第一章 3 『ジャパシスタ騎士団』



 ここがどこなのか、何も分からなかった卓斗と三葉。だが、出会ったジャパシスタ騎士団の清水若菜によって、この場所がどこなのか判明する。それは。



 ――異世界。



 バスが、崖から落下し地面に当たる直前に卓斗と三葉は、ここ異世界へと飛ばされていたのだ。原因は不明のまま。この世界を彷徨っている所を盗賊に襲われ、ジャパシスタ騎士団に助けられていた。

 ジャパシスタ騎士団とは清水若菜が団長を務め、副団長には、桐谷卓也団員には、上野沙羽、深田慶悟の四人で形成され卓斗と三葉も、この騎士団への入団を決意した。目的は、日本に帰る方法を見つける事と悠利達の安否確認だ。



 ――朝、太陽がこの世界を照らしていた。



 この世界に来て、二度目の朝だ。


「まずはだな、お前らのテラを確かめる」


「――テラ?」


 卓也が、テラと言葉にしたが卓斗と三葉は、訳が分からず首を傾げている。


「この世界には、テラが充満している。自然テラと体内テラがな。大体は、体内テラしか使わねぇから、今は自然テラの説明はしないでおく」


「ちょっと待て、テラって何だよ」


 テラの説明をせずにどんどん話を進めていく卓也。マイペースな性格な様だ。


「あー、魔力の事だよ。この世界では、魔法が使える。異世界だから、当然だな」


「なんか、話が読み込めない……」


 三葉は、難しい顔をしていた。それも仕方がない事だ。つい一昨日まで、普通の高校生だったからだ。


「体内テラが、上手く使えないとこの世界では、直ぐに死んでしまう。悪い奴らだって一杯いるし魔獣だっている、生きるには戦わないとな」


 ここ異世界では、戦闘は付き物だ。平和だった日本とは暮らし方が全然違う。卓斗と三葉が戸惑うのも当たり前の事だ。


「お前の友達達も、別の場所で強くなってる可能性だってある。出会った時に、自分だけ弱いままってのも、嫌だろ?」


「まぁ……」


 そう言うと、卓也は卓斗と三葉の腕を掴む。


「ほう、三葉は光のテラの様だな」


「光……」


「光のテラは、主に治癒魔法だ。ま、自然テラを使える様になれば戦闘でも十分に戦える。で、卓斗だが……お前珍しいテラだな」


 卓也の表情が、驚いた表情になっている。


「珍しい?」


「お前のは、黒のテラだ」


「黒のテラ……」


「黒のテラは、詳細があまり分かってなくてな。今の所、何も分かってない。なにせ、珍しいもんでな」


 卓斗のテラは、黒のテラと呼ばれ、この世界でも珍しいものだった。


「なになに、越智くんは黒のテラなの?」


 そこに、朝ご飯を食べ終えた沙羽が卓斗達の様子を見に来た。


「そうみたい」


「へぇ、この世界に愛されてるんだね。珍しいテラを与えられるとは。ちなみに、私は火のテラだよ。団長は、光のテラ。卓也は、闇のテラ。慶悟が、水のテラ」


「テラって全部で何があるんだ?」


「テラは、火、水、風、雷、土、光、闇、そして黒。その他にも、特殊なテラとかもあるんだけど、一応基本なのはこれね。黒は除くけど」


 何故か、ドヤ顔で話す沙羽。


「新入りが入ったからって調子に乗るなよ、沙羽」


 卓也が、冷たい目で沙羽を見つめる。沙羽は、十七歳で日本で言えば、高校ニ年生だ。ちなみに、若菜は十八歳、卓也は十七歳、慶悟は十六歳だ。ジャパシスタ騎士団は元々日本で、高校生だった者達で形成されたそうだ。


「いいじゃーん、越智くんと東雲ちゃんは、日本で言っても後輩なんだから」


「あはは……」


 卓斗は、沙羽に見つめられ苦笑いをするしかなかった。見た目や、性格的に歳下にしか思えなかったからだ。


「さ、テラも分かった事だし次は、この世界についてだな。この世界で生きるからには知っておいて欲しい事がある」


「知っておいて欲しい事?」


 卓也は、卓斗と三葉を座る様に促す。


「まずは、五大国からだな。一つ目は、王都のある国ヘルフェス王国。ここは、様々な騎士団や魔法使いがたくさん住んでる場所でこの異世界で、最大の国だ。お前達も、一番行く機会が多いはずの国だ。実際、俺達も王都に属している騎士団だからな、たまに依頼を受けてヘルフェス王国に出向く事もある」


