53 記憶の迷宮

 頬を水滴が叩いた。その不快な感触で誠は意識を覚醒させた。


「……ここは?」


 痛む頭を押さえながら誠は周囲を見渡す。一面の闇。一体ここはどこなのだろうかと霧の掛かった様な思考で考えを巡らせるが、目覚める前の事が思い出せない。コンクリートの硬い感触を返してくる床に手を突いて考え込み、まさにそれが異常事態だと気が付いた。


「俺はヴィクティムに乗っていたはずだよな……?」


 そして負けたのだ。その後がどうなったかは完全な推測になるが、追撃されたにせよ、救助されたにせよ、こんなところで放置されているはずがないと言う確信があった。それ故の異常事態。

 まるで最初に目覚めた時の様だと思いながら誠はゆっくりと立ち上がる。幸い天井は十分な高さがあるらしい。屈みながら歩く様な事が無いと言うのは幸いだった。耳元に手を当てるが、何時も付けているヘッドセットの感触は返ってこない。嘆息しながらゆっくりと誠は歩き出す。右手を壁に当てながら慎重な足取りで。

 迷路の脱出方法に右だか左だかの壁を伝って行けばいいと言うのがあったなと思い出したが、確かあれは入り口からやらないと意味が無かったはずだ。一寸先も見えない状態で、もしもそんな迷路染みた構造になっていた場合マッピングも容易ではない。建造物内で遭難と言うのは笑えない事態だと思いながらこの謎の施設の捜索を開始した。


 早くも一時間程が経過したように誠は感じた。真っ暗闇の上時計も無いので完全な感覚頼りだ。もしかしたら本当は三十分もたっていないかもしれない。自分の息遣いと足音以外何も聞こえない空間。頭がおかしくなりそうだった。意識をしっかり保ちつつ更に歩を進める。道筋に光明は無い。

 それから更に何時間が経ったのだろうか。空腹感を感じない事から思ったほどに時間は立っていないのかもしれないと誠は思った。それは一つの救いであり、一つの絶望であった。気を失う前の状況は決していいとは言えなかった。その状況からどう変化しているのかと言うのを考えると経過時間は短い方が良い。だが体感では長時間が経過しているように感じられるのにまだ大した時間が経っていないとなると脱出するまでにこの責め苦をたっぷりと味わう羽目になると言う事である。


「外に出たらここは六百年後です。貴方は古代人です、とか言われたりしてな」


 軽口を叩くがそれに対する反応は自身の声の反響だけだ。何か変化――返事が来るとか反響が返ってこないとかを僅かに期待したがそれも無い。


 更に歩き続ける。

 おかしいと思った。体感だけで言うのならば既に十キロ以上は歩いている。その間一切の分岐は無い。もしかしたら左側に分岐があったのかもしれないがそれは分からない。流石に両方の壁に触れながら歩けるほど幅は狭くない。こんな広大な距離の通路と言うのは何のために存在しているのか。或いは緩やかなカーブを描いて同じ所をぐるぐるとまわっているのかもしれない。それは恐ろしい想像だった。いずれにしてもこの無明の中ではそれらに確信を得ることは出来ない。いや、一つだけある。


「……ハンカチ発見と」


 ポケットに入っていたハンカチ。ほぼ唯一の装備品と言っても良い。それを床に置く。汚れてしまうなと思いながらもそれを足で踏み、感触が返ってくるか確かめる。

 これで同じ所を回り続けているかだけは確認できる。それを置いて再び歩き始めた。


 何時間経過したのだろうか。或いは何日? だと言うのに空腹を覚えないと言うのはやはり体感時間だけが引き伸ばされていて実経過時間は二三時間程度だと言うのだろうか。足元にハンカチの感触は返ってこない。延々変わらずコンクリートの硬い感触だけだ。そんな所を歩いていたら足も疲れそうな物だがその兆候は無い。

