5 聖女、試験する

 アンナが大聖堂の長椅子で遅い朝食を食べていると、ジョーンズ隊長が一人のおっさんを連れて来た。

 彼こそがアンナが煽動し、その結果聖人となったライナー・グリムであった。

 隊長は彼を騎士団の部隊の一つ、神聖銃士隊へ加入させたいと言う。


「良かろう、グリム氏を加入させることを認める。励むといい」


「ありがとうございます、聖女様」グリムは頭を下げて言う。「休日、気が向いたらですが、教会と神へ尽くします」


「そうだ、せっかくだからあなたの腕を拝見しようではないか。来い」


 デザートにしようと考えていた林檎を片手に、アンナは外へ出る。


 辺りを見回していると、隊長が「何を探してるんです?」と問いかける。


「この林檎を誰かの頭の上に乗せて、見事グリム氏が撃ちぬけるかどうか試したい」


「そんな面倒なことをせずとも、単に頭を撃ち抜けばよいのではありませんか?」グリムが言うが、


「それでは的が大きすぎるし、面白くはない。ちょうどよい相手がいないな……おっと、あの人物にしよう」


 数人の護衛とともに歩いている、派手な衣装を纏った若い男がいたので、さっそくアンナは彼に近づいた。

 それで気づいたが、周辺には見物人が多く、テレビクルーの姿も見られた。

 アンナは聖女たる自分がいるためだろう、と考え、何の気なしに若い男の頭に林檎を乗せた。


「せ、聖女様、いったいどういうつもりですか?」護衛の一人が慌てて言う。


「今から新入りのテストをする。この林檎を撃ち抜けるかどうかだ」アンナの無体な言葉に護衛は青ざめた。


「困りますよ! この方は……」


「良いではないか。聖女様が擁する新人ならば、間違いもあるまい」林檎を頭に乗せられている男は、落ち着いた声で言う。


 金持ちのせがれか何かだろうが、なかなかいい根性だ。


 アンナはグリムに下がるように命じて、銃を構えさせる。


「もっと離れろ、グリム氏。そんな近くからでは誰が撃っても必中ではないか」


 そうしてどんどん離れていく。隊長がアンナに、


「聖女様、あれじゃ拳銃の有効射程外じゃないか。あと、あの方は多分……」と、的にされた男を見ながら言うが、


「ならもっと射程の長いライフルを持たせればいいだろう。あなたが担いでいるそれとか」


「これは大口径なので、あまりお勧めできないけど」


「射程は十分だろう。渡してくるんだ」


「了解だ、聖女様」


 隊長が走って行き、グリムにライフルを渡すのを見て、アンナは頷き、林檎を指差して射撃を促す。


 グリムの放った一射は見事に林檎を撃ち抜き――はせず、それを乗せていた人物の胸をぶち抜いて、臓物、肉片、骨片を辺りに撒き散らした。


「よし、見事だ」満足そうに頷く聖女とは対照的に、周囲は大騒ぎ、嘔吐している者、失神する者もいて阿鼻叫喚。


「で、殿下! ああ、なんということだ!」死んだ男の護衛が半狂乱で騒いでいる。


「あー、やっぱり。聖女様、あの屍はたぶんラプタニア王国の第二だか第三王子だぞ」戻ってきたジョーンズ隊長が言った。


「だが命中はしたじゃないか」


「そうだな、もっとも林檎は無傷だが」


「つまり無事にデザートにできるということだ」アンナは言いながら林檎を拾ってパーカーの袖で磨いている。


 護衛は恐慌のあまり、「せ、聖女様、殿下の魂は楽園へ向われたのでしょうか? 救済されるのでしょうか?」などと尋ねる。


「いや、地獄行き!」とアンナは無慈悲に告げた。

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