人造(?)エネミー
「さっちゃん言うんじゃないわよ」
「⁈」
ドアの向こうから女性の声がした。
「…パソコン部あたり、残ってたのか?」
「違う違う。さっちゃん。貞子」
「…頭打ったか?」
「打ってないから。大丈夫大丈夫。さぁて入りましょうか!」
ドアを開ける。
コンピュータ室のパソコンの画面全てに長い黒髪で顔の片側を隠した女性が映っていた。
「さっちゃん、なんてあだ名で呼び合う仲になった覚えはないのだけど?」
「いいじゃんかー」
「大体、ちゃん付けで呼ばれるほど若くはないわよ」
「デスヨネー!」
「実琴君、今すぐそこの人魚姫幹部を殺しなさい」
「ごめんなさい」
…………いよいよついていけない。
「む、その様子だと全くと言っていいほど!こいつから!説明を受けてないみたいね‼︎」
深く頷く。
「えっ、説明したじゃん」
「どうせ人魚についてと血刀についてだけ、しかも種類程度しかしてないでしょ」
頷く。
「それだけでも十分じゃない⁈実琴の裏切り者ー!」
「馬鹿!十分な訳ないでしょうが!〈商店街〉の割引券あげないわよ!」
「それは勘弁!」
…………わけがわからない。
さっちゃん、もとい貞子の追加説明によると。
・人魚達には所謂親玉のような存在…通称「人魚姫」がいること。(人魚姫について貞子が話そうとした時、何故か樹が貞子の口を押さえたため、詳しくは不明)とりあえず、当代の人魚姫を倒すことがこの騒動を終結させる手だという。
・樹は元人魚姫直属の幹部だった。本人曰く、双神家前当主である
・実琴が得た血刀、妖刀明星以外の血刀六種は、実琴が生まれた際に資金難に陥った双神家が売り飛ばしたとのこと。売り飛ばすな。一応、みそぎ町内にあるので、再びそれを取り戻すことから始めなければいけない。
「一応はこんなところかしらね。分からないことがあったら携帯から聞きなさい」
「ありがとうございます」
とてもわかりやすく、かつ丁寧な説明だった(当社比)。
「まずは怠惰の銃からがいいでしょう。ここからそれなりに近い教会にあるから」
自然に画面から出てきて地図を渡される。赤丸が付いている場所に血刀がある…ということなのだろうか、よく見るときちんと赤丸の下に血刀の名前が書いてある。
「有能過ぎません?」
…隣でぶーたれてる元幹部とは大違いで。
「あなたも大概失礼ね。…あぁ、あとコレも渡しておきましょうか」
よくある紙でできたポイントカードを手渡された。「〈商店街〉ポイントカード!」と書かれている。
「怠惰の銃を手に入れた後にでも行ってみなさい」
「流石に商店街は知ってますよ?」
「あなたの言う商店街と〈商店街〉は同じようで違うから、まぁ楽しみにしてなさいな」
コンピュータ室を後にする。
窓からは西日が射している。
教室で起きてからそれなりに時間がたったと思うが、それにしたって静かだ。
部活動の賑やかさも人魚の呻き声も聞こえない。
オレと樹以外、誰もいないのだろうか。
「あれ、実琴ったらセンチメンタルな気分?」
「……どうなんだろうな」
「…………まぁでもさ」
「?」
「このまま学校にいるんじゃない、進む道が見えて良かったじゃんか」
「……」
そうなのだろうか。
「そうそう!とりあえず、前向いて行きましょ!」
そう、君は前を向き続けなければいけない。
たとえ、誰が敵になろうとも。
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