 一体この道はどこまで続くのか。そしてここはどこなのか。明かりひとつない通路を誠は歩き出そうとするが脚が萎えてしまった。肉体疲労では無く、精神的な疲労によって。人間は無為だと思える事に長時間時間を費やせるほど強くは無い。先の見えない道のりに肉体よりも心が先に悲鳴を上げた。


「一体どこなんだここは」


 ヴィクティムで目覚めた時の方がまだましだった。あの時は少なくとも周りが見えて、すぐに人とも会えた。だがここではそれも無い。叫んでも叫んでも返ってくるのは自分の声の反響だけ。その変わり映えのしない状況に疲れて誠は膝を抱えた。眼を閉じても開けても変わらない暗闇は容赦なく精神を削り取っていく。加えて自分が立てる音以外は無音と言うのもそれに拍車をかける。


 きっちり百を数えて誠はもう一度立ち上がる。今ここで意識を失ったら方向感覚を見失いそうだった。先行き不明でもせめて前に進まないといけない。


 歩く。

 歩く。

 歩く。


 テンポよく歩いていた足取りは徐々に重くなり、疲労があるわけでもないのに引き摺るようになっていく。余りに退屈なので歩幅を数えていた。――既に一万を超えている。約六キロ。その間ハンカチを踏んだ気配はない。つまりこの通路は環状だとしても少なくとも一周六キロ以上はある事になる。数えるんじゃなかったと誠は思う。延々と続く単調作業は誠の思考能力を奪っていく。


 歩いて歩いて歩き続けて。

 その終わりは余りに唐突だった。


 まるでコマ落ちしたフィルムの様に。暗闇から潤沢な明かりの下に。気が付けば手を突いていた右手の壁は無くなり、広々とした空間に立っていた。そして誠の眼前に立つもう一つの姿。


 全長十八メートルの鋼の巨人。漆黒の装甲に身を包んだ人ならざる者。


「まさか!」


 それは忘れるには短すぎ、且つ衝撃的な個体だった。つい先ほど叩きのめされた黒いヴィクティムそっくりなASID。それが何故こんなところにいるのかと身構えて、気が付く。

 違う。これは先ほどの個体ではない。細部が違う。先ほどのは八割がヴィクティムだとしたら、これは九割がヴィクティムだ。装甲の色は違うが似た形状は多くみられる。違いと言えば右腕だろうか。ヴィクティムと同じ形状の左腕に対して右腕は大分貧弱だ。限られた資材でどうにか形を整えたと言った様子だ。マニピュレーター部分も左腕が人の手の形をした五本指なのに対して右腕は爪先の様な三本指だ。そして何より、意思を感じない。ASIDからは生々しい程の意思を感じるのだ。これにはそれがない。


「二号機、って事なのか? 量産されてたんだなヴィクティム」


 これは大発見だと誠はほんの少し気分が上向くのを感じた。RERの活用は出来ないかもしれないが、筐体としてもヴィクティムは優秀だ。先日リサ達が撃破したジェネラルタイプのエーテルリアクターを搭載すれば相応の戦力として運用できるだろう。このヴィクティム型を見つけた事はここ数時間の憂鬱を吹き飛ばすには十分だった。


「――そんなに熱心に見上げて、どうしたんですか。誠君」


 聞き覚えのある口調。だが聞いた事の無い、まるでエコーが掛かった様な声。その声に誠は振り向いて、絶句した。


 そこにいたのは顔をまるで落書きの様に黒く塗りつぶした人物。その体格で辛うじて女性だと判別できるがそれ以外は何も分からない。ただ、誠の事を君付で呼ぶのはリサだけだ。だがリサの体型とは全く違う。この人物の体型はむしろ優美香寄りだ。その女性は歩みよって、肩が触れ合うような位置で立ち止まる。距離の近さは心の近さを端的に表すバロメーターだ。親しくない人間が密着してくれば大抵の人は不快に感じる。逆もまた然り。その距離は人それぞれだが、誠のそれは他人よりやや広いと自己判断している。こんな不審の塊の人物が近寄ってくる事は不快なはず、なのだが。不思議とそうは感じない。

 一体誰なのかと正体に悩む誠を更に驚かせる事態がおきた。


「いや、結構戦ってきたけどほとんど傷が無いなって」


 そんな声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だった。毎日聞いている声だ。付け加えるならば誠が毎日発している声だった。どこかから自分の声が再生されている訳では無い。間違いなく、自分自身が喋っていると言う事に気が付いて誠は混乱する。意味が分からない。一体どうなっているのかと喉元に手を当てようとしてまた気付いた。動かせない。まるで金縛りにあったかのように誠の意志では指先一つ動かせなかった。その癖身体は勝手に頭をかきながらヴィクティムの足元に近寄っていく。


「ほら。この前思いっきり爪先で蹴り上げたけど傷一つない」

「ヴィクティムは自動修復機能がありますから。丸ごと無くなったとか言わない限りは元に戻りますよ」


 自分の身体なのに自分の意思で動かない。まるで勝手に動くロボットの中に入ったかのよう。自らの身に起きた異常事態に誠は身体を震わせ――。


 ◆ ◆ ◆


 激痛で誠は意識を取り戻した。鼓動に合わせて一定のリズムで誠の頭が痛む。思わずそこに手を当てて顔を顰める。少し腫れ上がっていた。他にも腫れこそないが鋭い痛みが頭の中心に残っている。舌打ちしながら眼を開けた。暗い。だが先ほどまでの様な一筋の光も無いような闇ではない。薄暗さの中でもここが見慣れたヴィクティムのコクピットの中だと分かる。


「今のは……夢?」


 気を失っている間に見た胡蝶の夢だったのだろうか。それにしてはリアルだったと思いながら誠は身体を起こす。後ろの席にミリアが誠と同じように気を失っているのを確認。


「一体どれくらい気絶してたんだ……? ヴィクティム?」


 声をかけるが反応が無い。


「おい、どうした。ヴィクティム?」

《――》


 改めて声をかけても応答が無い時点で誠は意識を切り替えた。コクピット内の各種計器をチェック。全て反応なし。ヴェトロニクスが完全に死んでいた。どうやら機体からの電気の供給が途絶えているらしい。ヴィクティムの中枢ユニットは電力で動いている。ある程度は供給が途絶えてもバッテリーに蓄積された電力で稼働するはずなのだが稼働していない。理由として考えられるのはそのある程度の時間を越えてしまったか、稼働するための予備も壊れたかのどちらかだ。周囲がASIDに取り囲まれている可能性もあるが、動かないヴィクティムに乗っていても迎える結末が遅いか早いかの違いでしかない。

 外に出るしかない。そう決断してからの行動は速い。意識を失ったままのミリアを揺り起こす。


「ん……ご主人様?」

「ヴィクティムが動かない。一度外に出るよ」

「分かりました」


 誠の判断を信じているのか。単に意識がはっきりしていないのか。即答を返したミリアに頷き返して塵対策のヘルメットを手渡す。ヘルメットを着用した後ヴィクティムのコクピットブロックを解放する。緊急時の圧縮空気による解放装置を使ってコクピットブロックがばね仕掛けの様に飛び出した。


 幸い背中が上を向いていたらしい。滞りなく射出されたコクピットブロック着地の衝撃を堪えながら中から這い出る。どこかの施設内だと言うのが一見してすぐに分かった。上を見上げると赤い空。意識を失う直前の事を思い出すとここまで蹴り落とされたと言う事になるのだろう。見渡せば少し離れた所にカーゴ1が停泊しているのが見える。どうやらここは目的地と思われる施設の中らしい。あの黒いASID、ドッペルが追撃してこない理由は不明だが一先ず誠は懸念事項が減ったことに安堵する。


 まずはカーゴ1が無事だったと言う事。あの状況では他に手は無かったとはいえ、この内部に未知の驚異が潜んでいなかったのは僥倖だった。そしてカーゴ1が無事ならば取れる手は相当に増える。


