、プライドがある為弱さは、見せられない。


「東雲さんの携帯も圏外?」


「うん、私のも駄目」


 その、隣で三葉も携帯を見ていた。


「ていうか、三葉でいいよ」


「――へ?」


 三葉は、携帯をポケットにしまうと近くにあった、大きな石に腰掛ける。


「呼び名」


 三葉から、距離を縮めてきた事に少し驚く卓斗。たった一回合コンしただけの仲だがこうなってしまった以上先の見えないこの事態を二人で乗り越えなければならない。


「じゃあ……三葉……」


「うん。卓斗くん」


「俺は呼び捨てさせておいて自分は、くん付けかよ!!」


 ふふっと笑う三葉の笑顔にまた励まされてしまった。素の自分を見せてたのは悠利と蓮だけだったから卓斗にとっては、新鮮な出来事だった。


「少し休憩しよっか卓斗くん、疲れてるだろうし」


「そうだな」


 素を見せれるなら変なプライドは要らないと、卓斗は思い休憩を取る事にした。


「――ね、夜空見てみて、星がすごく綺麗」


 三葉の隣に座った卓斗はそう言われ、夜空を見る。そこには、満天の星空が広がっていた。ここまでの道のりの疲れを吹っ飛ばしてくれる様な爽快感を感じる。


 三葉は、石の上を寝そべり夜空を眺めていた。季節はまだ春だが制服だけでもどこか、寒く無い。むしろ、静かな風が心地いいくらいだ。


 ここは、一体どこなのだろうか。


 不思議な場所なのに、何故か嫌な気はしない。むしろ何故か落ち着けている。



 ――死の世界。


 ――夢の世界。



 そのどちらとも呼べる様な世界。彼らは何故、この様な所に迷い込んだのか。

 そんな事をも、考える暇を与えないくらいに夜空の迫力は、物凄く卓斗は一瞬、時を忘れていた。


「この場所は、なんなんだろうな本当……」


 今までに、経験の無い感覚。死んだ事は無いから死の後の世界の事は知らない。だが、この様な場所では無いだろうと思ってしまう。夢ならリアル過ぎて、直ぐには信じる事は出来ないであろう。


