70 堕ちた翼

 均衡が崩れるのは一瞬だった。

 ギリギリの攻防。そこにはある種機能美としか言えない美しさがあった。戦いと言う混沌の中で整然としたロジックに基づいた舞踏。ノマスカスとジェネラルタイプの戦いはそういった類の物だった。そこに異物が挟まれたらどうなるか。言うまでもない。

 

『くっ……!』


 味方の筈の機体に右腕を貫かれた事に対する驚きもそこそこに玲愛は機体制御の回復を優先する。今戦闘以外の事を考えるなどと言う贅沢を行った場合次の瞬間に自分は串刺しになるという警鐘が頭の中に鳴り響く。

 こちらの体勢が崩れたことで相手が一手待ってくれるなどと言う事は無い。一秒にも満たない時間で玲愛は決断する。まずは右腕の切り離し。自由を獲得した後に自身の右腕を貫いた機体、その腕を掴み自分の前に引き摺りだした。そうする事によって即席の盾とする。味方の筈と言う意識は今は消した。

 

 ジェネラルタイプの攻勢が途切れる。それは目の前に割り込んだ個体への攻撃を避けた様で、その行為が何よりもルカ・ウェインに訪れた出来事を証明していた。その事を、玲愛は考えることを努めて止める。

 右腕に保持していたブレードを宙に投げ、左腕で掴み取る。そのまま後ろに飛びずさりヴィクティムの側に着地する。塵が舞い上がる中にも純白の装甲を視認し、玲愛は僅かな安堵の息を吐いた。彼女にしては珍しいことである。

 

『すまない。流石に二体が相手では手に余る』

「いや、待ってくれ。あの機体は」


 ルカが乗っているんだろう、と言いかけたところでヴィクティムが警報音を鳴らす。ほぼ同時、この戦場にいるハイロベート全機にも警報が鳴った。その内容は、敵味方識別の更新。

 

 一際大きいジェネラルタイプのエーテルリアクター反応。RERを除けば三つあるその反応の内、二つの光点は赤。敵を認識していた。

 

 それを見て誠も何が起こったのか理解した。理解してしまった。何故ならそれは、誠がここに立っている理由でもあったのだから。

 

「AMウイルス……ASIDになったっていうのか。ルカが」


 知らず自分の口から漏れた呟きは不運にも通信機に乗ってこの場にいる全員に伝わってしまった。己の失態を悔やむ間もなくリサの顔が通信モニターに映る。

 

『ASIDになったって……どういう事ですか。どういう事なんですか、誠君!』

「それ、は」


 何と言えば良いのか誠は逡巡する。正直に全てを伝えることがこの場においてプラスに働くとは思えない。だが、何も言わない事は少なくともリサにプラスになるとは思えなかった。

 

 迷っている間に、ノマスカスがルカの機体に左腕だけで切りかかった。各部のアクチュエーターの連動駆動。全身を鞭のようにしならせた一閃は両腕での斬撃とそん色ない。そこにエーテルコーティングの偏向技術を加える事で通常型でありながらジェネラルタイプに傷を負わせるほどの一撃となったのだ。

 疑いの余地なく本気の一撃。手加減、様子見などでは決してなく必殺を企図しているのは違えようもない。味方がASIDになった。その事に対する動揺も躊躇いも無いのが見て取れる。その割り切りの良さに動揺したのはむしろ周囲の方だった。

 

『待て玲愛! 敵味方識別装置の誤認の可能性がある!』


 歴戦の古強者でもある第三大隊隊長でさえ言葉には動揺が隠せていない。制止の言葉に玲愛は己が太刀と同じ両断するかのような返事を返す。


『私に攻撃したのも誤認?』


 そう。それは疑いようのない事実であることは失われた右腕が証明している。そこにAIの敵識別が加われば言うまでもない。

 

『細かい理屈はどうでもいい。そんな物は都市の科学者が考えてくれる。私がやるのは敵を倒す。それだけ』


 言いながら苛烈な攻撃をルカ機に加えていく。その際にヴィクティムに一言言い残すのも忘れない。

 

