15 聖女、一蹴する
「すいません、フォーマルハウト財閥のほうから来たもんですが」
早朝から大聖堂の門を叩いたのは、どことなく軽薄そうな青年だった。アンナは朝食を食べながらテレビを見ており、ワルラス司祭が対応する。
短いやりとりのあと司祭は聖女のもとへやって来て、
「聖女様、この男が話があるそうですが」
フォーマルハウトの手先ということもあって、アンナはこれを一蹴する。「磔刑に処せ。そうだ、あのレモン女の露天の近くで焼くんだ。やつの店をそいつの焼ける臭いで満たしてやれ」
「しかし、ベナティア殿は同胞ではないのですか」
「相手の合意もなしにから揚げにレモンをかけるあいつが、誰かの同胞などになれるはずがない。もとより私は、レモンを塗布して食すつもりだったが、あの女ときたら」
「すいません、いいすか。オレことアーヴィング・モアはですね――」フォーマルハウトの男が口を挟むが、
「誰が喋っていいと言った! 今お前の処刑方法を決めているところだぞ」とアンナは取り付く島もなく叫ぶ。
「話くらいは聞いてやってもよいのではありませんか、聖女様。それに応じて処刑方法も変わってきましょう」ワルラス司祭が述べ、アンナは「……よかろう」と疑わしげな視線をモアと名乗った男に向ける。
「で、何をしに来たのだ」
「オレはあんたの監視役としてフォーマルハウトから送り込まれたんすよ。また本社に乗り込んで来られちゃたまらないってんでね」聖女の怒りも気にせずにモアは言う。
「監視役だと? ふざけたことを。つまりなにか、この聖堂に常駐するということか?」
「まあ、そういうことです。そんで、あんたが何かフォーマルハウトにとって有害な行動を取りそうな場合、すぐに報告すんのがオレの任務だ」
「ならばクレアかノーフォークを寄越せ。敬虔なローギル信徒だ」
「そういうやつらは教会に取り込まれる恐れがあるんで、選考から外されたんだ。まあ今後よろしく頼むよ、あんたの邪魔はしないから」
聖女は忌々しげな顔で司祭に、ジョーンズ隊長を呼べ、と告げた。
中庭で洗濯物を干していた隊長はすぐにやって来る。
「お呼びでしょうか、聖女様」
「ジョーンズ、このモアという男が私の監視役として送り込まれた。どうにかしろ」
「どうにかしろとおっしゃられても、今のところはまだ彼はなにもしていないのでしょう。むしろ、聖女様が色々やった結果、フォーマルハウト側が警戒してこうなったわけですよ」
「おい、奴らの肩を持つというのかジョーンズ?」
「そうではありませんが、まあ今のところは様子見でいいのではありませんか。密偵をやるタイプには見えませんし」
長椅子に勝手に腰掛け、のん気に携帯端末を弄くるモアを見ると、確かに裏表はなさそうに見えたし、小間使い変わりに雑用でもさせるか、とアンナは考え、さっそくコーラを買ってくるように命じた。しかしモアはこれを完全に無視、聖女の怒りによって骨を残して全身が融解するという憂き目を見たが、即日再生され送り返されてきた。
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