「三葉?」


 ふと、気がつくと隣に寝そべる三葉がやけに静かだと視線を移す。


「――スゥ……スゥ……」


「寝てるし」


 三葉は、気持ちよく寝ていた。その寝顔を見ていると微かに顔が熱くなった様に思えた。そして、思わず口元が緩んでしまう。


「疲れてたんだな」


 ブレザーを脱ぎ、それを三葉に被せてあげる卓斗。何も分からないままただただ、時間だけがゆっくりと進んでいく。



 ――目を閉じている、真っ暗な視界にチカチカと、明かりを浴び三葉は、目を開けた。


 夜が明け、太陽の光が降り注いでいた。


「朝……?」


 目を擦って、体を起こす。眠りから覚めても場所は変わらず、林道の横の大きな石の上に三葉は居た。


「あれ、卓斗くん?」


 三葉が辺りを見渡しても卓斗の姿が無かった。お腹の場所にだけ卓斗のブレザーが被せられていた。


「お!! 起きたか?」


 林道の林から、卓斗が頭に葉っぱを付けて出てくる。


「どこに行ってたの?」


「腹減ってさ、何かないかなってこれしか無かったけど」


 卓斗は手に、ヤシの実の様な物を持っていた。恐らく、一睡もしないで食べ物を探してくれていたんだなと三葉は、申し訳なさと卓斗の優しさに心がキュッとなっていた。


「喉しか潤わないけど」


 卓斗は、そう言うと手際よく、ヤシの実を割り三葉に渡す。


「ほい、喉乾いてるだろ?」


「え……うん」


 三葉は、ヤシの実を受け取り乾ききった喉を潤す。


「わ、美味しいこれ!!」


「本当か!?」


「卓斗くんも!!」


 三葉は、ヤシの実を卓斗に渡し卓斗も、喉を潤した。


「ぷはっ、うわ、美味しい!!」


 まるで、ジュースの様な甘みと、若干の酸っぱさ。喉が渇いていた二人にはとても、美味しく感じた。


 しかし、三葉と卓斗は気付いてしまった。



 ――間接キスをした事を。



「はっ……!! お、ちょ、悪りぃ!!」


「い、いい、いやいや!! 私こそ、ごめん!!」


 今までに、そういった経験の無かった二人はこの短時間で、間接キスと手繋ぎをやり遂げていた。お互い、顔を赤らめ目を合わせる事が出来ない。


「あ、そうだ……!! こ、これ、返しとくね!!」


 視線を逸らしたまま三葉は、卓斗に被せられていたブレザーを渡す。


「お、おおう!!」


 目のやり場に困っていた二人の前に、遠くから何かが、近づいて来る。


「ん? ね、ねぇ!! あれ!!」


 三葉が、近づいて来る方を指差し、卓斗も視線をそちらに向ける。遠くからでも、明らかに分かった。馬に乗った人が、三名ほどこちらの方向に向かって走っていた。


「人だ!! 人だよ!! やっと他の人に出会えたね!!」


 ようやく見つけた、自分達以外の人。卓斗と三葉は、間接キスの事など一瞬にして忘れる程、歓喜に包まれた。


「おーい!! おーい!!」


 卓斗が、両手を振って近づいて来る人達に存在をアピールする。これで、この場所の事が何か分かるかも知れない。


 しかし、その希望は直ぐに、絶たれてしまう。


「珍しい格好だな、お前ら金目の物出せや」


「は?」


 厳つい風貌の、強面の大男とヒョロっとした、背の高い男と少しイケメンだが、どこか残念な男は卓斗と三葉を舐める様に見回して不敵な笑みを浮かべて話した。



 ――盗賊だ。



「金目の物? いや……は?」


 卓斗達は、直ぐには理解出来なかった。


「俺達は、この場所がどこなのか知りたいだけで……」


「知りたきゃ、出す物出しなぁ!!」


 ヒョロっとした男が卓斗の胸ぐらを掴み、大きな声を上げた。その声に驚いた三葉は卓斗の背中に隠れる様に身を潜めた。


「ちょ、ちょっと!! 待て待て!! お前らもしかして、強盗か!?」


「だったら何だ? あぁ? お前一人じゃ、何も出来ないだろ」


「その後ろの嬢ちゃんそいつを渡して貰おうか」


 厳つい風貌の大男が三葉を指差して話した。


「は? そんなもん、無理に決まってんだろ……!!」


 卓斗は、押し寄せてくる恐怖を押し退けて、果敢に立ち向かう。その足は、ガクガクと震えていた。三葉も、卓斗の後ろで恐怖と戦っていた。


「なら、力づくだ」


 次の瞬間、卓斗は左頬に激痛が走ったのを感じた。気がつくと、自分は倒れ込んでいて三葉が、顔を真っ青にして

こちらを見ていた。



 ――殴られたのだ。



 ヒョロっとした男は三葉の腕を掴むと、強引に連れて行こうとする。


「嫌!! 離して……!!」


「暴れんなクソ女!! 大人しくついて来ればいいんだよ!!」


 その光景を、ただ見ているしか出来ない自分への苛立ちと、恐怖の二つの感情に押し潰されそうになる卓斗。動こうにも、足が震えて立てない。



 ――卓斗くん!!



 三葉は、目に涙を浮かべて叫んだ。



 ――ドクンッ!!!