『そっち側は任せた』

「え? 危ない!」


 ミリアの呆けた様な声の後、緊迫感を取り戻した声。元々交戦していたジェネラルタイプに背を向けて切りかかったのだからその隙を突かれるのは当然の事。ヴィクティムがフォローに入らなかったら今の攻撃でノマスカスは撃墜されていた。突き立てられた刃を受け流しながら、胴体への蹴り。直撃を避けようとジェネラルタイプは大きく後ろに飛び退いたことで空白地帯が生まれた。

 

「ヴィクティム。何か無いの!?」


 猛攻を加えるノマスカスを見てミリアは焦ったような声を上げる。元々のスペック差のせいか。理由は定かではないがルカ機――を元にしたASIDはノマスカスに押されている。そう遠からず撃墜されるのは確かだった。拙速とさえ言える攻めの姿勢は一秒でも早く倒そうとする意志が見える。

 ルカがASIDになった。その事実に対してミリアの考えは玲愛とほぼ一緒だ。理屈なんてどうでもいい。問題は、どうやったら助けられるか。

 

《現在解析中。但し当機のデータベース内にASIDに変異した人物の復元措置に成功した事例は無い》


 当たり前と言えば当たり前だった。そんな方法が存在していたのならば自分がこうして六百年も時間を止められているはずもない、と誠は考え閃いた。

 

「待ってくれヴィクティム。復元措置は無理でも、俺と同じように時間を止めるっていうのはダメなのか?」

《肯定。時間凍結の使用でルカ・ウェインのASID化を停滞させることが出来る可能性はある。問題は、不可逆転を超えていないかどうか》


 ASID化は一瞬で完了する訳ではない。それは誠自身の経験からも分かっていた。なりかけならばまだ希望はある。

 そのためにはまずルカ機の確保、つまりは落とす気を隠そうともしない玲愛と立ち位置を交代する必要があった。

 

 そんな思考と同時、ミリアもほぼ同じ結論に達したことを誠は感じる。相対するジェネラルタイプは今の一撃で体勢を崩しており、好機とも言えた。だが時既に遅し。それ以上に玲愛の猛攻の方が早く成果を上げようとしている。

 防御ごと打ち崩した一閃。ルカ機が変貌したジェネラルタイプが膝をつく。片腕である事を微塵も感じさせず、苦戦の色すらうかがわせないノマスカス。余りに早い決着に誠たちも慌てる。

 

「止めろ、嘉納! それは!」


 焦りから思わず乱雑な言葉になる誠。その事に注意を払うそぶりも見せず玲愛は言った。

 

『敵、でしょ?』


 そのまま躊躇いなく胴体――即ちコクピットとエーテルリアクターを纏めて貫くべく剣を振り下ろそうとし、大きく後ろに飛びずさった。

 端から見たら意味不明な行動は遅れて響いた銃声と、そこに銃口を向けたハイロベートの姿を視認すれば説明が着く。

 

『やめて、ください』


 絞り出すような声に誠は今更な後悔が襲ってくるのを感じた。ほんの僅かでも、例え髪の毛一筋程度だったとしてもこの声に心を揺らされたのだったら、不貞腐れていないでそれを縁に立ち上がればよかったと。それが実際にはグラスの中身をぶちまけるほどに揺らされたのだったら尚の事。

 

『たった一人の妹なんです。殺さないでください』


 リサは現状を全て把握している訳ではないだろう。むしろ分からないことの方が多いはずだ。だがルカが明らかに異常な状態であるというのは瞭然であるし、それに対処していた味方であるノマスカスに銃を向けたというのは疑いようのない事実。

 その決断はリサにとってルカと言う存在がどれだけ大きいかを端的に示す物だった。

 

 小さな溜息が通信回線に乗った。

 

『こうなる前に、決めたかった』


 玲愛の心情としては、敵が増えた。それ以上でも以下でもない。だが他人がそれ程簡単に割り切れるものではないというのも理解していた。ましてそれが肉親の事であれば尚の事。

 