『……ちらカーゴ1。ヴィクティム応答してください』


 ややノイズ混じりに。カーゴ1から雫の声がヘッドセットに届く。ヴィクティムが停止していてもこれは使えるらしい。


「こちらヴィクティム、柏木誠。機体損傷大。カーゴ1への収容を求む」

『こちらカーゴ1了解。直ちに収容作業を開始します。ドライバーの二人は艦内に戻ってください』

「ヴィクティム了解。と言う訳だミリア。一先ずカーゴ1に戻ろう」

「はい。……ヴィクティム、大丈夫かな……?」


 返事ははっきりと。だが後半は不安そうな顔をしながらミリアは言う。それはヴィクティムと言う戦力が大丈夫かと言うよりも、人工知能であるヴィクティムが無事だろうかと安否を気遣う声だった。ヘルメット越しにミリアの頭を軽く撫でながら誠は慰めの言葉を口にする。


「大丈夫だ。カーゴ1には修理設備もあるし、優美香が用意してくれた予備パーツもある。ちゃんと元通りになるさ」

「……うん」


 そう言われて気分が晴れたのか控えめな笑顔を浮かべるミリアを見て、誠はヴィクティムに視線を移す。ミリアを安心させるためにそう言ったものの、かなり希望的観測を含んでいると言わざるを得ない。

 ざっと見た限りでも機体中心部分の損傷が大きすぎる誠は思った。優美香が用意してくれたのは主に四肢の関節部分とかの消耗部品だ。戦闘を行えばどうしてもそこは消耗していく。ナノマシンで補修を行うがそれも完璧ではない。やはり確実なのは部品を交換しての修理なのだ。だが、ヴィクティムの中枢部分は半分近くがブラックボックス。優美香でさえ再現の終わっていない部分が多い。当然そこの予備部品はカーゴ1には存在しない。深々と穿たれた背部の穴とごっそり欠けた胸部の中身。臓物が食み出た様に幾本のケーブルが露出している腹部。この二カ所は果たして修理が可能かどうか。


 小さく首を振る。それは今考えても仕方のない事の筆頭だ。出来る出来ないの話ではない。やらなければいけないのだ。ドッペルが追ってこない理由は分からないが、ここから出る為にはもう一度あの個体と接触する必要がある。当然、戦闘は不可避だろう。その時にヴィクティムが動けなければ話にならない。一先ずは電源を供給してヴィクティムのAI部分を起動させるべきだろう。誠が気付かない様な事もヴィクティムならば気付けるかもしれない。

 カーゴ1から伸びたクレーンを見守りながら誠はヴィクティムのAI部分が無事である事を祈った。得難い戦力であると言う以上に、半年以上共に戦ってきた戦友だ。こんなところで失いたくは無い。


 ヴィクティムが大破してもやる事は変わらない。幸いと言っては何だがヴィクティムの仕事はここに辿りつくまで。そして帰り道だ。現状ヴィクティムを欠いてもこの施設の探索という点には問題が無い。調査隊が施設の奥へと進んで行く。そこに誠も同行する予定だったのだが、今はヴィクティムの修理が最優先だ。口惜しい思いを抱きながらも誠は損傷個所を改めて見聞する。


 素人目にも分かる程の深い傷跡。優美香の用意したヴィクティムの補修部品リストを見ても、やはり足りない。腹部の内部を通る引き裂かれたケーブルに関してはどうにか目途が付いた。ヴィクティムのRERで生成されたエーテルを供給するためのケーブルだが、それがメインとサブの両方が切り裂かれていた。ここを修理しない限りヴィクティムは動かない。ハイロベートを遥かに超える出力のエーテルを伝導させるためのケーブルはそれ自体が特別だ。アークの技術力ではその半分の性能も実現できていない。


 悩んだ誠が選んだ手段はエーテルカノンへのエーテル供給ケーブル。そのサブの方をRERから伸びるメインケーブルと交換する事だった。これで一応はヴィクティムを起動する事が出来る。

