幕間 憤り

 演習場を後にし、王城内の自室へ向かう為に廊下を突き進む。


(……くそっ──)


 いつもなら耳にすら入らない石畳を踏み鳴らす自分の足音、動く度に軋む鎧の音すら不快に感じてしまう。


 自分自身を落ち着かせるため一旦立ち止まり、抜き身のまま手に持っている幅広の両手剣バスタードソードへと視線を向ける。そこで初めて、一部に亀裂が入っていることに気が付いた。あの男が放った魔焔甲弾フレイム・マグナムを受け止めた場所だ。


(なるほど……伊達ではないということか──)


 剣を下ろし、再び歩き始めようとした時、自分の背後に何者かがいることに気が付いた。普段であればこんな事は有り得ないことだ。


「オ、オルトレイン卿……」

「イソム卿か──」


 震えるような声に呼ばれ半身ほど振り返る。そこには身を縮ませるように背中を丸めた【ソルベ・イソム教官長】が立っていた。


「あの者をよく連れてきてくれた。貴公には感謝している──」


 私のその言葉で、ソルベはさらにその身を小さくする。元々は、細身だがそれなりに背の高い男なのだが、今は私よりも小さく見える。


「は──勿体なきお言葉……し、然しながら、アレは少々やり過ぎなのでは……」


 未だ震える声で、イソムは恐る恐るといった具合に口を開いた。どうやら彼もどこかから見ていたのだろう。


「ほう……そうか──」


 先ほどの一件の中で、理解し難いことは多々あったが、彼のこの発言でいくつか見当がついた。頭を垂れるイソムに正面から向き直る。


「トラフォード卿を呼んだのは貴公だな?」


 イソムの肩がビクリと揺れる。


「っ!?──慧眼恐れ入ります」


 どうやら予想通りだったようだ。レインズロットは恐らく偶然か、奴の動向に目を光らせているのだろう。それに、十字騎士クルセイダー聖騎士パラディンが剣を交えるなどただ事ではない。誰であれ事態の収拾のため助けを呼ぼうとするのは当然だろう。そのお陰で、私は要らぬ憤りを覚えてしまっているわけだが、彼の善意に罪はない。


「時にイソム卿、貴公が連れてきたあの男、名はなんというのだ?」

「は──タクマと言う名です。西の辺境より来たと聞き及んでおります」

「タクマ──か……」


 西の辺境というのは正直どうでも良いが、そのタクマという男には必ず制裁を与えなければならない。奇しくも同門の剣技を操るあの男だけは──


「それと、イソム卿。私に何か用があるのではないか? トラフォード卿の言っていた遣いというのは貴公なのだろう?」


 先んじて予測をしてみたが、目の前の男の態度からして今回も間違いではなさそうだ。


「おっしゃる通りにございます。トラフォード卿より、決闘に関する伝言を預かっております」

「決闘か……聞こう──」


 決闘──トラフォード卿立ち会いの、私とレインズロットとの一騎討ちとなるようだ。だがこれは好都合だ。悪いが利用させてもらう──


「日取りはトラフォード卿に任せると伝えろ。それと、レインズロット卿の了承が取れればで構わん。私から一つ条件がある──」

「は──条件と申しますと?」

「あぁ。簡単な条件だ──」


 私はこの時点で、この条件が承諾されるのを確信していた──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る