第16話昔の男
優衣は、会社で残業していた。
人事課に配属されて二年が経過していた。
課長の隣でクビになる人間、採用になる人間。
色々な人を見てきたが馴れないものだと思った。
人事課は、人の未来を輝かせる一方でもう一方ではリストラ候補者を探している。
孝は、順調に出世している。
そんな時に優衣をどん底に陥れた男が人材派遣を通して面接に来た。
ずいぶんと痩せて生気が無かった。男は優衣に気づかない。
課長は、
「ありゃあ、ダメだと」
言ったが優衣が押して入れた。
一番、過酷な労働をさせる課で…。
研究者の補助をする課に回した。
あの研究室はエリートの塊だが1日で辞める人間ばかりだった。
とにかく、派遣を人間だとは思ってない人間達の集まりだ。
「武田さん、頑張って下さいね。」
「はい…。」
武田守、40歳、妻子ありの元大手企業のシステムエンジニアだった。
やはり武田は、1日で辞めたいと言ってきた。
「武田さん、もう少し我慢してもらえせんか?」
「あそこにいるぐらいなら死んだ方がマシです。」
武田は、疲れきっている。
「臨時でお給料もアップしますんで。」
「分かりました。」
と言い残して部屋を出て行った。
昔は、傲慢で自信家だった男が台無しだ。
骨の髄まで浸かってねと優衣は呟いた。
一週間が経過して武田は、髪の毛が真っ白になりさらに痩せていた。
「そろそろ、クリスマスですね。お子さんにクリスマスプレゼント買いました?」
「妻も子供もいません。出て行きました。」
「そうですか…。」
やっぱり一人か…。
じわじわ死に向かっている武田を見てると笑わずにはいられない。
散々、優衣を振り回して最後には結婚すると言って去った男だった。
それから優衣は男を信用出来なくなったのだ。
地獄は、これから…。
武田は、作業中に塩酸を被って顔に大火傷を負った。
救急車で運ばれた。優衣が救急車に一緒に同乗した。
「武田さん、頑張って下さい。」
と心にも無いことを優衣は言った。
病院に着いた時には武田は気絶していた。
治療室に入った。
優衣は、少し思案してもう一人の男に電話を入れた。
奇跡的に命に別状は無かったがのっぺらぼうみたいな顔になった。
包帯を取って鏡を見ると武田は半狂乱になった。
「武田さん、頑張って下さい。」
「あんた、どこかで?」
「気がつきましたか?」
「浅川優衣…。」
「覚えてたんですね。」
「これは復讐か?」
「そんな事は考えていません。元気になられたら、またうちで働いて下さい。」
優衣は、にっこりと笑顔で言った。
次の日、武田守は飛び降り自殺した。
病院の屋上から…。
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