第二部 ──王都編──

第一章 ─十字騎士─

丘の都


 俺の旅も始まったばかりだと言うのに、最初に立ち寄った東の地で、まさかあんな事になるとは思ってもみなかった。お陰で用意していた食料も武器も何もかも、全てを失ってしまった。


 やっとの思いで中央の丘へと辿り着いた俺は満身創痍、世界見聞の旅も、早くもここで終わりを迎えるのかと覚悟を決めたその時だった。一人の丘の民ヒューマの女が、俺に手を差し伸べてきた。


 五百年前の大戦以来、他の種族に手を差し伸べるなんてことはありえない事だった。ましてや俺は海の民ドワーフだ。先祖は戦いを静観し、血で血を洗う彼等の争いから目を逸らした。だが、彼女はこう言った。


「恨みも妬みも、誰かが受け止め、止めねばなりません。ならばその責……私が背負いましょう──」


 彼女の手厚い看病の甲斐あって、俺は一命を取り留めた。おまけに、長旅に必要なものまで全て見繕ってくれたのだ。このままでは、情に暑いドワーフの名が廃る。


 俺は、先祖代々受け継がれてきた鍛治師としての腕を振るい、一本の剣を造った。生涯最高傑作といっても過言ではない一振りだ。あれ以上の物は、あれ以来造れなかった。


 そしてその剣を女へと渡し、丘の民ヒューマの都を後にしたその道すがら、一つの行列とすれ違った。


 王都へと凱旋する途中の騎士団の一団だ。同じような鎧を着た騎士たちが、ズラリと並ぶその様は、まるで大蛇のようであったのは今でも鮮明に覚えている。だが、俺が一番印象に残っているのはその先頭で馬に乗っていた一人の騎士だった。きっとその一団を取り仕切る隊長なのだろう。すれ違いざまに目が合った。その者からは、とてつもない圧力を感じた。剣の心得があるものなら、誰であれ感じることだろう。他の騎士たちとは明らかに違う、覇気のようなものを感じた。


 アレは、人と呼ぶには余りにも、その身に秘めた力量は計り知れない。



 アレは……人の皮を被った、化物だ──


 ダングレスト冒険記 第二章 丘の都

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