 ヘルフェス王国は、この世界の首都とも呼ばれる国だ。


「そして二つ目、サウディグラ帝国。ここは、魔法使いが多く住む場所で騎士団はほぼほぼ無い国だ。そして三つ目、マッドフッド国。騎士団の中でも最大勢力を持つ、いわば最強の国だ。そして四つ目、シルヴァルト帝国。特殊なテラを研究していて研究に特化した国だ。そして五つ目、ガガファスローレン国。ここは、少し危険でな、あまり行かない方がいい」


 卓也から、次々に国の名前を聞かされ頭が破裂しそうな思いになる卓斗と三葉。学校の勉強より、正直難しい。


「えーっと……」


「この五大国以外にも、国はたくさんある。五大国を纏める国があれば、村もあり、魔獣族の住む森もある。副都と、呼ばれる国もあって、そこは、聖騎士団に入団する為の学校みたいな所だ。聖騎士団とは、王都の騎士団だ。更には、かつては国に属していたが、訳あって国を騎士団ごと抜け、国に属さない三つの騎士団が存在していてな。これが、仲が悪くてな、この世界を一つに束ねようと争っている」



「――ちょっと待て」


 止まらない卓也の説明に卓斗は、すかさず話を止める。このままでは、最初の方の話を忘れてしまう。


「大体は分かったから、これ以上話されると、頭が潰れる……」


「そっかそっか、まぁ、その内覚えていくだろ。テラの使い方も徐々に覚えていくといい」


 話をしている場に若菜もやって来る。


「なら、早速行ってみる?」


「行くって何処にですか?」


 三葉は、立ち上がって腕を上に伸ばす。卓也の話は、思ったより長かった為に、少々疲れていた。


「――ヘルフェス王国によ。貴方達の、お友達の手掛かりを見つけなくてはね。それとこれ」


 若菜は、真っ白なカッターシャツを卓斗に渡す。


「これ……」


「貴方のカッターシャツ、血で真っ赤になってたから、新しいのよ」


 イケメン風な男の盗賊に顔面を何発も何発も殴られた卓斗は鼻血や、口を切って出た血がカッターシャツに大量に付いていた。


「着替えたら、早速行きましょう」


 若菜は、そう言うと支度を始める。他のメンバーも同じく支度する。


「なぁ、三葉」


 カッターシャツを受け取ってそれを見つめたまま徐に三葉に声を掛けた。


「どうしたの?」


「ここが、今の俺達の現実世界なんだよな。日本が異世界で……」


 卓斗にとっては、帰る保証が無いとこの世界で一生を終える事になると考えている。だとすれば、今まで暮らしていた日本が、異世界と呼ばれここ異世界が、卓斗にとっての現実世界へとなってしまう。



 ――だが、三葉は違った。



「違うよ、私達にとっての現実世界は、日本だけだよ。家族が居て、友達が居て、学校があって、街があって、例え帰れなくなったとしても、私達の故郷は日本だよ」


「そうだよな……」


 三葉の心は、なんて強いんだと感心してしまう。今の自分に出来ることはこの世界で生き抜いて日本に帰る事。



 ――少年は、固く決意した。



 支度を済ませた、全員の服装は制服だった。


「まさか、制服が騎士団の服なの?」


 卓斗が、頬をぽりぽりと掻きながら質問した。


「まぁな、動きやすいし」


 この世界で、制服とは珍しい服だ。街などを歩くと、目立って仕方がない。


「では、出発よ」


 一同は、王都ヘルフェス王国へと向かった。ヘルフェス王国までの道のりはさほど遠くは無く、歩いて三十分もすれば到着する。


 道中、卓也にテラの使い方を聞いていた。意識を集中させると体内に、テラが流れ込む。すると、それが具現化し、魔法が使えるのだ。

 だが、卓斗は精々、テラのバリアを張るくらいが限度で魔法を使った戦闘は今の所、期待は出来ない。三葉も同じく攻撃系の魔法は使えず治癒魔法のみだ。しばらく歩き森を抜けると、国が見えてくる。