 その三葉を見た瞬間卓斗の心臓が、大きく鼓動した。そして、眼の色が赤く変色する。


「待てよ……」


 立ち上がった卓斗の足は全く、震えていなかった。


「あぁ? やんのかこら!!」


 ヒョロっとした男が、卓斗に近づき再び、殴りかかる。だが、卓斗はいとも簡単にその手を掴み、殴り返す。


「ぐがぁ!?」


 殴られた、ヒョロっとした男は物凄い勢いで、吹き飛んでいく。


「卓斗……くん?」


 三葉には、何が起きたのか分からないでいた。唯一、分かったのは眼の色が赤く、卓斗の様で卓斗では無い感じがしていた。


「やりやがったな、お前!!」


 厳つい風貌の大男は鬼の形相で卓斗に殴りかかる。だが、卓斗はそれを避けて軽々と大男を投げ飛ばす。


「その子を離せ」


 卓斗は、低い声で三葉の近くに居る、イケメン風な男を睨む。


「なんなんだよ、お前……気持ち悪いな!!」


 卓斗は、走り出し殴りかかる、がその時。眼の色が、黒に戻っていく。


「あ……れ?」


 卓斗は、再び左頬に激痛が走った。


「痛っ……俺は……一体」


 卓斗は、呆然としていた。三人いたはずの男達は一人になっていて、何が起きたのか理解出来ない。


「さっきの威勢はどこに行ったんだ?」


 イケメン風の男は卓斗に馬乗りになり何発も何発も殴る。


 ――痛い。


 もう痛みを通り越して熱く感じてきている。口の中は、血の味で一杯になり意識が遠退いていく。



 ――卓斗の視界は真っ暗になった。



「はぁ……はぁ……もういい、お前も殺してやる」


 イケメン風の男は、卓斗から離れると三葉の方を向く。その足元には卓斗が意識なく倒れ込んでいた。三葉は、思考が追いつかず何も言葉が出て来ない。


 イケメン風の男は、どんどん三葉の方に歩み寄ってくる。その右手は、卓斗の血で赤く染まっていた。


「い……嫌……!!」


 これが、三葉の精一杯の抵抗だった。だが、無力な少女にはこの絶望に抗う事は出来ない。



 ――そこまでだ。



 突然、三葉の後ろから男性の声が響き渡った。


「あ? 誰だお前」


 三葉が振り返ると、そこには青年が立っていた。


「怖がってるだろ、この子」


 ピチッとした黒い服を着ていて黒髪で、髪の上の部分をオオカミのたてがみの様に立たせ襟足や耳周りを長く伸ばしたヘアスタイル。顔も整っていて、イケメンだ。青年は、腰に携えていた剣を抜き剣先をイケメン風の男に向ける。


「ジャパシスタによってお前を粛清する」


「ジャパシスタだと!?」


 イケメン風の男はその言葉に、反応した。明らかに動揺している。


「チッ、覚えてろよ!!」


 イケメン風の男は、そう言って残りの二人を残したまま逃げ去ってしまった。


「怪我は無いか?」


 青年は、三葉に近寄り頭を優しく撫でた。


「あ、あの……貴方は?」


「俺は、ジャパシスタの副団長、桐谷卓也きりたにたくやだ。もう大丈夫、安心していいよ。俺は、君の味方だ。あそこの、血塗れの子も君の友達?」


 桐谷卓也と名乗った青年は血塗れで倒れ込む卓斗を指差さす。


「え、あ、はい」


 そう答えた三葉は安堵したのか、意識を失ってしまう。倒れかかる三葉を、卓也は優しく抱き抱えた。



 ――俺は、死んだのか。



 再び、暗闇を彷徨っている卓斗。霞んで行った視界の最後に映っていたのは、自分を殴り続ける盗賊の男と、その後ろで涙を流す三葉。


「俺は、三葉を守れなかったのか……? どこかも分からない場所に一人にさせてしまったのか……? せっかく出来た友達なのに情けねぇ……」


 後悔と、自分への失望感に包み込まれ暗闇の中を、彷徨い続ける。



 ――起きて!



「何か聞こえた……」



 ――卓斗くん!!



 そう聞こえた瞬間、卓斗は目を覚ます。思わず、飛び起きる卓斗の横には三葉が、心配そうな表情で椅子に座って、卓斗を見つめていた。


「良かった……起きてくれた……」


「ここは……?」


 辺りを見渡すと見覚えの無い、部屋にいた。


「ジャパシスタ? っていう人達のアジトだよ」


「ジャパシスタ?」


 訳の分からない言葉に首を傾げる。


「もう夜だよ。ずっと起きないから、心配したよ」


 そう言われ、窓の外を見るとさっき朝を迎えた筈が既に夜になっていた。


「目を覚ました?」


 部屋の扉から声がしてそちらに視線を向けると先程、盗賊から救出してくれた桐谷卓也が立っていた。


「あんたは……」


「俺は桐谷卓也、よろしく。後、話があるからこっちに来てくれるか?」


 そう言われ、ベッドから立ち上がり部屋を出て、奥の部屋に入る。そこには、女性が二人桐谷卓也ともう一人、男性が居た。


「えーっと……」


「あぁ、自己紹介がまだだったなこちらの方が、ジャパシスタの団長の清水若菜しみずわかなだ」


 卓也が、紹介したのは清水若菜と呼ばれた女性だった。オレンジ色の髪色で胸上くらいまでの長さ、後ろの一部の髪の部分を束ねて残りの髪はダウンさせている。いわゆるハーフアップだ。

