第八章 終焉

71 強襲突入艦

 第十三次浮遊都市防衛戦。

 

 浮遊都市の飛行が不能になってから五日目。既に浮遊都市へのASIDの襲撃は十三を超えた。一日に約三回攻め込んできている計算だ。

 かつて無い程の侵攻の頻度は否応なしに浮遊都市の人間に一つの事実を突きつける。

 

 最早逃げ場などどこにもない。

 

 シンプルだがどう足掻いても覆せないその真実は静かに、そして着実に浮遊都市に住む人たちの意気を削いでいく。その士気の低下は防衛戦時にも顕著に表れていた。

 連日連戦で疲労も溜まっている。だがそれ以上にこの戦いを続けていても勝利が無いという事が何よりも明確になってしまった。

 元々浮遊都市には地上のASID全てを相手取れるだけの戦力は無い。ここでの防衛戦はジリ貧でしかない。

 

 だからこそ。浮遊都市は最後の賭けに出るしかなかった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 誰もいない無人の艦橋を見渡して誠は長々と息を吐く。どこか呆れた様な空気さえ含まれていた。

 

「まさかこんな隠し玉があったなんて」

《六百年前。浮遊都市建造時から秘匿され続けて来た物です。いつか、来る日の為に》


 そう語るのは薄らと背後の風景を透かして見せる人型――エーテルで仮初の肉体を構築している浮遊都市の管理者、マナだ。

 

《都市部とは全装置が独立しています。大型エーテルリアクターも、エーテルレビテーターも》

「念の為聞くけどそれで都市を飛ばすことは出来ないんだよな」

《不可能です。出力が圧倒的に足りません。あくまでこれはこの対ネスト強襲突入艦、ネイルを飛ばすための物ですから》


 だろうな、と誠は納得してこの船、ネイルの詳細データを見る。

 

 全長約300メートル。アシッドフレームを二十機格納可能。最大時速900キロ。全体のシルエットとしてその名の通り釘の様な細長い形状をしていた。

 その釘状のあちこちには豊富なエーテル出力に任せた砲門と文字通り体当たりを行うための強固なエーテルコーティングが施されていた。

 

 戦力としては十分な物だ。少なくともハイロベートだけを使っていた都市の中では破格とさえ言える戦力である。そんな物を六百年死蔵してきたというのは誠からすると途轍もない無駄の様にも感じられる。

 

《元来、浮遊都市アークとはこのネイルの為に建造された物です。最後の一矢。憎きクイーンに一撃を加えるまでネイルを守る為の盾。その盾を守る為に最後の矛を持ち出すのは間違っています》


 誠の思いを読み取った、という訳ではないだろう。既にその問いかけは自分自身で幾度と繰り返してきた様だった。

 

「それで人類が滅びたとしても?」

《それで滅びるのでしたら、例えこれを持ちだしても同じ結末でしょう。ネイルの予備部品は皆無です。時間停止によって保存されてきましたが、一度でも戦闘を行えば二度目は難しい。僅かな延命に価値などありません》


 誠は更に反論しようと口を開きかけ、止めた。六百年この命題を考え続けてきた相手だ。自分が考え付く程度の事は既に何度も検討してきた事柄の筈だった。何よりそんな口論で時間を潰すわけには行かない。

 

 優美香から託されたディスクを見つけ出したスロットに差し込む。――浮遊都市のハードウェアが進歩していない一番の理由はこれだった。旧時代の遺物を再利用するためには当時のハードウェアに対応してなくてはいけない。単純に余裕が無かった、必要が無かったというのもあるのだが。

 

《マップデータを確認。目標地点登録》


 ネイルが矢だとするならば、今入れ込んだのはその的だ。ネスト。ASIDのクイーンがいると目されている場所。これまで一切不明だった奴らの本拠地についてようやく情報を手に入れることが出来たのだ。

 

 ジェリーフィッシュと呼ばれた大型飛行ASIDの頭部、そして今回浮遊都市のエーテルレビテータを打ち抜いたジェネラルタイプ。その二体の頭脳から取り出した情報は人類側にこれまで得る事の出来なかった貴重な情報を与えてくれた。

