第3話 知らない記憶との邂逅
シキは何の変哲もなければ優れた才能があるわけでもない、いわゆる普通の女子高生だ……という風に、シキは自分のことを客観的に分析しているつもりなのだった。
実のところ、彼女は特に容姿において普通の女子高生とは到底言い難い。ただ、シキは自分のことについては何事も過小評価する傾向があった。
黒い艷やかな髪を肩の辺りで適当に切りそろえ、化粧どころか口紅の類も使っていないあたり、自身を美しく見せようという気は皆無なことはよく分かる。ただ、それでも他の少女たちから
全体的な顔立ちの印象は、少しだけ濃い眉と若干目尻がつり上がっているせいもあって、中性的な雰囲気をかもし出している。それでいて、黒い瞳は磨かれた黒曜石のように輝き、丸みを帯びた顔の輪郭と専用にしつらえられたような
普段の、常に遠くを見つめるような儚げな表情も相まって、彼女は校内でも評判の高い美少女なのだった。ただ、その表情や他人からの干渉を拒むような態度や雰囲気から、観賞はされていても友達になろうとする人間はあまり多くはなかった。
実際、彼女には幼い頃に死別してしまった幼馴染、とても中の良かった少女との辛い別れが心の奥にしこりのように残っていて、親しい存在をを作るといった行為を無意識に拒絶してしまっていた。
シキ自身は、その感情が表に出ているとは思っていなかったが、周りがそれを感じ取ってしまっていたため、自分の容姿について褒められる機会が無かったのである。 仮に自分の容姿についてを話す相手がいたとすれば、この子はなにを言っているんだろう……と思われたのは間違いなかった。
そんな彼女の今の格好は、飾り気のないラフなTシャツとハーフパンツという組み合わせである。特に運動などをしようと思っていたわけでもなく、自分が多少中性的な顔つきであることを意識してボーイッシュさを強調……させようという意図も全くない。
服そのものも安い品を優先して購入しており、色々と年頃の少女としてはどうなのかと思わざるを得ないのだが、それでもシキが着れば様になってしまうのだから、ある意味余計にたちが悪いと言えなくもない。誰も彼女の着物の選び方が適当そのものだと思わないせいで、そのことを問題視することもないからだ。
ともかく、彼女が日常と平穏から
シキの父親は研究で忙しくて家に帰らない日さえあるし、母親もシキが幼い頃に死去している。であるからして、父親の分も含めて家事や買い物はシキの担当であり、いつものことだった。
(でも、もうそういったことはどこまで可能なんだろう……天使が現れるのは、人間の科学技術が魂をエネルギーへ変換するプロセスに成功したため。ただ、天使がそれを禁忌として人類を殲滅するつもりなのか、人類がそれを使うに値するかを試しているのかは、現時点では不明……)
天使の出現直後は頭が真っ白になって思考を停止していたはずだったのに、エリゴール、エリーが続けて現れた瞬間からシキの頭に知識が溢れていく。不思議と、自分が混乱して妄想に取り憑かれているなどとは、微塵も感じない。
ただ、自分の知識であって自分の知識ではない、という完全に矛盾しているはずの感想を抱く。
(悪魔と呼ばれる対天使機甲。天使と同じく、それまで判然としていなかった魂をエネルギーへ変換する能力を持ち、それによって位相空間に本体となる魂を置くことで既存の兵器では倒せなかった天使を、現実空間に存在する分身から本体の魂へアクセスし、自身のエネルギーへ変換することでその存在を狩り、そして喰らう)
天使を糧とすることで活動する人型機動兵器、それが悪魔と呼ばれる魔人機たるエリゴールなのだと、シキには分かった。
分かってしまう以上、エリーからの提案を見過ごすことは出来ない。天使を狩ることが出来るのは、今はこのエリゴールしかない。だからシキは、自らの意志でエリーと共に戦うことを選んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます