7 聖女、制裁する

 大聖堂に戻ると、既に彼らは到着していた。主任魔導技師ラヴジョイを名乗る白衣の女性と、同伴の記録官だ。


「やあやあ、あなたが聖女かい? 初めまして。異世界から人が来るのは何年ぶりかなあ。〈遊戯者レオナルド〉以来か。彼がもたらしたボードゲームの数々は本当にかけがえのないものだったよ」


「ラヴジョイ、単刀直入に言う」聖女は冷たい目で相手を見ながら言う。「私がこの世界に齎すのは神の恩寵と導きのみ。お前が期待するような技術はくれてやれんぞ」


「そうだ、守銭奴め! 神聖なる大聖堂によくも足を踏み入れることができたな! レオナルドから得た知識でどれだけの財を成した? 聖女様をも貴様らは財布としか見ていないのだろう」


 マーガレットの追求にもラヴジョイは肩をすくめて笑うばかりだ。


「教会へ集まる寄付に比べればあぶく銭さ! さて、聖女様、まずはあなたがどういった時代から来たのかを聞きたいね。どれだけのテクノロジーが発達していた? 内燃機関は存在するか? ネットワークはどれほど発達していた? 兵器は? 宇宙へ進出していたかい?」


「聖女様! この無礼な女を叩き出しましょう!」


 憤慨するマーガレットを制しつつ、アンナは厳かに言う。


「ラヴジョイ、マーガレットの言うとおり少々無礼が過ぎるぞ。ここは神聖なる大聖堂、これ以上騒ぎ立てるならば神の奇跡が貴様を断罪しよう」


「奇跡ですって? ハハハ」魔導師は天井を仰いで笑った。「聖女様、そんなものが見られるのならば金を払ってでも拝見したいですね! 生まれてこの方、奇跡なんてものを見たのは犬の尻に聖クローディアの顔が現れたときくらいだ。失礼ながら言わせてもらえば、ローギルは怠惰でいらっしゃる。それに比べて我らの魔導機関はどうです? 巨大な鉄の塊を空に浮かべ、大軍団をも灰に帰す破壊を齎し、さらには国中を通信網で繋ぎ、大陸の反対側の相手とも会話できる。神の奇跡なんて目じゃありません。無論、特許使用料を払う相手を教えていただけば、我らが奇跡を専売することも吝かじゃあありませんがね!」


 言い終え、また高笑いをしようとしたラヴジョイだったが、その口から出たのは笑い声ではなく血だった。


「うっ!?」


 それに留まらず、彼女の目、鼻、耳、ありとあらゆる穴から大量の血液が流れ出、苦悶にのたうち、数秒後には事切れて動かなくなった。


「冒涜者は死、無慈悲な死だ。お前のような奴が来るのは地獄にとっても迷惑千番、しかしこれが運命。醜く眠れ。オーラム」アンナは唾棄されるべき死者へのものとして用意されている、伝統的な、中途半端でおざなりな礼をする。


 その様を無言で見ていた記録官は、血まみれの死体を引きずって大聖堂を退出した。アンナはマーガレットに命じる。


「床を掃除しろ。あと、見せしめにフォーマルハウトに何人か連れて行って暴れろ」


「仰せのままに!」


 そうして厄介払いはできたと思っていたが、翌日。


「聖女様! また来たよ!」


 何事もなかったかのようにラヴジョイが大聖堂の門を叩いた。


「どうだい! 我らの技術は! 神ほどじゃないがこっちも奇跡的だぜ! 新鮮な死体があれば蘇生なんかお手のものさ! これはちょっと冒涜的かな!? また殺してくれよ、愛しの聖女様! ハハハハ!」


「マーガレット」うんざりした顔でアンナは言う、「あの冒涜者を川に投げ捨てろ」


「仰せのままに!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る