4 聖女、断罪する

 その数日後ジョーンズ隊長が、先日煽動を行った反教会派のアジトを突き止めたと報告しに来た。


「早かったな、隊長」


「我らの密偵と秘密警察の連携により、策謀などはあっさりと白日の下に晒されるんだ。それで、どうするかあなたの判断に任せたい」


「私が犯人を裁いてよいというのか?」


「ご存知のとおり我が国は宗教国家。警察権の面でも、教会に多くの権限が与えられているんだ。上層部もここは聖女様の裁量に任せることで、験担ぎをしたい、あるいはあなたのお手並みを拝見したいという狙いもあるのだろう。もしくはただ面倒だからか」


「よかろう。彼奴らを拘束し目立つ場所、そうだ、駅前の交差点に並べろ。あとは私が裁く」


「承知した、聖女様」


 速やかに犯人たちは縛り上げられ、数珠繋ぎに駅前に連れて来られた。折りしも平日の白昼、駅前は多くの人々でごった返している。黒山の人だかりができて、人々が好奇の目で眺める中聖女はやって来た。


「アンナ様、奴等を縛り首に!」


「いいや、牛裂きの刑だ!」


「車輪刑だ!」


 人民が過激に叫ぶのを両手を挙げて鎮め、アンナは口を開いた。


「子供達よ、その怒りはもっともだ。しかし、彼らも憎くてやったわけではない。帝国を想う気持ちがあればこそ……」


「いいや、憎くてやったんだ! 偽りの聖女め! 神はお前のような輩を……」


「射殺しろ」


 銃声が響き、一人の犯人が事切れる。静寂が支配する中、アンナは続ける。


「私は決闘裁判を提案する。こちらの指定した対戦相手と戦い、勝利したのなら無罪放免だ。裁きを神に委ねる、これぞ公平な裁きだ」


「いったい、誰と戦わせるというのですか?」


 騎士の質問に対し、アンナは明瞭に答える。


「神だ」


「なんですって?」


「我らが主神、ローギルと戦ってもらう。教会を敵に回したからには、神と一戦交える覚悟などとうにできているだろう」


「はあ、それで、神はどこにいるのですか?」犯人の一人が困惑して言った。


「それを探し出すのが貴様らの使命だ。探して決闘を挑み、勝利したのなら無罪。負けたら死罪。単純だろう」


 全員が狐につままれたような雰囲気の中、犯人たちは解放され、神を探すための旅に出た。


 彼らの旅は長きに及び、神を探すという目的に賛同した信者や、追加で送り込まれた囚人も合流し、探求の旅が途切れることはなかった。


 やがて彼らの子孫は未開地をも切り開き、一つの国を築く。

 聖女の処断から五百年が経過したのちのことだった。


 これは後世に伝わる聖アンナの業績のうち最も大きいものの一つであり、かの国でアンナはローギルと同等に神として崇められたという。

 しかしそれから千年の時が流れても、探求者たちが神ローギルに見えることはなかった。

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