「――あそこが、ヘルフェス王国だ」


 ヨーロッパ風の街並み、噴水や、お花畑、とても美しい国だった。日本では、恐らく見る事の出来ない景色。卓斗と三葉は、思わず息をを呑んだ。


「すごい……」


「まずは、聖騎士団の詰所に行くか」



 ――聖騎士団の詰所。



 ニ階建てで、一階には酒場などがあった。ニ階に、聖騎士団の仕事場がある。色んな人達からの依頼や戦争の応援要請など卓斗達は、ここで悠利達の情報を探す。


「おぉ、お嬢じゃねぇか!!」


 中に入ると、低い声でそう呼ぶ声が聞こえた。


「どうも」


 お嬢と呼ばれた、若菜がその男に、浅く頭を下げる。


「なんだ、新入りが入ったのか?」


 その男は、卓斗と三葉を凝視する。強面で、思わずビビってしまい、三葉は卓斗の服の裾を掴む。


「この人は、聖騎士団のジョンよ」


 この男は、若菜にジョンと紹介された。ジョンは、スキンヘッドで白の騎士服を纏い、背は190は超えるだろうか。髭を生やし、強面だ。

 体格も筋肉質で、プロレスラーだと言われても納得がいく程。


「よろしくな」


 そう言うと、ジョンは酒場のカウンターに行きビールを頼んだ。他にも、同じ騎士服を着た人達がこの酒場には溢れていた。


「ニ階に行けば、何か分かるかもな」


 卓斗達は、ニ階へと足を運ぶ。そこには、様々な依頼の紙が並んでいた。


「根気よく探すか」


 一枚一枚、内容を見ていき悠利達の名前があるかを確認する。その作業の合間にも若菜は、色んな人に声を掛けられていた。


「そういえば、ジャパシスタって王都の騎士団なの?」


 ふと疑問に思った三葉が若菜に質問した。


「いいえ、ジャパシスタはかつて、王都に属していた騎士団よ。今は、訳あって親元を王都に置いたまま、国外で行動しているの。私達の味方は、私達だけだからね。依頼があれば、その国に赴き、依頼の間だけ、その国の騎士団として扱いを受ける」


「随分と、この国の人達と仲が良いんですね」


「私はこれでも十二歳からここに来て、最初は王都の聖騎士団に所属していたからね」


「十二歳……!?」


 若菜は、十二歳でこの世界に飛ばされてきて、それ以来ずっと騎士団としてこの世界で生きてきた。言い返せば、若菜がこの世界に飛ばされた六年前から日本に帰る方法は、見つかっていないのだ。


「ジャパシスタは、ニ年前に結成してね。最初は、私ともう一人しか居なかったの」


「それって」


「うん、今のメンバーじゃなく既に脱退しているの」


 かつて存在したもう一人のメンバー。何かあって脱退したのか、この世界で死んでしまったのか。


「それって……」


 理由を聞こうと、口を開いた瞬間卓也が、声を上げた。



「――おい、これってさ」


 卓也の持っている依頼の紙にはズラッと名前が並んでいた。


「ある村の男の名前が並んでるんだけど、奴隷として連れてかれたからそれを助けて欲しいとの依頼だ」


「それがどうしたんだよ」


「よく見ろ」


 卓斗が、目を凝らして名前を見ていくとそこには。



 ――読めない。



「さっきから思ってたんだけどこの世界の文字、読めねぇんだけど……」


「あ、それ私も!」


 卓斗と三葉は、この世界の文字が読めなかった。ただの記号にしか見えないそれを見せられた所で、何も分からない。幸い、言葉だけは日本と変わらず通じているから助かっている。


「あー、そっからか……」


 卓也が、深くため息を吐いておでこに指を当てる。


「いいか、読むぞ。神谷蓮、これお前の友達だろ?」


「蓮!!」


 卓也が言った名前は神谷蓮だった。あの日、合コンをしてその後、バスに乗っていた卓斗の友達の一人だ。


「蓮も、この世界に飛ばされてたんだ!! でも、奴隷って……」


「このままだと、お前の友達はある国の奴隷になるな」


 友達が、この世界で奴隷にさせられそうになっている。卓斗の答えは、ただ一つだ。



「――助けに行く!!」


「よし、行くぞ。団長、こいつらの友達の居場所が分かった。リンペル国だ」


「なら、直ぐに向かうわよ」


 全員では無いが蓮の手掛かりは得た。後は、助けに行くだけだ。その時、聞き覚えのある声が詰所の2階に響き渡る。



 ――三葉!? 越智くん!?