 大人びた顔立ちにクールな印象を与えるが、時折見せる笑顔は、誰もが惚れてしまいそうな程に美しい。

 背丈は、168センチ程で、出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる。スタイルも抜群だ。

 日本の高校の制服、ブレザーを着ていて、透き通る様な白い肌の長く、細い脚が伸びている。


「私が、清水若菜。よろしくね、お二人さん」


 若菜は、二人を見つめてニコッと微笑む。卓斗は思わず、胸が高鳴ってしまった。


「そして、こいつがジャパシスタの団員、上野沙羽うえのさわ


「はいはーい、私が上野沙羽だよ!! よろしくね!!」


 次に紹介されたのが上野沙羽。金髪で、髪型はポニーテールを丸めたシニヨン。サイド部分は編み込んでいる。

 背丈は、158センチ程で、同じく高校の制服を着ている。スタイルは申し分無いが、容姿に若干の幼さが見える。


「そして、こいつがジャパシスタ団員の、深田慶悟ふかだけいご


「どうも、慶悟です」


 深田慶悟。茶髪で、空気を含んだ様な軽やかで、ふんわり柔らかな雰囲気のヘアスタイル。おっとりとした目をしていて、あまり表情を崩さない。

 背丈は、170センチ程で標準なスタイル。


「何か、聞きたい事ある?」


 若菜が、未だに状況が飲み込めていない卓斗に話しかける。


「あるに決まってるでしょ」


 若菜の隣に座る沙羽がすぐさまツッコミを入れる。


「私も、名前しか教えて貰って無かったから、卓斗くんが起きたらこの場所について聞こうと思ってて」


 三葉は、卓斗より先に目を覚まし名前だけ聞いていた。


「そっか……強盗は?」


「それから聞くの!?」


 三葉は、てっきりこの場所の事を聞くのだと思っていて思わず驚く。


「盗賊の事か。それなら心配は要らない。俺が追い払った」


 卓也が、ジャパシスタと名乗った途端イケメン風の男は、血相を変えて逃げ出した。ジャパシスタとは、一体何だろうか。


「そうだ、ここは?」


 卓斗の質問に、若菜が笑顔で答えた。


「そうだね、直ぐには理解出来ないと思うけど、一先ず。――ようこそ異世界へ」




 ――異世界。




 その言葉が、何なのか直ぐに理解出来なかった。


「異世界……?」


 卓斗も三葉も、呆然としている。それも仕方がない事だ。


「まぁ、無理もないよねー。突然、異世界だなんて。私も最初は、そんな感じだったよ」


 沙羽が、頭の後ろで手を組んで白い歯を見せて笑っている。


「じゃあ、死の世界でも、夢の世界でも無く、現実世界とは別の異世界だってのか……?」


 卓斗と三葉が、一番気になっていた事。それは、この場所についてだ。しかし、その答えは死の世界でも夢の世界でも無い。


 異世界だったのだ。


「え、でも、皆さんも日本の方ですよね?」


 三葉は、気になっていた。異世界と呼ばれる世界に自分と同じ、日本人がいる事に。


「簡単な話、私達も異世界に飛ばされて来たって事ね。貴方達よりも先にね」


 そう話す若菜は、悠々と話す。それが卓斗達には理解出来なかった。本来なら、いきなり異世界などに飛ばされたりしたら、落ち着いてなどいられない。だが、この場にいる四人の日本人は、当たり前かの様にしていた。


「日本には、戻れるのか?」


 異世界に居ると分かると次に疑問に思うのは日本に帰れるかどうかだ。


「残念だが、今の所方法は無いな」


 腕を組み、壁にもたれかかる卓也が、そう話した。


「じゃあ、ずっとここに……」


 卓斗と三葉は悠利達の事が心配だった。異世界に飛ばされたとなると自分達は、あのバスの落下での怪我などは無いとみれる。だがもし、悠利達が異世界に飛ばされていなかったとしたら考えるだけでゾッとしてしまう。

 だが、その逆に同じく異世界に飛ばされていたとすると、早く会って、無事を確認したい所だ。


「ここ以外に、日本人は居るのか?」


「うーん、どうだろうね。今の所は、私達だけだと思うけど。貴方達みたいに、新規の日本人が飛ばされてる可能性はあるよね」


 沙羽の言葉に、少し安堵する卓斗。だが、完全に払拭できた訳では無い。

 今、卓斗と三葉に出来る事は、この世界で悠利達が居るかを確認する事。


「それで、ジャパシスタっていうのは?」


 度々、卓也達が口にしていた言葉だ。


「ジャパシスタってのは俺達が結成した騎士団だ。見ての通り、日本人しか居ない。まぁ、一番の目的は日本に帰る事だけどな」


 そう話す、卓也に卓斗は何かを決意したかの様に話す。


「俺もこの騎士団? てのに入れてくれ」


「卓斗くん?」


 卓斗は、突然騎士団に入れてくれと頼んだ。突然の事に、三葉は驚いていた。


「もしかしたら、悠利達がこの世界に居るかも知れない。なら、俺は早くあいつらを見つけたい。ついでに、日本に帰る方法もな」


「もちろん、歓迎するわ」


 若菜は、笑顔で卓斗を迎え入れる。そして、視線を三葉に移す。


「貴方は、どうするの?」


「私も……騎士団に入れて下さい!!」


 三葉も、卓斗と考えは同じな様だ。


「そう、なら改めて。よろしくね、お二人さん」




 ――卓斗と三葉の異世界での物語が始まる。


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