対天使機甲・機動魔人エリゴール

シムーンだぶるおー

第1話 悪魔は人型の兵器となりて君を欲す

 ある日世界は一変した。人は天使にその文明ごと駆逐されることとなった。

 その姿は、人型の天使が神々しさと同時に人に裁きを下す冷酷さをもかたどって、十メートル以上に巨大化させればこうなるのだろう、とシキには思えた。

 阿頼耶あらや=シキ。日本の四季と書いてシキと読む。名前こそ大仰おうぎょうではあるが、特別でも何でもないただの女子高生……であったはずだ。


 なぜ私は、今起こったばかりのこの世のものとは思えない光景を、突然異世界に飛ばされたと言われた方がまだ納得がいくはずのことを、こうも容易く現実として受け入れているのだろう……


 そしてなにより、目の前に自分を守るように巨躯を折り曲げて存在する、巨大な人型の悪魔。そう、これは悪魔なのだ。たしかに、姿は異様で威圧感に満ちているし四肢が全体的に刺々しい。背中から生えた黒い羽根はコウモリに近く、天使の鳥のような翼とは明確に形も異なっている。

 ただ、そんなことを考えるよりも早く、速く、はやく。これが私たちを救いに来た悪魔なのだと、脳裏に浮かんでいた。そして、この存在以外に天使を殺せる存在はいないのだと理解している。

 それも分からない。そう理解してしまえた理由もそうだが、どうしてこの存在はわざわざ自分のところに来たのだろう?

「……なぜ私を選んだの?」

「貴女が私の担い手として、一番相応しいから」

(これは嘘……)

 直感だった。この存在は自分に対して敵意は抱いていない。だが、悪意のような不可思議な感情を抱いている。だから自分を選んだ。自分の能力を引き出すのに相応しいからなどとは、欠片も考えているわけではない。

(なんでそんなことが分かるんだろう……)

「……いいよ、アナタが嘘をついていることは分かるけど、この状況をアナタ以外ではどうにも出来ないことも分かるから」

 その言葉に、目の前の悪魔はほんの一瞬だが怯んだようだった。あっさり嘘が看破されたこともそうなのだろうが、シキが今の状況に完全に適合してしまっていることに驚いたようだ。

 とはいえ、それはそれで手間が省けたということか。気を取り直したように、彼女は話を再開する。

(そういえば……なんで私はこの悪魔が女の子だと分かっていたの……?)

「………………じゃあ説明は不要かな……エリゴール。それが私の名前……エリーって呼んで」

「エリー……?」

(既視感がする……その名前も知っていた? ……いえ、むしろなんだかとても懐かしいような、それでいてとても馴染み深い名前のような、そんな気がする)

「じゃあエリー……さっそく天使を狩りましょう」

「……なんで私が主導権を握られてるんだろう。……このさい、手間が省けるからいいけど」



 そうして、今まさに巨大な天使によって行われている凶行と、それによって燃え崩れ壊れていく街並み。逃げまどい、あるいは今までの常識とかけ離れた事象に恐慌を覚える人々。

 そういった人々とは完全に隔絶した世界で、彼女たちは出会いを果たした。

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