 その代り戦闘時の安定性は大きく欠けたと言わざるを得ない。RERからのメインケーブルも何か異常があれば即座にヴィクティムは停止してしまう。サブが無いので今度こそアウトだ。エーテルカノンも同じだ。こちらのサブを使ったので主系統に異常が発生したらエーテルカノンは使えない。


「機体全体へのエーテル供給、良好。一応、ここは何とかなったか」


 カーゴ1を通してモニタリングしたヴィクティムの状況を見て誠は安堵の息を吐く。動けるのと動けないのでは大違いだ。胸部に空いた大穴。その中身に関しては見当もつかない。そもそも誠はここに何があったのかも知らないのだ。それがヴィクティムを起動させるのに必要不可欠な物なのか、或いはなくてもごまかしが効くのか。その判断もつかない。


「柏木様。恐らくこのケーブルならば規格が合うかと」

「よし。繋いでくれ。コクピットブロックに電源供給」

「了解です」


 エーテル供給ラインも一応形にはなっているが完全だと言う保証はない。ぶっつけ本番で起動する前にチェックは必要だった。機体のステータスチェックは人の手でも行うが、やはり一番の専門家……ヴィクティム本人に任せた方が良いだろうと誠は判断したのだ。幸い、コクピットブロックとヴィクティムのAI部分は電力で稼働している。つまり、外部から電源を供給できればヴィクティムは目覚める。


「接続完了です」

「オッケー。カーゴ1からの電力供給開始してくれ」

「はい。電力供給開始します」


 低いうなりと共に、カーゴ1の電力ユニットがケーブルを通じてヴィクティムに電力を分け与えて行く。こんな時だと言うのに誠の頭の中には場違いな考えが浮かんでくる。エーテルと言う謎のエネルギーでこの機体は動いている。機体のモーターを動かし、装甲を保護し、それ自体が固形になって破壊現象を起こす。だがそれを統括しているのは結局、電気で動く制御システムだ。未知のエネルギーを既知の技術でコントロールしている。ASIDにはそんな物は無い。完全にエーテルのみで動いている。アシッドフレームの場合は後からヴィクティムと同様の制御ユニットを取り付けるのだ。そう考えるとヴィクティムはアシッドフレームなのだが、優美香の見立てではAIユニット部分はASIDと同一だと言う。ASIDがエーテルで動かしているそのユニットをヴィクティムは電気で動かしている。

 その共通項と差異は一体何なのか。ヴィクティムは一体どの様な意図で設計され建造されたのか。考えれば考える程分からなくなる謎だ。


『――多分それは彼を作った人が彼に――』


「っ!」


 唐突に襲ってきた頭痛に誠は頭を押さえる。一瞬、誰かの声が聞こえた気がした。その顔までは思い浮かべられないが懐かしい、誰かの声が。この痛みはつい先日、複数のジェネラルタイプによる都市襲撃の後のデブリーフィングでも感じた物だ。一瞬ふら付きながらも誠はどうにか転倒だけは避ける。


「柏木様。どうしましたか?」

「いや……大丈夫だ。少し疲れが出ただけだ」

「そうですか……。こちらは我々でも何とかなりますから、少し休まれては?」


 心配そうに言ってくる彼女――確か優美香の同僚でヴィクティムの整備を担当する女性だったはずだ。生憎と、誠は名前を覚えていない。少しは覚える努力をすべきだと感じながら、誠は気遣いに応えた。


「もう少ししたらそうさせてもらうよ。今はこいつが起きるのを待ってないとな。意外と寂しがり屋なんだ」

《否定。当機に寂しい、と言う機能は実装されていません》


 誠の冗談を待っていたかのように、電子音声がコクピットブロックと、頭部に付けられた外部スピーカーから聞こえた来た。その言葉に誠は唇を吊り上げる。


「おはよう。ヴィクティム。気分はどうだ?」

《おはようございます。マイドライバー。当機に気分と言う物はありませんが、ありとあらゆる数値が最低値を更新しています》


 その憎まれ口に誠は笑みを深める。まだ大丈夫だ。ヴィクティムが動く。俺たちは戦えると、誠は拳を握りしめた。

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