 

 地形が表示されるが、誠にはそれが嘗てなんと呼ばれた場所なのか分からない。世界地図を見ても、大陸の形が変わっている。彼の記憶の中にある海岸線を探してみるが、断片的に記憶を刺激する形状があるだけだった。極点の位置から、それでも大雑把な位置だけは分かる。北米大陸のどこか辺りだろうと今となっては何の価値も持たない情報を引っ張り上げた。

 

《ヴィクティムを除けば残り十九機の積載が可能です。同行する隊の選定は済んでいますか?》


 そう、ネイルには二十機のアシッドフレームを搭載できる。つまりまだ残り十九の椅子が空いているという事なのだ。その問いかけに誠は渋面を作る。

 控えめに言っても、ASIDの巣だ。これまでの戦場と比して楽などという事は有り得ないだろう。

 これまでのASID全ての大本がそこだとするならば、ジェネラルタイプの数も生半可な物ではないはず。

 そこに、二十機程度のハイロベートを投げ込んで果たして役立つだろうかと言う疑問があった。乗っているパイロットたちには悪いが、誠には三十秒くらいでジェネラルタイプに吹き飛ばされる未来しか見えない。

 

 玲愛のノマスカス辺りは例外だろう。彼女とその乗機ならば十分な戦力として数えることが出来る。だが彼女をネストに連れて行くという事は浮遊都市の防備を全てハイロベートの部隊に任せるという事になる。かつて無い程の連続侵攻の中、クイーンを倒すまで耐えられるか。検討するまでも無かった。

 

「同行機体は無しだ。代わりに武装を並べておく」


 平時は武器庫と呼んでいる亜空間に武装を仕舞い込んでいるが、その開閉にもエーテルを消費する。ネストに突入してからは兎も角、突入前までは少しでもエーテルを節約するために、予め出しておく事が望ましい。

 

「浮遊都市の近辺じゃ使えなかった大型の武装もあるしな」


 出し惜しみは一切無しだった。手加減の理由も無い。ヴィクティムの全武装を使って殲滅する意思を誠は見せていた。

 結局のところ、自分が何をやりたいか。変えれないと分かった上でそれを考えた時に思い浮かんだのがそれだったのだ。

 

 ASIDの殲滅。一体たりともこの地上には残さない。これ以上は何も奪わせない。

 

 その考えはとても馴染み深く感じられて、きっと欠けた記憶の中でも誠は同じ事を考えていたのだろうと推察した。

 

 戦って戦って、少しでも奪われる物を減らす。それは既にいくつか奪われた後では遅すぎる決意だったかもしれない。

 

《ネイルのシステムチェック完了。フレーム格納ハッチを解放。どうぞヴィクティム》

『りょ、了解!』


 慌てた様子を見せながらも着実にヴィクティムの歩を進めてネイルに乗せるミリアの操縦を見て誠は僅かに感嘆した。実の所、ヴィクティムに限った話ではないがアシッドフレームの重心は大分高い。あえてそれを崩すことで高速の二足歩行を可能にしているのだが逆にゆっくり動かそうとするとそれなりに神経を使う。

 今のミリアの動きは危なげがなかった。ここ数日の僅かな間でまた腕を上げた様だった。

 

「才能がない、か」


 ポツリとつぶやいた言葉は嘗てミリアが受けていた評価だった。一体何を基準として才能がないと言っていたのか。少なくともミリアを見ていて匙を投げるほどに才気に欠けていると感じたことはない。いや、むしろ。ヴィクティムの操縦に関して言えばミリアの方が上だと感じていた。

 

 初乗り――あくまで今の誠が持つ認識の上でだが――の際に誠は動かし方が分かると感じた。その時はヴィクティムが何かしたのだと思っていたが、何のことはない。戦った記憶はなくとも戦い方を忘れる事は無かったというだけの話だ。

