第2話 エリゴールの回想 その1

 は、とても頭の回転が良くて物分りもいいようだ。

 平行世界の同一人物でも、その程度の違いはある。初見での違和感からは、その位にしか想定していなかったのだが……

 しかし、それは大きな間違いだったようだ。


……か。多分頭が良いとかそういうんじゃない……

 彼女が見てきたシキの中でも、今回のシキがおそろしく日常外の異常な事態への適応が早かったのは、彼女自信の適応力がうんぬんというより、その影響が大きいのだろう。

(説明を省けるのはいいけど……隠し事なんかも出来なさそうなのはどうかなぁ)

 とはいえ、自分を見て恐慌状態になられた場合は最初の方がやたら厄介なのだ。うまく丸め込めるという利点もないわけではないが、とはいえそこにたどり着くまでがやたら長いし、警戒心を解くのに手間がかかる。

 どちらの方が楽かと言われても、正直な所よく分からない。


 



 そのときのエリゴール、エリーは自身の姿が事情を知らない人間に与える威圧感とか、圧迫感といったことにまで気が回らなかった。

 それよりも、シキにまた会えたことの悦びが勝っていたので、彼女の様子がおかしい理由を全く考えていなかったのだ。

「こ、こっちにこないで!」

 今にして思えば当たり前の反応である。姿、異形の巨人型機動兵器に接近されて親しげに声をかけられたからといって、それだけで警戒心が無くなる方がむしろどうかしている。

 だが、エリーはまだそのような対応に慣れていなかった。しかも、相手は最愛のシキなのだから。どうしてそんなことを言うのかむしろ理解できないでいた。

「逃げないで! 私は貴女を守りに来たんだよ!?」

 その言葉を、二人目のシキは無視した。もっと理性的に説明を重ね、彼女をまず精神面で納得させなければならなかったのだが、このときのエリーはそのシキの対応に衝撃を受けて冷静さを欠いてしまった。

(なんでシキが私から逃げるの……? なんで逃げるの……!? なんで、なんで、なんでよ!?)

 そして………………………………………………………………………………………


「これでシキは、私から逃げられないよね……」

 それはそうだろう。エリーは逃げるシキを引き止めるだけのつもりが、力加減をあやまって両脚を握りつぶしてしまったのだ。

 シキは逃げるための脚を文字通り無くし、その痛みと恐怖で狂乱していたが、やがて動かなくなった。

「これでやっと、私の言うことを聞いてもらえるよね……どうしたの、シキ? どうして黙っているの……? ねえ、返事をしてよ。乱暴なことをしたのは謝るから……ね?」

 エリーが、シキは単純に力尽きて動けなくなったのではなく、痛みと出血によって狂乱の果てに死んだのだと理解したのは、それからしばらくしてのことだった。


 シキを守るために今の姿になったエリーは、それまで人間が自分と比べてそれほど脆く儚い存在であるということを、失念していたのだった。



 守りたかったシキを自らが殺した。それは、エリーにとって苦い教訓になった。それからは、次のシキに会う時はもっと理性的に状況を理解してもらえるよう、言葉を尽くすことにしたのだった……

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