第2話 自然と生きる-2

翌朝、ケイが村長に今から村を出ようと思うので約束通り水と食料を分けてくれないかと頼んだ。


村長は慌てた様子で、


「何か気に障るようなことでもありましたでしょうか。今宵も宴を開こうと思っていたのですが」

宴と聞きケイは少し迷ったが、ビリーのため息が聞こえると

「宴...お心は嬉しいのですが、三日以内に西にある街に行かないといけないのです」

「そうですか、では朝食だけ皆と一緒にいかがですか。タオも皆さんになついていましたので最後に一緒にご飯を食べてくれませんか」


ケイが返答に窮していると


「申し訳ない、吾輩たちは急がなけれなばならない。タオ君にはお詫びとしてこれを渡しておいて欲しい」


そういってビリーはナイフを村長に手渡した。


「優秀な狩人になった際に使ってくれるとありがたい、吾輩の自慢の一品ですぞ」

「タオにはもったいない代物をどうもありがとうございます。無理に引き留めようとして申し訳ございません。」


そして村長は二人に食料と水を分け与え、そして森を抜ける近道を教えた。


名残惜しそうにする村人たち(タオもいる)に見送られ、ケイとビリーは村を後にした。


二人は教えられた近道を歩いていく。そこはよりうっそうとしており、朝日は入らず夜のような暗さである。


「さて、ケイ気づいているかね」

「ええ、10人くらいかな。流石狩人の集団、気づかれないギリギリの位置でついてきてる」

「吾輩の勘だともう少し前方に待ち伏せしている者たちがいるだろう」

「じゃあ、先手をうった方がいいみたいね」


ビリーはうなずくと、後ろを向き、


「吾輩たちに忘れ物はないはずだが、何か用かね」と大声で後ろに向かって叫んだ。


返事はない。代わりに矢がビリーめがけて飛んできた。


それをケイが刀を抜き、払い落とす。


「よい思い出で終わりたいものであった」

ビリーはそう呟き、ホルスターからハニーを抜き引き金を引く。


轟音が鳴り響き、驚いた鳥達が一斉に飛び立つ。弾丸は矢を放った男に吸い込まれるように当たった。


仲間が一人やられ、男たちは二手に分かれ囲い込むように動き始める。


「くそ、やりやがったな。簡単には殺さねえぞ」

「待ち伏せしている前方のグループが来るまでは攻撃するなよ」


獲物が手ごわいことを知ると、確実に獲物を狩るための陣形を整えることにした。


「おい、あの女はどこに行った」


気づくと男は木を背にしゃがんでいたが、女の姿が見えなくなっていた。


後方の狩人は男が女だけ逃がしたのか、そう考えた時には先頭を走っていた仲間の首が飛んでいた。


ケイは先頭の男を切ると、返す刀で動揺している男を切りつける。男の両腕がなくなり、血しぶきと悲鳴が上がる。

そしてケイは脇の茂みに突っ込み、再び姿を消す。


残った二人の狩人は槍を構え、背中合わせに立った。遠くからは銃声と悲鳴が聞こえる。


「くそったれ、さっさと出てきやがれ。」


がさっと音がし、二人が音をした方向に槍を構えるとそこには仲間の顔が転がっていた。


「な…」

「あの野郎、絶対に許さ」


真横の茂みからケイが姿を現した。怒りに満ちた男と目が合い、刀を振るう。そして憎悪の感情をむき出しにした顔が転がり落ちる。


残った背の高い男はケイの体に向け槍を叩きつける。ケイは難なく刀で受け流し、そして男の心臓を一突きした。


ビリーはケイとは反対方向に展開した敵を手早く撃ち殺すと、前方から5人の屈強な狩人達が迫っていることを確認した。

ビリーはスピードローダーを用いて手早く弾を込めなおすと、ケイがいるはずの方向の茂みに逃げ込んだ。


「君達、なぜ吾輩たちを殺そうとするのかね」


茂みからビリーが大声で狩人達に問いかける。


「それが自然の営みだからだ」最も体つきが良く、体に様々なペイントを施したリーダ格の男が答える。男は続けて、

「強いものが弱いものを食らう。自然界では当然のことをしているまでだ。そして君たちの血肉は我々の血肉となるであろう。」と叫んだ。


背の低い男が、

「今降参すれば最後にたらふく食わせた後に殺してやる。無残にここで死ぬのと、最後にいい思いして死ぬのどちらがいい、選ばせてやる。」


男が言い終わると、ケイは堂々と茂みから姿を現した。


狩人達は剣を槍を斧を弓を構える。


「あの子はこのことを知っているの」

「タオも我々の村の一員である。」


そう、と呟き、ケイの目が剣のような鋭さを帯びる。


「ビリー、私がやる」ケイが叫ぶ。


ビリーは茂みから構えていたハニーを下し、ケイに任せることにした。


最後尾の男はケイが降参する気はないことを悟り、矢を引き絞り放つ。それと同時にケイは弾丸のように斧を構える男に突っ込んだ。


矢は外れ、男は斧を振りかざし迎え撃った。斧は空を切り、剣は胴を薙ぐ。男の体から血しぶきが飛びでる。


ケイはそのままの勢いでリーダ格の男に切りかかる。二度三度剣を交えると、リーダー格の男が後ろにたじろぐ。


「くっ、かなりの手練れだ、援護しろ」

「おう」


背の低い男がリーダーを援護するために槍を突き出すが、ケイは体を捻り避ける。


「今だ、撃て」リーダ格の男が指示すると、


弓を持った男が回り込み、体勢が崩れたケイに向かい矢を放とうとする。ケイはそのまま体を一回転させ、裾から取り出したナイフを投擲する。


「がっ」


ナイフは男の喉元に突き刺さり、男の手から離れた弓は明後日の方向に飛んでいく。


「おおおお、死ねえい」

「もらった!」


後ろから大男が叫びながら斧を振り下ろし、前からは背の低い男が槍を突き出す。ケイは槍を避けながら前に出る。そして柄を掴み思いっきり引く、斧は地面に突き刺さり、背の低い男は体勢を崩して倒れこむ。


「はっ」


ケイはリーダー格の男に横一線に剣を振るう、男はそれを防ぐが剣が弾き飛ばされる。そして上段に構えられた刀が振り下ろされ、眉間から綺麗に切られた男はばたりと膝をつき動かなくなった。


「化け物めええええ」


大男が斧を振り回し肉薄する、その全てを受け流し、大振りの一撃をかわし心臓に刀を突き刺した。

大男を軽く押し剣を引き抜く。


「最後までやりたいの?」


冷たい声で最後の一人に問いかける。


背の低い男は胸に手を当て、

「我らがあるべき姿を取り戻すために、我は自然の摂理に従い生きる。主よ我らの戦いを見届けよ!!」と叫び槍を構える。


男は渾身の一突きをケイの喉元めがけて繰り出したが手ごたえはなく、横一線に振り払われた刀により男の首は飛んだ。


ケイは刀についた血をふき取ると、

「私はキューウイになるつもりはない」と狩人だったモノ達を一瞥すると、刀を鞘に収めた。


「相変わらず見事なお手前」

拍手をしながらビリーが茂みから出てくる。

「あまりいい気分ではない」

「吾輩もだ、"道"を間違えていた方がよかったかも知れぬな」

「…旅は間違うこと、でしょ」

「そうであったな、さて気を取り直して次の目的地へ向かうとしよう」

「ええ」


二人の旅人は森の中を歩いていく。


「そういえば、この肉、キューウイの肉…じゃないよね」

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