 つまり今の誠の技量は記憶に無い数年の戦闘経験の上にある。それでも浮遊都市では自分以上がゴロゴロしているのだから精々が中の上と言ったところだろう。

 今のミリアの技量はそれとそん色がない。少なくともここ数日の連続出撃の際に、ミリアと交互に主制御を行ってきたがそこで不足を感じる事は無かった。

 

 どころか、後半に至っては主副どちらでも誠以上の操縦を見せたこともある。まだ戦略的な視点に関して言えば発展途上と言えるがそんな物は誠だって大したことはない。雫から直々に仕込まれたミリアの方がよく見えていると言ってもいいだろう。

 

 これで才能がないと言われたら誠の立つ瀬がない。だが誠の能力は浮遊都市では平均的だ。極端に秀でている訳ではないが劣っている訳でもない。

 

 最初の疑問に戻ってくる。何を基準に才能がないと言っていたのか。

 

 だが逆に、そのお蔭で誠はミリアと出会えたと言える。もしも彼女が何らかの職に就いていたとしたら。それが軍関係ならばもっと早くに出会えていた。だがそうでは無かったら。きっとあのタイミングで出会う事は無く、誠と雫が乗るヴィクティムではあの大型ASID、ジェリーフィッシュを撃退できなかった可能性は高い。

 

 それに思い至った瞬間誠は背筋が寒くなるのを感じた。

 

 余りに都合の良すぎる展開。まるでそうなる事が決められていたかのような出会い。

 それこそが運命であると言われたような気分になった。

 

 考え過ぎだろうと誠は首を振る。それでもその不吉な考えは頭の片隅から拭う事が出来なかった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 思ったよりも快適だとリサは思った。

 

 彼女が今いるのは三メートル四方の狭い部屋の中。その半分をベッドが占めており、外へと続く扉は二つ。一つはバスルーム。もう一つはそのまま完全に室外へと出る扉だ。扉の下にはトレイを差し込む入口があり、そこから日々の食事が供給される。

 俗にいう独房。牢獄。そう言った類の施設にリサは今いた。

 

 仕方ないと溜息を吐く。味方に向けて銃を向けたのは事実。どんな理由があろうと覆しようの無い出来事だ。

 ならばそれを悔いているか。否。

 同じ状況になったら次は撃たないか。否。

 

 例え何度同じ状況になったとしてもリサは妹であるルカを守る為に引き金を引いただろう。例えそれがASIDと呼ばれる物に成り果てたのだとしても。

 

 兎も角、リサは人類に弓を引いた。それはASIDとギリギリの闘争を続ける浮遊都市においては物資の横領と並ぶ大罪。むしろ未だに自分の首と胴が繋がっているのを不思議に思う程だった。

 

 特にやることも無いので筋トレをする以外はベッドの上に寝転がっている。自分の立てる僅かな音以外は静寂な空間。そうすると外の様子が意外な程に聞こえてくる。

 元々この部屋は独房として用意されていた訳ではない。仮眠用の部屋だった物を急遽改装した物だ。


 極論を言ってしまうと、人を生かすのにもリソースを使う。こうして何もさせずに閉じ込めておくというのはその分の生産力が落ちるという事に他ならない。故に、浮遊都市において罪に対する罰と言うのは労役か極刑と言う極端な二択となる。

 

 つまるところリサの場合極刑となるのが通常なのだが状況と、これまでの功績、最後に安曇の実子であるという三点がここに留めさせていた。

 

 耳を澄ませれば外部の会話が漏れ聞こえてくる。積極的にリサも情報を集めていた訳ではないが、暇潰しとして整理していくと一つの事実が浮かび上がってくる。

 

「相当押し込まれているみたいですね」


 浮遊都市が飛べないのはリサもこの目で確かめている。そしてそれを見計らっていた様に立て続けに起こるASIDの襲撃。

 ASIDが遂に本腰を入れて人類を滅ぼしに来た。そんな話が聞こえてくる。

 

「何で今なんですかね」


 ふと頭に浮かんだ思考をリサは呟く。何故このタイミングでASIDは人類を滅ぼそうと思ったのか。考えるならば、ヴィクティムの出現が契機と思える。自分たちを滅ぼしつくせる強大な敵を前に、余裕がなくなった。

