第十六話 一騎打ち【堅固】


「ザック! 右は任せましたよ。さっさと倒してダリルの援護に向かいます──」

「おうよ!──ってマコト!? おいちょっと待……って、聞こえてねぇか」


 マコトはこちらの返事も聞かずに走り出していた。人の話は最後まで聞くものではなかったのか。走っていく彼の背中を見送りながら、腰に携えた二つの片手斧ハンド・アックスを抜き放つ。


「けどまあ、俺は嫌いじゃないぜ。後先考えない熱い感じの行動はよぉ!──」


 聞かれていた悪態の一つでも言われるかもしれないような事を口に出しつつ、水柱を避けて再度ダリルに襲いかかろうと様子見をしているオークに向かって、左手に握っていた片手斧を投擲し、自分も血を強く蹴り突進する。

 飛ばされた斧は緩い放物線を描きながら、オークの足元に突き刺さる。


「ダァらぁああ!──」


 突然の斧の飛来に驚いていたところを仕留めようとしたが、こちらに気がついたオークはすかさず飛び退き、飛び掛りながら振り下ろされる斧を回避する。

 後ろ手に投げた斧を回収して、そのまま追撃するがこれも寸前で回避される。

 留まることなく立て続けに攻撃を仕掛ける。右で袈裟斬り、手首を返して逆袈裟、それに続くように左で斬りかかる。更に踏み込み、薙ぎ払うかのように左の斧を振り抜く。

 オークは避けの一手に徹していたが、横に凪いだ斧を避けられず曲刀で防ぐ。力の限り振り回したこの攻撃は、オークの腕ごと曲刀を弾いて態勢を崩す。


「オラァ!──」


 すかさずガラ空きの懐に前蹴りをぶち込む。オークは吹き飛び、背中で地面を滑っていくがすぐさま立ち上がる。


「お前の相手はこの俺だ!」


 休む間を与えまいと再度距離を詰めようとしたが、オークは反転して街の方へと走り出す。


「あっ!? おい、待ちやがれ!──」


 急いで後を追うが、オークの足が速く距離が徐々に開いてしまう。


「おい! どこまで逃げんだよ! ッぬあ!?──」


 オークが角を曲がりそれに続いて角を曲がった直後、目の前からロックウルフが背中の岩をこちらに向けた状態で突進してきた。

 咄嗟に腕を体の前で交差させて防御態勢に入る。

 ロックウルフの岩と腕が触れ合った直後、岩が次第に赤くなり、した。


 ロックウルフの肩に背負われている岩のようなものは、何らかの接触により爆発する。その爆発は岩の大きさに比例するが、ロックウルフ自体があまり大きい訳では無いので大したものにはならない。しかし、至近距離での爆発は流石に危険な為に対象には注意が必要だ。

 ちなみにロックウルフの皮膚はその爆発に耐えられるものとなっているらしいが、岩の再生にはかなりの時間がかかるらしく、必殺技の様な扱い方で戦術的に使用して獲物を仕留めるのが彼等のやり方らしい。


 爆煙から逃れるために後ろに飛び退いたが、煙の中から岩を失ったロックウルフが牙をむき出しにして飛びかかってくる。


「なろ!──っ!?──」


 すぐさま斧で振り払ったが、そのすぐ後からオークが懐に飛び込んできた。

 オークの曲刀が心臓を貫こうと近づいてくる。一応革製防具レザーメイルを着けているが、大して意味は無いだろう。


 オークの曲刀が防具を貫き、皮膚を裂こうとしたその瞬間。オークの握っていた曲刀は、刀身の真ん中辺りが折れ曲がり、真っ二つに砕け散った。


「悪ぃな──」


 目を見開いて驚きを隠せていなかったオークにそう言い残す。斧を手放してオークの突き出していた右腕を両手で掴み、力任せに振り回してうつ伏せになるように押し倒す。


「俺の身体、堅くてよぉ」


 これが、俺が手に入れた能力ちからだ。レンゾウの力が増加するのに対するように、身体が頑丈になった。そこらに転がっているような雑な武器なまくらでは傷すらつかず、ロックウルフ程度の爆発でもなんてことは無い。

 もともと打たれ強い体質ではあったが、それらが更に一層際立つ事となった。下手に魔法でドンパチできるようになるよりも、こちらの方が分かり易いし、俺としては好都合だった。


「この腕は貰ってくぜ! オラッ!──」


 オークの背に乗り、捕まえていた右腕の肘関節を関節が曲がらない方向へと折り曲げる。


 骨の鳴る音と肉が引きちぎれる音が混じり合う耳障りな音とほぼ同時に、オークが苦痛にもがきながら叫び声をあげる。


 オークの背から離れて斧を回収する。振り返れば、ダラリと垂れる右腕を庇いながら立ち上がろうとしていた。


「んじゃ、今度はもっと筋肉鍛えて出直してきな──」


 これを手向けの言葉として、背中を丸めて膝立ちになっているオークの首元に斧を振り下ろす──

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