 だからリサが決断するよりも早く結末を決めたかった。自分はどれだけ恨まれても構わない。どれだけ憎まれても気にしない。だから、妹か戦友かを天秤にかけるという残酷な事をさせずに自分を恨ませるようにしたかった。それが玲愛の拙速とも言える攻めの理由だった。

 

 しかし今、リサは引き金を引いてしまった。妹と戦友を天秤に乗せ、妹に傾いた皿、その想いのままに行動してしまった。こうなってしまっては玲愛なりの配慮はもう形を成さない。

 友軍への攻撃。それはどんな理由があろうと許されることではない。家族の情を取ったことを責められる人間はいない。だが同時に、人間同士で争うという無意味を通り越して無価値な行為に賛同できる人間もこの浮遊都市にはいなかった。

 

 状況は最悪。それでもその中で唯一の光明、ルカ機と玲愛機の空いた距離。そこにヴィクティムは強引に割り込んだ。

 

『邪魔をしないでほしい』

「話を聞けって!」

「お願いだから聞いてください!」


 何を言うでもなく、ヴィクティムが先ほどの推論をノマスカスに転送する。それにざっと目を通したのか、通信機越しに玲愛が肩を竦めた。

 

『この不確かな推論に賭けて貴方にこの場を譲れと?』

「ああ」

『分かった、好きにすると良い』


 意外過ぎるほどあっさりと玲愛は引いた。どうやって説き伏せようか考えていた誠は拍子抜けする。玲愛からすれば別段落とすことにこだわりがある訳ではない。可能性があるのならば試す価値はある。

 

「良いのか?」

『例え不確かでも仲間を救う方法があるのなら試さない手はない。それに……』


 もしもルカを助けることが出来れば、リサの行動も仲間を助けるための物だったと情状酌量の余地が僅かだが生まれる。そこまでは玲愛も口には出さず、即座に相手を入れ替える。二転して再び同じ敵機と向き合う玲愛。

 

『全く』


 と溜息を吐く。淡々とした彼女には珍しく色々とした情感の籠っていた吐息だった。

 

『慣れないことはする物じゃない』


 やはり自分は何も考えずに戦っている方が向いていると思いながら、玲愛は隻腕の機体を走らせる。

 

『今度は余計な邪魔は入らない。八つ当たり、させてもらう』


 その言葉を聞いてやはりそれなりにストレスが溜まっていたのかと誠は思いながら、どうやってやる気満々のルカ機を迅速に取り押さえるか頭をフル回転させる。機体制御は完全にミリア任せだ。幸いと言うべきか。個体としての能力は図抜けた物ではない。余裕を持って撃破することは出来るだろう。だが取り押さえるとなると話は別だ。

 

《敵素体となった機体は標準でコクピット周辺に時間凍結のデバイスが組み込まれています。本来であればパイロットがASID化の兆候を見せた段階で自動で起動するようになっていますが、トラブルにより起動しなかった模様》

「それを使えば手っ取り早いな」

《肯定。但し起動失敗原因がハード的な物だった場合、当機に取れるオプションは一つしかありません》


 ASID化。そのメカニズムは正直よく分かっていないが、以前見たAMウイルス罹患者――あれがASID化だというのならばああなっては完全に手遅れだろうという事が分かる。猶予は少ない。そして、それを食い止められない場合に出来る手段と言うのも痛い位によく分かった。

 

「外部からのアクセスは?」

《ASID化の時点で通信回線は全て途絶。現在進行形で機体が作り変えられている物と思われます。頸部に外部アクセス用のデバイスが存在しますが、何時まであるか不明》


 ここにもタイムリミットが加えられた。どの道、悠長に時間をかけるつもりもない。

 

「ミリア。行けるな?」

「大丈夫!」


 その返事に頼もしさを覚えながら誠は普段使わない様な脳の一部を意識する。想像以上に神経を使うと思いながら短く叫ぶ。

 

「ランスっ!」


 二基の自律誘導兵器が鎖を外された猟犬の様に突き進む。そのコントロールの忙しさに誠は悲鳴をあげかけた。こんなややこしい物をミリアは平然と操作していたのかと言う驚き。右手と左手で別の言語で別の言葉を書けと言われたかのような気分になりながら誠は必至で制御を続ける。

