第六話 勝利の条件



 レンゾウは器用にロランの攻撃を凌いでいた。流石のロランもレンゾウの重い身体を剣戟のみで揺らがせることはできない。レンゾウもしっかりと腰を落としてロランの剣を跳ね返している。


「いい判断だ。流石にレンゾウは堅実な剣を心掛けているな。ギャレットみたいな戦い方もできるかもしれないな。しかし──」

「っ!?──」


 ロランは斬撃から刺突に切り替えてレンゾウを攻め立てた。身体の大きなレンゾウは的が大きい。おまけに刺突のような点での攻撃は盾でもない限り防御は困難だ。レンゾウも嫌がり思わず後退せざる負えない。ジリジリと追い込まれていく。


「そろそろ終わらせようか。はっ──」


 ロランが一際速い刺突を繰り出してレンゾウに一撃を与えようとした。レンゾウも紙一重というところで凌いでいるが、限界かもしれない。


「よく頑張ったが、これで終わりだ!──」

「させない!──」


 レンゾウの胴体をつこうとしていたロランの剣を下から打ち払い、木と木がぶつかる鈍い音が響き渡る。


「おっと、終わってしまったか。なら見せてもらおうか。マコトの自慢の作戦を」

「ああ、じっくり見せてやるよ! だらァ!──」


 ザックが横からロランに飛び掛る。先ほどと同じく猛攻でロランに攻撃させる隙を与えない。


「なんだ? 目くらましもしないのか? ならさっきより減点するぞ?」

「誰もしねぇなんて言ってねぇし、つーか減点ってなんだよ!?」


 会話しながらもザックは手を止めず攻め立てロランの注意を自分に向かせる。その間に俺はロランの視界に入らぬよう背後に回る。

 この手は、グラとコラが先ほど難無くあしらわれている。俺達が試しても返り討ちは必須だろう。が、それも想定内だ。


「はぁ!──」


 ザックが攻撃している中、背後から刺突を放つ。ロランはこれも横っ飛びして回避する。


「甘いなタクマ。それもさっき見てただろ?」

「ああ、分かってるよ!──」


 ロランを追撃して剣を打ち合う。ザックのような豪快さはないが、正確にロランの嫌がりそうな場所、動きを封じられそうな場所に打ち続ける。ロランも負けじと返してくるが、レンゾウと打ち合っていた時のような勢いは無い。


「全く、いい剣だ。いや、嫌な剣だな」

「教えた人が優秀なんだよ」


 更に剣を打ち合う。ロランは楽しんでいるように見えるが、それでも真剣にこちらの剣を受けている。先程よりもこちらの挙動を警戒しているのか隙がない。


「はぁ!──」


 この状況を打開する為に少し強引に踏み込み剣を振り下ろす。だが、待っていたかのようにロランに受け止められてしまった。


「準備さえしていればどうということもないさ。そら!──」


 俺の剣を跳ね返し、今度はロランが前に踏み込み横薙ぎに斬りかかってくる。それを後ろに飛び退き間一髪回避し距離を取ろうとするが、ロランは逃すまいと追撃してくる。

 ロランの連撃は凄まじく、受けた剣ごと持っていかれそうなほどの重さだった。レンゾウはこれを受けきっていたのかと思うと感心してしまう。


「はっ!──」

「しまっ!?──」


 ロランに下から剣を打ち払われて無防備になってしまった。そこにトドメと言わんばかり刺突を繰り出そうとしていた。


「だらぁああ!──」


 今度はロランの真横からザックが木剣を投げつけた。木剣は一直線にロランに飛んでいく。しかしロランはこれを剣で打ち払い、木剣は空中に舞う。


「おっと、危ない危ない」

「余所見厳禁!」

「してないさ──っ!?」


 俺の声に反応するかのように向き直ったロランは剣を構えて受け身の体勢になるが、俺は剣先で砂を巻き上げてロランに目くらましを仕掛けた。


「はぁ!──」

「くっ──」


 横薙ぎに剣を振るいロランに襲いかかるが、ロランは後ろに飛び退き回避する。


「だぁああ!──」

「なにっ!?」


 ロランが飛び退いた先で待っていたのはレンゾウだった。レンゾウの一振りを防ごうと剣を構えたが、体勢が不十分だった為に剣を吹き飛ばされる。


「ふん!」


 レンゾウはやってやったと言わんばかりに、鼻を鳴らしながら剣を構えた。


「これで勝負ありだ。ロラン」

「お見事──」


 ロランの背中に木剣を突き、ロランは両手を挙げた。


 三対一ではあるが、ようやくロランから一本とることが出来た。午後から始めたこの稽古も、気がつけば日は傾き始めていた。


「実力も経験も圧倒的に違う格上相手に真っ向から挑んでも勝機など皆無です。勝つ為には意表を突いた攻撃でスキを作り、その一瞬をものにしなければなりません。ですが、もう少しスマートにこなして欲しいものですね。見ていてハラハラしましたよ」


 マコトがメガネに手を当てながら近づいてくる。


「何言ってんだよ眼鏡野郎。レンゾウが剣吹き飛ばした時にガッツポーズしてたじゃねぇか」


 ザックもいつの間にか剣を拾って来ていた。あれでダメだったときはすぐさまザックと挟撃するつもりでいたが、ザックと上手くやれるとは到底思えなかったので、レンゾウには感謝しかない。


「レンゾウのお陰で勝てたみたいなもんだな。ありがとうレンゾウ」

「うん……」


 俺の感謝に照れたのか笑みを浮かべていた。その表情は戦士の顔をしていた先程までとは違い、少年のような朗らかな笑顔だった。


「いやぁー、巡回が暇すぎてどうしてやろうかと思ってたが、いい感じで腹減ってきたぜ、今日のユーリアの飯はなんだろうな。おい、行こうぜみんな!」

「そうですね」

「お腹、空いたね」


 皆が揃って宿舎に帰ろうとしていた。俺も今日は疲れた。午後からロラン相手に模擬戦を二回も繰り広げた。俺も疲労で身体が重たい。早く横になって眠りにつきたい。


「タクマ──」


 皆に続いて宿舎に戻ろうとした時、ロランに呼び止められた。


「ん? 何、ロラン」

「ああ、飯食う前に、ちょっと付き合ってくれ」


 そう言って彼は、ある場所へと歩を進めた。

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