 三葉と卓斗が、その声を聞き振り返ると、そこには楠本繭歌が立っていた。


「繭歌!!」


 三葉は、驚きのあまり繭歌に飛びつく。


「ちょ、痛いよ」


「あ、ごめん。でも、良かった……」


 蓮の手掛かりが、見つかった矢先繭歌と再会を果たした。三葉は、嬉しさと生きている事への安堵で涙が止まらなかった。


「楠本さん、生きてて良かった」


 卓斗も、繭歌の側に駆け寄る。


「うん、そっちこそ僕の事は、繭歌って呼んでよ。さん付けは、あまり好きじゃないから」


「あ、うん。ていうか……何その格好」


 繭歌は、白に青いラインの入った騎士服を着ていた。女性の騎士服は上はコートの様な見た目に下は膝上のスカートだった。繭歌は、元々履いていた黒のタイツを履いている。


「何って、騎士服だよ」


「え!? 馴染み過ぎじゃない!?」


 まだ、この世界に飛ばされてニ日しか経っていない。だが、繭歌は既にこの世界に馴染んでいたのだ。


「いやほら、ここって異世界でしょ? なら、騎士団とかあっても不思議じゃないよ」


「いやいや、焦らないの?」


 卓斗には、なぜこんなにも悠々としていられるのかが不思議で仕方がない。


「最初は焦ったさ。隣に居た神谷くんも居なくなったし、三葉達も居ないし、なにせ場所が丸ごと変わったからね。まーでも、直ぐに理解したよ。――ここが、異世界だってね」


 彼女の臨機応変な対応は相当優れている。しかし、何故騎士服を着ているのか。


「繭歌、騎士団に入ったの?」


「あー、これはまだ騎士団には入ってないよ。副都で貰ったんだ。僕は、飛ばされた時、副都に居たからね」



 ――副都。



 それは、王都ヘルフェス王国の聖騎士団に入団する為の騎士学校がある場所だ。ここに通う者達は聖騎士団へと入団する為に、勉強や、剣技、テラの使い方を極めている。

 繭歌は、バスが落下する寸前にこの場所に飛ばされていたのだ。


「だが、その騎士服を貰えるのはBランクからだぞ」


 会話を聞いていた卓也が割り込んでくる。


「Bランク?」


 卓斗は、首を傾げた。どうやら、副都の生徒にはランク付けがされている様だ。


「なんか、入団試験みたいなの受けさせられて、テラっていうの? 解放したら、この服とこれを渡されたんだよ」


 そう言って繭歌はポケットから、バッチの様な物を取り出す。黄金に輝くそのバッチは十円玉くらいの大きさだ。


「それは……まさか!!」


 卓也はそのバッチを見るなり目を見開けて、繭歌を見つめる。


「卓也さん、どうかしたの?」


 その様子を見ていた卓斗もバッチの方に視線を移す。


「これ、Sランクの人が貰うやつだよ。持ってるやつ見るの初めてだな。しかも、異世界に飛ばされて間も無い君が……」


「Sランク、それは副都の中の、最高ランクね」


 若菜も、黄金のバッチに興味を湧かせて、覗き見ている。


「最高ランク!? って事は、かなり強いって事!?」


 三葉は、呆然としていた。自分の友達が異世界の騎士学校で最高ランクの位を貰っていたからだ。


「そうなるのかな」


 照れくさそうに頭を掻きながら、微笑む繭歌。たったのニ日でこの異世界の学校で最高ランクを貰い、悠々としている姿に思わず、本人かどうか疑ってしまう程だ。


「楠……ま、繭歌は何のテラだったんだ?」


 初めて、下の名前で呼ぶ卓斗は少し照れくさそうに質問した。


「僕は、氷のテラだよ」


「へぇ、氷とはまた、特殊だね」


 氷のテラと聞いた、沙羽が興味津々に身を乗り出した。


「特殊なテラを与えられているんだ……君も、愛されているんだね」


「そうなると、私が愛されてないってなるんですけど……」


 三葉は、沙羽の言葉に心を傷める。


「そういう訳じゃないよこの世界に愛されてるのは逆に、辛い事なんだよ? 愛す分、見返りを求めてくるからね」


「見返り?」


 それは、意味深な言葉だった。