 

 その間もヴィクティムは相手を倒さないようにエーテルダガー同士で打ち合っている。ルカ機の武装はほぼヴィクティムの固定武装と同じ。リアクター出力だけならばノマスカスの方が上ではあるが、それを外部に出力するデバイスの完成度では圧倒的にこちらの勝ちと言える。

 右手のエーテルダガーで相手の左手のエーテルダガーを抑える。相手の右手も同じように抑えたいのだが、ヴィクティムの左腕の武装は現在使用できない。仕方なしに相手の手首を掴んで抑えているが器用にもルカ機は手首を捻る事で掌から生えている刀身をヴィクティムの装甲に押し当ててくる。

 僅かに掠めるだけでは切断には至らない。それでもじれったくなるほどゆっくりと、ヴィクティムの装甲に負荷をかけていた。

 

 力比べならば負けはしない。だがそれは負けないだけであって勝てるわけではない。生憎とヴィクティムはステゴロでの格闘戦はそれほど得手としていない。相手が有象無象の通常型ならまだしも、ジェネラルタイプではなおの事だ。だからこそ、こんな状況ではランスが活きてくる。

 

 互いに均衡状態を作り出している状態。そんな場面で唐突に脚部が失われたらどうなるか。その答えが右足をランスに食い破られたジェネラルタイプの現状だ。

 バランスを崩した敵機を一気に抑え込む。その間に相手をうつぶせになるように調整。止めとばかりに上空から突き立てられたランスが両肩を地面に縫い付ける。

 

「ヴィクティム!」

《了解。コネクタ確認。アクセス》


 悪あがきとばかりに我武者羅に残った足を動かしていたジェネラルタイプの動きが唐突に止まった。

 

《セキュリティ第一層突破。第二層突破。第三層……突破。機体制御に介入。ノイズをカット。カットカット。デバイスの検索を開始》


 相変わらず、戦闘以外でも多芸と言わざるを得ない仕事ぶりだった。通常の戦闘兵器は相手の兵器をハッキングするようには出来てない。

 淡々としたヴィクティムの報告を誠とミリアは固唾を呑んで聞く。この後が最大の難関だ。そもそも、時間凍結の機能が失われていたら、最早出来る事はエーテルダガーをコクピットに突き立てるしかない。

 

《時間凍結のデバイスを発見。機能チェック開始》

「よしっ!」

「やった!」


 二人して快哉を叫ぶ。一つ目の賭けには勝った。

 

《バイタルモニタ開始。緊急措置の必要あり。時間凍結プロセススタート》


 瞬間。コクピット周りから薄い靄の様な物が誠に見えた。それがエーテルだと気付くのに時間はかからない。何でもありだな、と思いながらこれで終わったと。肩の力を抜きかけた瞬間。

 

 極光がヴィクティムに迫る。発信源は、ノマスカスが交戦していた元々いたジェネラルタイプだ。

 不審な点はあった。剣と盾。その二つを活かした武技は見事。しかしながら、その二つはどちらもジェネラルタイプの出力を十全に発揮させる出力装置としては不足だった。たまたまアンバランスな個体が作られたというよりももっと納得の行く説明。

 

 まだあの個体は全てを晒していた訳ではなかった。

 

 隠し玉がある事は玲愛も予想していた。だからこそ、それを使わせまい。使う前に落としてしまえばいいと。そう考えた。

 

 一点においてそれは正しい。ただ玲愛にとっての誤算は一つ。その隠し玉が想像以上に大きかったという事だ。

 

 剣戟の狭間。ジェネラルタイプの腹部が開いた。そこに砲口らしきものが見えた瞬間、玲愛はノマスカスの左腕をそこに突き立てようとした。エーテルカノンであろうとその発射までにはタメを要する。その前に切るという判断を本能レベルで行った結果だ。

 

