第二章 ─覚悟─

大戦と龍


 建国王ルシウスは暗殺された。


 共に戦った女の"森の民"エルフの手によって──


 その女の名はミラージュ。


 聡明なる森の魔女と謳われた月の同胞ムーンエルフの白き才女。


 ルシウスと共に、魔王と戦った五人の勇士の一人である。


 ルシウスを暗殺したミラージュは、それに激怒した丘の民ヒューマ達の手により火刑に処され、その生命を灰へと還した。


 この報復により、両種族の間に瞬く間にして戦火が拡がっていった。

 血で血を洗う争いは、長きに渡るものとなる。数で勝る"ヒューマ"はその物量で森を焼き払う。叡智に秀でた"エルフ"はあらゆる才を用いて打ち払い、時には病魔を拡げて猛威を振るった。


 しかし、この争いはそれだけでは収まらなかった。


 両者が疲弊した頃合いを見計らい、山の民ハイルディンが蜂起する。彼等は強靭な肉体と高い身体能力を有した武に長けた種族。最も数の少ない彼等ではあったが、疲弊しきった二種の種族にとっては一人一人が一騎当千の戦士である彼等の勢いを止めることは出来ず。未だ名も無き国の玉座は"ハイルディン"のものとなった。


 その証として王の手には、魔王を討ち取ったルシウスの剣をその手に納めることで、自身が王であることを主張した。


 ──栄冠耀く王の剣ダインスレイヴ──


 海の民ドワーフの手によって鍛えられた、金色こんじきを纏う伝説の宝剣。


 その輝きは希望を示し、その一振りはあらゆる邪悪を斬り祓う宝剣。これにより、長きに渡る争いは終わりを迎えるかと思われた。


 だが今度は、"ハイルディン"同士での覇権の奪い合いとなった。武こそ絶対と信じる彼等ハイルディンは我こそはと名乗りを上げ、互いに殺し合いその宝剣を我が物にしようと互いに争い続けた。


 だが更なる混沌が彼等を包み込む。覇権の争奪は"ハイルディン"のみならず、"ヒューマ"、そして"エルフ"までもが武器を取り泥沼と化していった。

 "ドワーフ"は早くに沈黙し、静観していた。陽気で情に厚い彼等にはその光景は耐えられず、南の地に篭もりその心を堅く閉ざしていった。


 三種族が入り乱れての、未曾有の戦乱は百年にも及ぶ大戦となった。


 時に討取り、時に欺き、時に勢い任せて蹂躙する。


 この戦いの終焉は、突如として現れた新たな勢力の手により治められた。


 ──"ドラゴン"──


 全身に鋼よりも硬い鱗を纏い、その鋭い爪は大地を割り、強靭な牙は岩をも砕き、広げた翼は地を覆うように影を作る。そしてその咆哮は、生きるもの全てを恐怖に震わせた。


 突如として現れた、紅い瞳を持つ四匹の龍は、無差別にヒトを喰い、潰し、その圧倒的な力を持って蹂躙していった。

 そして、蒼銀を纏った一体の竜が、覇権争いの核となっていた宝剣ダインスレイヴを奪い東の空へとその姿を消し、その他の龍も方々へと散っていった。これにより長きに渡った争いは唐突に終わりを迎えるのであった。


 "エルフ"は疲れ、西の森へと帰り自らの力でその森を封じた。

 "ハイルディン"は奪われた宝剣を追い、東の山へと流れていった。

 そして残された"ヒューマ"は、血と骸に塗れた国を治め、大陸中央に広がる丘にたける獅子の旗を掲げた。


 この争いは【人界大戦】という形となって人々の記憶に刻まれている。

 長きに渡ったこの争いは今も尚、種族どうしの間に軋轢を残している。



 ──ルクス王国建国史第二章 血塗られた玉座──

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