 そこでリサの思考は別の疑問に突き当たる。余裕がなくなった、と言葉は言い換えれば余裕があった、手加減をしていたという事だ。再びの何故。

 

 ASIDからすれば人類は時々同族を狩っていく害獣でしかないだろう。それをわざわざこれまで滅ぼそうとしなかったその理由。

 

 リサは暇だった。暇だったからこそ、慌ただしい都市の人間が踏み込めない位置の思考を行っていた。

 

「何か、目的があった。そう考えるのが妥当。なら、その目的は何? 一体ASIDは何を目論んでいたの?」


 もしもここでリサが今回の遠征隊の持ち帰ったデータに触れることが出来れば。或いは誠から話を聞くことが出来ていればその真実に触れることが出来たかもしれない。

 

 だが最後の一ピースが欠けたリサでは辿り着くことが出来ない。延々と回る思考を遮ったのは控えめ響いた扉をノックする音だった。

 ノックの音にリサは思索を打ち切った。正直に言うと、この状況で来客があるとは思っていなかった。

 

「誰ですか?」

「私」


 誰と言う問いに対して一人称で答えられても分からない、とリサは突っ込みたくなったが幸いな事に相手は有名人だ。それだけで理解することが出来た。相手がそれを見越していたのかと考えると首を捻らざるを得ないが。

 

「何でしょうか。嘉納さん」

「貴方を連れてくるように頼まれた」


 この会話の調子はヴィクティムに似ているな、とリサはふと思う。説明不足な辺りが特に。

 

「リサさん。ミリアです」

「……ミリアも一緒でしたか」


 遠征隊が出てから会うのは初めてだろうか。声音だけでは一瞬本人が名乗っているにも関わらずリサには誰だか分からなかった。以前よりも自信に満ちていると感じたのがその理由だ。


「ルカさんの所にお連れするようにと、頼まれました」

「っ! ルカは無事なんですか!?」


 ここにいるだけではどうしても手に入らなかった情報。それに繋がる発言にリサの自制は呆気なく消し飛んだ。扉に張り付いて声を張り上げる。

 

「実はまだ私も詳しいことは聞いてないんです。ただ、場所を聞いているだけで」


 ミリアは医療区画の番号を読み上げる。その数値にリサは人知れず安堵の息を吐いた。少なくともそこは遺体安置所ではない。本当の最悪は避けられたらしいと理解した。

 

 落ち着いた様子を察したのかミリアが外鍵を開ける。僅かな隙間から入り込んだ玲愛がリサの手首に手錠を嵌める。電子式の錠前は結構な重さがあり、このまま殴りつければさぞ痛いだろうとリサは思った。別にそれで脱走しようなどと考えていた訳ではない。ただ何となく現実逃避気味にそう思っただけだ。

 

 数日ぶりに狭い部屋から出ると何とも言えない開放感を覚えずにはいられない。思っていた以上にストレスが溜まっていたようだとリサは身体を伸ばして凝りを取る。

 その一連の動作をミリアは楽しそうに、玲愛は相変わらず何を考えているのか分からない表情で見つめていた。

 

「それでは行きましょう」


 やはり顔付きが変わったと思いながらリサはミリアの後を追う。その後に見張るかのように――事実見張りなのだろう――玲愛が続いた。

 

 医療区画は常よりも慌ただしかった。連日の出撃で少なからず負傷者が出ている。その喧騒を通り抜けて地下へ。他からは明確に隔離された区画へと歩を進める。

 数か所、厳重な隔壁を超えた。その物々しさにリサはルカの状態が決して楽観できるものではないと嫌でも悟らされる。歩きながら周囲の様子を観察すればただの隔壁ではないことが分かる。モジュール構造になったこのブロックはその気になれば即座に都市から排出することが可能だろう。

 それ以外にも隠されていたがトラップ――それも対ASID用の物の存在を感じる。つまりは、この先のフロアはそれだけ警戒されているという事だ。

 

 そしてその最奥。そこにルカはいた。

 