 だが遅かった。玲愛の知識は過去に交戦したジェネラルタイプにおいては当てはまっていた。だがこれまでに内臓型のエーテルカノンを持っていた個体はいなかった。

 それ故にチャージ時間を見誤った。既に腹部では十全なエーテルの貯蓄が完了しており……そしてそのエーテルカノンはジェネラルタイプのエーテルリアクターと直結していた。

 

 エーテルリアクター直結と、二発目を考えなかったそれはヴィクティムのエーテルカノンを上回るほどのエーテルの奔流が放たれる。その圧倒的な破壊の顕現はノマスカスのエーテルコーティングを飴細工の様に溶かしつくし、左腕を奪い去った。玲愛自身が無事だったのは完全な偶然。左腕が破壊された時に生じた爆発がノマスカス本体を射線上から押し出してくれたのだ。

 

 背後に展開していたハイロベート十数機が悲鳴を上げる暇も無く蒸発する。リサが無事だったのも完全な運だった。後一歩。前に踏み込んでいたら彼女の機体も今消え去ったハイロベートと同じ末路を辿っただろう。

 

 十体以上の機体を飲み込んでもその砲撃は衰える気配を見せない。その射線上にはヴィクティムと制圧に成功したジェネラルタイプの存在。

 

 このジェネラルタイプが一体どこまで狙っていたのかは分からない。だが完璧なタイミングだった。

 

「くそっ!」


 咄嗟にランスを引き抜く。戒めを解かれたジェネラルタイプの首を掴んでヴィクティムが力任せに大きく飛び退いた。

 その瞬間、ヴィクティムの眼前を極大のエーテルカノンが過ぎ去っていく。ジェネラルタイプの下半身がそこに巻き込まれて抵抗も無く物体としての形状を保てなくなる。

 

 だが避けた。重要なコクピット周辺は無傷だ。もっと余裕があればヴィクティムの出力ならば受け止める事も可能だっただろうが、それでも避けることが出来た。

 

 その一射で力尽きたのか。エーテルリアクターの反応すら消えてジェネラルタイプが崩れ落ちる。玲愛が両腕を失って尚、戦意を衰えさせずに身構えていた姿勢を崩した。

 

『驚いた』

「むしろその一言で済ませられるお前に驚いたよ……」


 まさに九死に一生を拾った玲愛の常との変わらなさに誠はやや呆れ気味にそう答える。

 

『誠君。ルカは……?』


 リサの機体は武装を取り上げられていた。事情は分かるが、味方に銃を向けたのは事実。少なくとも都市に戻って沙汰が下るまでは行動に制限が付くだろう。

 

「一応、進行は止まった。けど……それ以上は」

《当機の診断装置では危険状態にある事。それ以上の診断は不可能》


 その答えに最悪の事態が避けられた事を察したのか。僅かだが安堵の息を吐いた。

 

『いえ。十分です』


 続けて何かを――一瞬玲愛の機体に視線を向けて言いたげな表情をしていたが、結局リサはその言葉を飲み込んだ。何を言っても言い訳にしかならない。それ故に口を閉ざした。

 

「周囲にASIDの反応なし。戻りましょう。誠さん」


 周辺の反応を探っていたミリアがそう告げる。誠も一応自分の目で確認し、その報告に間違いないことを認めて頷いた。

 

「ああ、戻ろう」


 ◆ ◆ ◆

 

 着陸していた浮遊都市の横腹に大穴が開いていた。それは道中に有った幾つかの区画を焼き払い、浮遊都市の生命線。この巨大な構造物を浮かばせる大型エーテルレビテーターを完膚なきまでに破壊していた。

 

 砲撃を行ったジェネラルタイプが一体どこまで狙っていたのかは分からない。だが完璧なタイミングだった。ヴィクティムに受け止める事を許さず、浮遊都市の翼を奪うには完璧なタイミング。

 

 浮遊都市アークは、その名に冠していた浮遊能力を奪われた。

 

 それは即ち、人類にとって逃げ場が無くなったという事であり。

 

 常に背後に迫っていた滅亡の二文字が六百年の時を経て遂に追いついてきた瞬間だった。

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