「簡単な事だよ。特殊なテラを与えられれば、極めたらかなりの強さになる。その分、この世界の危機に抗わなければならないからね。常に、死と隣合わせなんだよ」


「それは、皆一緒なんじゃ……」


 卓斗が、そう話した時沙羽は、指を一本立てて口角を上げて話した。


「実は、少し違うんだよねー。特殊なテラを使う者には、他の人とは違うテラが体内に流れてるの。ずっと使わずに置いとくと体を蝕んで、死に至らせる。それが、見返り」


 卓斗は、少しゾッとしていた。自分も、特殊なテラを与えられている。このまま扱えずテラを使わなければ卓斗を待ち構えているのは、――死だ。


「まぁ、ずっと使わないなんて滅多にないけどね」


 この世界、異世界にはまだまだ謎が多い。卓斗達は、これからどうなってしまうのだろうか。


「そうだ、その紙ちょっといい?」


 突然、繭歌が卓也の持つ依頼の紙を渡す様に手を伸ばす。


「あー、はいはい」


 卓也はそれを渡すと繭歌は、まじまじと見つめる。


「確か……あー、この文字だ。この依頼さ、僕が貰っていい?」


「どーする?」


 卓也がチラッと卓斗の方を見やる。意見を求めての行動だ。


「実はさ、その依頼の助ける人の中に、蓮が居るんだ」


「神谷くんが?」


 繭歌は、ジッと紙を見つめる。読めない字が並んでいるだけの紙だが、その中に知っている人の名前がある。


「俺は、蓮を助けたい」


「うん、僕もそう思うよ。なら、一緒に行こうか」


「いいのか?」


「これは、副都からSランク昇格の任務で行ってこいと言われてたからね。別に、一人でやれとは言われてないし、せっかく、三葉と越智くんにも会えたしね」


 繭歌としても蓮を放っておく事は出来ない。蓮という男に、少し興味を持っていたから尚更だ。


「なら、一緒に行きましょうか。貴方の名前は?」


 若菜が繭歌に話しかける。


「僕は、楠本繭歌。貴方達は?」


「私は、ジャパシスタ騎士団の清水若菜よ、よろしくね」


 それぞれが、自己紹介を済ませ蓮を救出すべく、出発する。目的地は。



 ――リンペル国。



 疎外感溢れる見た目のこの国の中央には、大きな小汚い塔の様な物が立っていた。人の気配は全く無く、悪い空気が漂っていた。

 塔の入り口前には手を縄に縛られた数名の、男達が並べられていた。



 ――その中に、神谷蓮は居た。



「すまないねぇ、巻き込んでしまって」


 蓮の隣に居た老人が複雑そうな表情で蓮にそう謝った。


「いえ、逆にありがとうございます。何も分からないで居た、僕なんかに優しくして下さって」


「珍しかったもんでな、君の服装や、この世界について知らない事も、その若さで、一生をここで終えるとは、わしの責任じゃ……」


「いえ、それも運命ですよ」



 ――蓮は、無表情でそう答えた。バスが崖下に落下寸前に異世界へと飛ばされ、気がつくとある村に居た。何も出来ず、ただ呆然としていると、ある家から老人が出てきて、不思議そうに蓮を見つめながら話しかけてきた。


「お前さん、珍しい格好じゃのどこから来たんだ?」


「日本です」


「ニホン?」


 日本という言葉が通じないと分かると、蓮はここが、別の世界であるのだと勘づく。


「とりあえず、中に入りんさい」


 それからというものこの老人に、この世界の事や食事など、色々とお世話になっていた。だが、一回目の朝を迎えた日、それは起こった。


「――この中の、男共は出てこい!!」


 外から、誰かがそう叫んでいる。何事かと、窓から見ると老人が、恐怖と怒りの目で何かを呟いた。


「奴ら、次はこの村を……!!」


 そして、この村の男達は縄で縛られ、リンペル国へと連れて行かれる。



 ――さっさと入れ。



 老人と蓮は、リンペル国の謎の集団に塔の中へと、無理矢理入らされる。


 ――この世界で蓮は抗う事も許されず、ただ起きている現状に、身を委ねるしかない。



 卓斗達の安否も分からぬまま。


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