「ルカ……」


 姉であるリサが、一瞬その姿を疑った。本当にこれはルカなのかと。見慣れた顔。だがそれは半分だけだ。

 

 全身の約半分が機械に侵されていた。顔面は半分が仮面をつけたかのようになめらかな金属質に変貌している。当然、そんな状態では真っ当に生命活動は維持できないのだろう。時間凍結のデバイスを内蔵したカプセル……一体いつからそんな物が浮遊都市にあったのかリサは知らないがそんな冷凍睡眠装置じみた機械の中に閉じ込められていた。

 

 ここに至るまでの厳重さにも納得である。もしも、ルカの侵食が止まらなかったら都市内部にASIDが生まれることになる。そんな事態を避けるためにも隔離し、いざと言う時には切り離せるようにしないといけない。冷静な戦士としての部分がそう答えを出す。だが同時に個人としてのリサが悲鳴をあげそうになる。ここまでになったルカは果たして元に戻るのかと言う悲嘆の声。

 

「ん……リサ・ウェインか」


 気だるそうな声を挙げたのは目の下に隈を作ったエルディナ女医だった。いつも以上によれた白衣を羽織ってリサには何の事だか分からない数値を眺めている。

 

「丁度良かった。彼女の容体を説明しよう」

「是非、お願いします」

「端的に言えば彼女の状態は塵中毒の重度症状、或いはAMウイルスと都市内では呼ばれていた物だよ」


 余りに事実だけを述べた言葉にリサの思考が一瞬真っ白になる。塵中毒は知っている。AMウイルスも知っている。だがそれではまるでその二つが同一の様で――。

 

「塵に、ASIDが排出するナノマシンに触れ続けると体内に蓄積されていく。その量が一定値を超えるとナノマシンは宿主をASIDへと変貌させる。男女でその閾値に差こそあれ、現象としてはどちらも差は無い」


 唐突に投げ込まれた情報にリサは困惑する。聞きたいことは山ほどある。小さく深呼吸をして自分を落ち着かせた。

 

「マクレガン先生。何故それをボクに?」

「身内が当事者になってしまったからね。それからこれは柏木氏の要望でもある」

「誠君の?」

「君に本当の事を教えて欲しいとね。まあこの後も予定は立てこんでいる。手短に済ませよう」


 予定が何なのかリサには分からないが、少なくともエルディナが暇ではないというのははた目にも分かった。今最も聞きたい事を絞り込む。

 

「ルカは、自分の血中塵濃度を知らなかったんですか?」

「いや知っていたよ。前回の襲撃以降私の所で検診を受けていた。次に出撃したら危ないというのは十分に承知していた筈だ」


 それでも乗った。その理由はそう多くはない。リサ自身の不甲斐なさもそこに含まれる。そして恐らくもう一つの、そして最大であろう理由も思いついてしまう。

 

「ではもう一つ……ルカは、治るんですか?」

「少なくともクイーンを倒せばこれ以上の侵食は止まる。命令の無くなった塵ならば新たな命令を与える事で変貌させた物質の再構成も可能になるはずだ」


 尤も、そこは私の領分ではないがね、とエルディナは締めくくった。妖精の様に万能なピンク色の髪のメカニックが何とかしてくれるのだろう。機械と付くものならば全て守備範囲と豪語する彼女ならば不可能ではないと思える。

 

 他にも聞きたいことは幾つかあったのだが、どうやらまだこの後に予定があるらしい。時間を気にするそぶりを見せ始めたミリアを見てリサはこの場での質問を打ち切る。一番聞きたかったこと、ルカの回復については聞けたのだ。それ以上は好奇心を満たすだけの問い掛けでしかない。

 

「分かりました。マクレガン先生ありがとうございます」

「礼を言われるような事はしていないさ……。いや、出来ていないさ」


 その言い方に僅かな引っ掛かりを覚えたがミリアの促しで思考からは流された。随分と慌ただしい事だと小さく溜息。最後に一度、痛ましい妹の姿を目に焼き付ける。自分に何が出来るのかは分からない。だが出来る得る全ての手段を取って妹を救うと誓った。

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